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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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モスクワ動物園の奏でるPolyphony ~ ロシア的混沌は続く

モスクワ動物園の奏でるPolyphony ~ ロシア的混沌は続く_a0151913_1857059.jpg
Image(C) Государственный интернет-канал "Россия"

いよいよもって真相がわからなくなってきた今回のモスクワ動物園でのウランゲリ負傷事件です。モスクワ動物園はHPに新しい見解を素っ気無いくらいに簡単に掲載しました。その内容は、「内部調査してみたがウランゲリの傷が銃の発射によって生じたものだとは推定できない。獣医もこの傷が銃創であるとは確認できなかった。この傷が何で生じたかを確認するためにはウランゲリを(麻酔)で動かないようにして検査することだが、彼の健康を考えるとそれはできない。この状況下ではいたしかたないので今は傷の状態については様子見の状況であるが、傷は回復しつつある....。」こういうことです。前回ウランゲリの傷の写真を何枚も掲載し、そして銃の発射があったと推定される建物の写真まで掲載して今回の事件の概要を伝えた前回の雄弁な内容と比較すると大きな違いがあります(前回のHPの記事は、掲載自体に大きな問題があると思われる問題の建物の写真を含めそのまま削除されることなく現在も閲覧可能です)。

このあまりに素っ気無い新しい発表に不満を持ったらしいロシアのマスコミはさらに報道を続けています。 まずインターファクス通信は「内部調査っていったい誰がやったのか? ウランゲリの傷が銃創でないなら、いったい何だというのか? 何が原因なのか? 獣医はなぜこれが銃創ではないだろうと言うのか?」とモスクワ動物園に取材を続けたらしい記者に対してモスクワ動物園の答えはこうです。「内部調査を行ったのは動物園の保安担当部門(Служба безопасности зоопарка)である。獣医は今回の調査で、まず視診を行った。そして獣医の言うにはこの傷はвозрастные язвыが原因と思われるそうだ。」と記者に回答したわけです。 возрастные язвыがいったい何なのか、ロシア語の辞書にもあたりましたが正確な医学用語が見つかりません。あえて訳すと「加齢潰瘍」とでも訳したらよいのでしょうか。

ウランゲリの傷は発砲による銃創であることを一応は否定してみたものの、真相はウランゲリに麻酔をかけて診断しないとわからないと言う一方で、それはできないという今回のHPの発表。一方で、治療のためにも麻酔をかけて手術をする必要があると主張する飼育部門の責任者。

昨日になって動物園を訪れたトルード紙の記者は動物園のスタッフにいろいろと話を聞いてみたそうです。ある一人の関係者は匿名を条件に以下のような内容を記者に答えたそうです。 「(あの建物から)弾丸が飛んできた以外に、この事件の説明はありえない。 あそこには我々とは異なる種類の特殊な人々が住んでいる。彼らはモスクワの中心でホッキョクグマ狩りでもしているつもりなのだろう。そして明らかに今はその犯罪行為を隠蔽しようとしているのさ。」 このスタッフは、モスクワ動物園の上層部がやはり、あの建物に住む治安機関関係者を怖れて早くこの事件の幕引きを行おうとしていると理解しているようです。

今回の事件でわかるのは、モスクワ動物園というのは情報の統制がうまくいっていない組織だということですね。事件の発端だったらしい10月下旬から今頃になっての大騒ぎ。そしてマスコミが報道し始めた途端に発砲の可能性を否定しようという管理部門。しかしもっと重要と思われるのはモスクワ動物園というのは、そうしたいくつかの異なる情報をあえて統制しようという気もあまりないような気風だということです。組織としての飼育の各分門の担当者は職人肌が強く、そして各部門もかなり個性の強い人間の集団から構成されているらしいということですね。統制されることなく色々な人間がいろいろなことを言いながら事態が進行していく....これはまさにミハイル・バフチンの「ポリフォニー論」さながらの状況です。こういうのはスラヴ社会独特の状況でしょうか。モスクワ動物園の奏でる音楽は、まさにPolyphonyであると言ってよいかもしれません。

普通の場合だったら私はこの「ロシア的混沌」を大いに楽しんだことでしょう。しかしウランゲリの体に傷があることは事実であり、彼のことを思うとあまり楽しむ気にはなりません。本当にあの建物に射撃手がいるのであればウランゲリの今後が心配です。

1頭のホッキョクグマに関する事件を追うことでその国の社会と文化が見えてくる....実に興味深いことです。 

ロシアが生んだ作家は、やはりスタンダールではなくドストエフスキーだったのです。

*(資料)
Лента.Ру (Nov.16 2010)
Комсомольская правда (Nov.16 2010)
Интерфакс (Nov.16 2010)
Газета Труд (Nov.17 2010)
by polarbearmaniac | 2010-11-18 01:00 | Polarbearology

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