街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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モスクワ動物園がカザン市動物園に1頭のホッキョクグマを贈与 ~ 帰属意識と権利関係の狭間で

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生後3か月の時のピム (カザン市動物園) 
Photo(C) Екатерина Красуцкая / Татар-Информ

これは先月末、まだ私がロシアを旅行していたときにすでに報道されていた情報の記事ですが、その正確な背景を把握するのに幾分骨の折れる情報でしたのこれまでご紹介いたしておりませんでした。一見非常に奇妙ともいえる内容の情報です。それはロシア連邦・タタールスタン共和国カザン市における「モスクワの文化の日々」という催し物の会合の席上で、モスクワ動物園がカザン市動物園に1歳のホッキョクグマを1頭贈呈することを発表したという報道です。そしてその1頭は現在イジェフスク動物園で飼育されていて、その1頭がカザンに贈与されるという内容です。

イジェフスク動物園で飼育されている1歳のホッキョクグマといえば、以前何度がご紹介している雄のピム(ピリグリム)しか該当する個体はありません。モスクワ動物園には現在、シモーナ、ウランゲリ、ムルマ、ウムカの4頭の他に昨年4月に極北の地で孤児として保護された1歳のアイオンがいますが、このアイオンにはWWFのホッキョクグマ保護活動の一環でモスクワ動物園で飼育されているわけですからカザンへの譲渡の対象などにはなりえず、よって該当するのはイジェフスク動物園のピム(ピリグリム)だけです。しかしこのピムはもともとカザン市動物園の生まれですから、今回の件で生まれ故郷のカザンに戻るということにすぎず、それに何故モスクワ動物園が「贈与主」として関係してくるかの状況は難解です。これを説明するには一通りの説明以外ありえません。よって以下が真実だとみて間違いはないでしょう。

ベルリン動物園のブラスキエヴィッツ園長はロシアのロストフ動物園が権利を持つカザン市動物園で生まれる雌の個体を入手しようとしたが、2009年暮れにカザン市動物園で生まれたのは雄(すなわちピム)だった。なんとか雌を入手したいベルリン動物園はロストフ動物園に対して、モスクワ動物園で2009年暮れに生まれた雌3頭のうちの1頭とロストフ動物園が権利を持つピムとの交換を依頼し、ロストフ動物園はモスクワ動物園と交渉の結果それが実現した。モスクワ動物園の雌の個体の1頭は権利を取得したロストフ動物園に送られ、そしてその後ベルリンに送られたが、それがトーニャである。一方それと交換でモスクワ動物園が権利を取得したピムはノヴォシビルスク動物園経由でイジェフスク動物園に送られ現在そこで飼育されている。このピムについてモスクワ動物園はその権利(所有権)をカザン市動物園に与えることにした。

....ということでしょう。ピム (ピリグリム) はカザン市動物園で生まれたものの同動物園には権利がなく、その結果としてピムは「放浪の旅」を強いられたわけですが、そのピムの権利 (所有権) をカザン市動物園はようやく取得したことになります。この下の映像は1か月ほど前にイジェフスク動物園で撮られた映像ですが、ここで手前のほうに写っているのがピム(ピリグリム)でしょう。



A動物園で生まれたホッキョクグマの赤ちゃんに対して地元のファンは「赤ちゃんは自分たちの街の動物園に帰属している。」という帰属意識を持つのは当然です。しかし権利関係はそう単純ではありません。その赤ちゃんの権利はB動物園にあるケースは往々にしてかなりあるからです。日本について言えば、札幌・円山動物園でララとデナリの間に生まれた赤ちゃんは必然的に札幌市(円山動物園)の所有になります。それは、ララもデナリも権利(所有権)は札幌市にあるからです。札幌市民が「ホッキョクグマの赤ちゃんは自分たちのものだ。」と思って当然なわけです。しかしキャンディとデナリとの間に生まれた赤ちゃんとなればこれは話が別になります。旭山動物園でサツキとイワンとの間に赤ちゃんが生まれれば札幌市民で「あの赤ちゃんは自分たちのものだ。」と考える人は非常に少ないでしょう。このように、日本においては帰属意識と権利関係の間に明確な分離がなされるようなケースがほとんどなかったために今回のようなモスクワ動物園とカザン市動物園での間のようなケースがわかりにくいというわけです。

(資料)
Мэрия г. Казани (Aug.26 2011)
Татар-информ (Sep.26 2011 - Московский зоопарк подарил Казанскому зоопарку белого медведя)
Комсомольская правда в Казани (Sep.27 2011 - Казанскому зоопарку подарили белого медведя)

(過去関連投稿)
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by polarbearmaniac | 2011-09-09 01:00 | Polarbearology

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