街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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モスクワ動物園のムルマ(3) ~ 初産、そして訪れた危機

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モスクワ動物園のムルマ (男鹿水族館・豪太の母)
Nikon D3s
シグマ 70-300mm f/4-5.6 DG OS
(2010年5月2日撮影  於 ロシア・モスクワ動物園)

前投稿よりの続き)
モスクワ動物園において最初にムルマが繁殖に挑戦したのは1998年、彼女が7歳のときでした。モスクワ動物園が彼女にパートナーとしてあてがったのは1991年カザン市動物園生まれのウォルドでした。ムルマが野生出身であるため、パートナーとしては動物園生まれの雄が選択されたというわけです。このようにして血統の多様性を維持していこうというのがモスクワ動物園の方針のわけですね。当時モスクワ動物園には後年シモーナのパートナーとなったウランゲリがすでに飼育されており、そしてすでに繁殖可能な年齢ではありましたし、ウランゲリも野生出身であるためムルマと組み合わせることは何等の問題も生じないわけですが、仮にこれをやりますと動物園出身の他個体の繁殖について将来の血統の多様性の維持の点で幾分有利性が失われると考えられたためです。要するに、貴重な「ホッキョクグマ野生個体資源」の浪費活用と言えるでしょう。ですから、野生出身のウランゲリのパートナーは動物園出身のシモーナとなったわけです。動物園出身の個体に流れる特定の血統(たとえばアンデルマの血)を野生出身の血で薄めていくということが重要になるわけです。 
(*追記 - 日本の動物園の若年個体に大勢力を築きつつあるアンデルマ/ウスラーダの血を薄めるために、同じく日本で子孫を増やしつつあるクーニャ/ララの血統の個体を用いて繁殖を行うということがいかに将来的に不利であるかということとこれは同じです。ロシアでも欧州でも、これは極力回避するでしょう。この2つの勢力の特定の血を薄めるためのは理想的には野生個体をパートナーとさせるのがよいのですが、それが非常に困難となっているために、今まで繁殖の無かった別血統のペアに、パートナーを変えてでも繁殖に期待するほかないというのが日本の現状です。)

さて、その年1998年にムルマはこのカザン市動物園生まれのウォルドとの間に3月12日に繁殖行為が確認され、そして10月14日にムルマは雄の赤ちゃん1頭を無事に出産しました。 これが彼女の最初の出産であったにもかかわらずムルマは順調に赤ちゃんを育て上げたのは称賛に値するでしょう。この雄の赤ちゃんですが、翌年1999年の12月27日に中国広東省の広州市の動物園に移送されました(この個体については近日中に改めて投稿いたします)。

明けて翌年の2000年、モスクワ動物園は再びムルマの繁殖のための準備をします。パートナーは当然のことながら2年前と同じウォルドです。彼との間に繁殖行為が確認されたのが3月10日から15日の間の期間でした。その結果としてムルマは同年の10月16日に2頭の双子の雄の赤ちゃんを出産しました。今回も彼女の育児は順調に進んだのですが、大変不幸なことに1頭の赤ちゃんが翌年2001年の2月10日、生後4か月ほどで亡くなってしまったのです(死因は明らかにされていません)。残った1頭の赤ちゃんですが、ムルマお母さんは精魂込めて育てたのでしょう、無事に一歳を迎えた後の同年11月8日にドイツのカールスルーエへと旅立ったのでした。この赤ちゃんこそ以前、「ドイツ・ノイミュンスター動物園、悲願へのハードルの高さ ~ カップのパートナー探し難航」でご紹介した、現在ノイミュンスター動物園で飼育されているカップなのです。
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ムルマ
Nikon D3s
AF-S VR Zoom-Nikkor 70-300mm f/4.5-5.6G IF-ED
(2010年7月30日撮影  於 ロシア・モスクワ動物園)

こうしてこのモスクワ動物園でムルマは順調な繁殖を続けていけると考えた同動物園の関係者は胸をなで下ろしていたはずでした。ところがその安心と希望もつかの間、大変な不幸がムルマとモスクワ動物園を襲ったのでした。それはムルマのパートナーであるウォルドの突然の死です。それはムルマの次の繁殖に向けての重要な時期の直前であった2002年2月9日のことだったのでした。モスクワ動物園はこのウォルドの突然の死に大変苦慮したのです。ムルマの新しいパートナーをどうするのか、一般的なホッキョクグマの発情期を目前にしてモスクワ動物園は頭を抱えます。ムルマにとっても人生(熊生)最大の危機に直面したのです。
続く
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モスクワ動物園内よりスターリン様式建築の「文化人アパート」の見える風景 (「モスクワは涙を信じない」という映画に登場します)。
(2010年5月2日撮影)

(資料)
モスクワ動物園飼育総括報告2005,6年度版
"Содержание и разведение белых медведей"
(過去関連投稿)
モスクワ動物園のムルマ(1) ~ 巨体の醸し出す貫禄 
モスクワ動物園のムルマ(2) ~ 鷹揚で懐の深い母性
ドイツ・ノイミュンスター動物園、悲願へのハードルの高さ ~ カップのパートナー探し難航

by polarbearmaniac | 2011-05-16 09:00 | Polarbearology

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