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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

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高齢のデビーを愛し、慈しみ、送った人々 (下)

高齢のデビーを愛し、慈しみ、送った人々 (下)_a0151913_2033333.jpg
(C)Assiniboine Park Zoo

前投稿よりの続き)
2008年の11月に入りデビーには臓器障害と見られる兆候が見られはじめます。そして状態は悪化に一途を辿るのでした。最盛時には300キロあった彼女の体重は大きく減少していました。障害は多臓器に及び、とうとう動物園としては、彼女がこれ以上苦しまないように11月17日に安楽死させるという最後の悲しい決断をすることになりました。デビーの最後を見守るために動物園の多くのスタッフが集まり、彼女に最後の別れを告げたのでした。デビーはそこにいるどのスタッフよりも長くこの動物園にいたのです。何人かはデビーを10年も20年も飼育担当として世話してきました。デビーの最期の瞬間を、この動物園の飼育責任者であったロバート・リグレー氏はDebby’s Story - A Special Polar Bear and her Legacyという文の中で以下のように書いています。そのまま引用いたします(私などの下手糞な翻訳など付ければ、せっかくの描写が台無しになりますので訳は一切付けません)。 これを読んで心を動かされない人がいたとしたら、その人の心は木屑にも等しいといってよいでしょう。

“....it was a very emotional time for all that knew this gentle giant. As she slumped down for the last time, under anesthesia, there were few dry eyes among the staff in attendance. When it was safe to enter her enclosure, two of her long-time zookeepers were permitted to stroke Debby in a comforting gesture – something of course they had never been able to do before.”

デビーの死が動物園から正式発表されると同時にカナダ中のマスコミは彼女の死を大きく報道しました。一般の人々からも彼女の死を悼む声に満ち溢れ、動物園に対して数多くのメールが送られました。(映像のニュースとしてロイター通信のニュース、及びCTVのニュースをご覧下さい。後者はCM終了後しばらくしてから開始します。) デビーのお別れ会の日はひどい寒風が吹き荒れる日であったものの、多くの人々が訪れ彼女の死を悼んだのでした。60年代の子供の時に動物園でデビーに会った人で、彼女のお別れ会には孫を連れてやってきた人すら多かったそうです。以下の映像は地元の住民がデビーのいなくなった飼育展示場の前で今は亡き彼女に歌いかけ、彼女を悼んでいる映像です。


彼女の遺骨の灰は、あのチャーチルに近いゴードンポイントというハドソン湾に面した海岸に撒かれました。 彼女はこうしてホッキョクグマの故郷である北の氷の海に戻ったのでした。 亡くなったホッキョクグマに対してこれ以上の素晴らしい埋葬を考えることは不可能でしょう。 以下はそのときの様子です。


1頭のホッキョクグマの死に対して多くの人が深くそれを悼み、そして心から送った例としては、これからもこのデビーの例以上のものを見出すことは難しいでしょう。 いかにデビーが人々に深く愛されていたか、それをよく示すものであると同時に、カナダの人々のホッキョクグマに対する想いの深さをも知ることができるのです。

*(追記) 私は先日1月7日の「サツキ、産室から出る... ~ ホッキョクグマの歴代最高齢出産成功記録は35歳11ヶ月?」の投稿で史上最高齢出産成功のホッキョクグマは35歳11ヶ月という記録について投稿しましたが、その根拠となる”Reproduction of Sexual Behavior of Polar Bears in the Kazan Zoo Botanical Gardens) という研究報告の中で当時ソ連の研究者であるマリノフ氏がこれについて言及していることを御紹介しています。 ここでマリノフ氏はアメリカのデトロイト動物園での記録だと記述していました。 このホッキョクグマについては、このカナダ・アシニボイン公園動物園の飼育責任者でありマニトバ自然博物館の責任者の一人でもあるロバート・リグレー氏はデビー追悼の文の中で史上最高齢のホッキョクグマとしてデトロイト動物園で飼育されていたホッキョクグマの43歳10ヶ月という記録を述べています。 リグレー氏が根拠としているのは、”Longevity of mammals in captivity; from the living collections of the world. Kleine Senckenberg” Weigl, R. 2005. という研究書ですね。 この「史上最高齢出産成功例」と「史上最高齢」のホッキョクグマはいずれもデトロイト動物園ということですから、これは同じホッキョクグマの個体の記録について述べていると推定するのが正しいと思われます。つまり、「史上最高齢で出産成功」したホッキョクグマのある個体が同時に「史上最高齢」記録保持者であったということだと考えられます。 私は「史上最高齢出産成功例」についてはいまだに懐疑的ですが、「史上最高齢」について43歳10ヶ月というのは正しいだろうと考えます。 リグレー氏はあと1頭、長寿のホッキョクグマとして42歳を達成した南アフリカ・ヨハネスブルク動物園の個体の例を挙げています。 少なくともデビーは42歳まで生きたわけですから、それより1歳20ヶ月前後上の記録を持つ個体が存在していても不思議ではないからです。 デビーは野生で生まれたため、1966年の11月生まれなのか12月生まれなのかは不明です。12月生まれとすれば正確には42歳に少し足りないわけです。そのために私は今回はデビーを「史上第3位の高齢生存記録」と記しておきます。 しかし第2位である可能性は残ります。 

(*追記2) この件に関してはその後に検討を加え、2012年9月7日付けの投稿にも記載してありますのでご参照下さい。


*(資料)
NatureNorth.com (Debby’s Story - A Special Polar Bear and her Legacy) by Dr. Robert E. Wrigley
CBC News (Aug.11 2007)
Zoological Society of Manitoba (Debby - Celebrating her life)
CTV.ca (Winnipeg Aug. 3 2008)
CBC News (Sep.12 2008)
CBC News (Nov.18 2008)
CTV.ca (Winnipeg Nov. 18 2008)

(過去関連投稿)
「ホッキョクグマの歴代最高齢出産成功記録は35歳11ヶ月? ~ サツキ、産室から出る...」
by polarbearmaniac | 2011-02-08 09:00 | Polarbearology

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