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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

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ノルウェーの極地動物園、ララの子供たちの入手を狙い円山動物園と接触か? ~ 報道内容の真偽を検証する

ノルウェーの極地動物園、ララの子供たちの入手を狙い円山動物園と接触か? ~ 報道内容の真偽を検証する_a0151913_17422061.jpg
イコロ  (2011年11月3日撮影 於 おびひろ動物園)
Nikon D7000
AF-S DX VR Zoom-Nikkor 55-200mm f/4-5.6G IF-ED
ノルウェーの極地動物園、ララの子供たちの入手を狙い円山動物園と接触か? ~ 報道内容の真偽を検証する_a0151913_17423567.jpg
アイラ   (2012年2月5日撮影 於 札幌・円山動物園)
Nikon D5000
AF-S VR Zoom-Nikkor 70-300mm f/4.5-5.6G IF-ED

昨日の投稿である「札幌・円山動物園のアイラ、おびひろ動物園へ」の最後のほうで触れました「怪情報」についてご紹介いたします。  ノルウェーのフォルケブラデット紙の2012年1月24日付け電子版報道(ノルウェー語)の一部 (Folkebladet - Jan.24 2012 “Kan få isbjørn allerede neste år”) を以下に拙訳にてご紹介します。 青字の部分です。

.....(前略) 本紙(フォルケブラデット紙)は2010年12月の記事でノルウェー極地動物園 (*注 - “Polar Zoo” を「ノルウェー極地動物園」と訳しておきます。) がフィンランドの動物園とホッキョクグマについて話し合いを行っていることを報じたことがあった。 (ノルウェー極地動物園の)マネージャーが現在語るには、日本北部の動物園がホッキョクグマについての話し合いを申し出てきたとのことである。 「我々の側 (*注 - すなわちノルウェー極地動物園のこと)が1年前にもっと確実な見通し (*注 -ノルウェー語のhegnet の意味をこう訳しておきます)があればフィンランドの動物園からホッキョクグマをこちらに入れることができたはずだった。 この(フィンランドからホッキョクグマを連れてくるという)計画は現在では頓挫してしまった(*注 - utgår を一応「頓挫した」と訳しておきます。 接頭語の ut はオランダ語で uit、ドイツ語でaus の意味ですから、このutgår を「失効した」と訳すことも可能かと思います)。 日本北部の動物園は我々の側が提示した条件を見てホッキョクグマを送りたい(*注 ― 「売りたい」の意味でしょう)と言ってきている。 この動物園は2001年からたびたびホッキョクグマの繁殖に成功しており、我々(ノルウェー極地動物園)はこれでホッキョクグマを確保するチャンスを得た。」と(ノルウェー極地動物園の)ホークセット園長は語っている。 ただしこの日本の動物園との交渉は現時点では始まったばかりの段階であることを園長は強調している。

ネット上でこの北欧ノルウェーの報道記事の存在を知った時に私はこの記事の内容は冗談だと考え、さほど気にも留めずに放置していました。 ですので、海外のある方からこの件について私に問い合わせがあった際にも、「そんなことはあり得ない」と、その理由を書いてお返事しました。 しかし自分なりにこの報道の内容を再度検証し、この記事の真偽を改めて判断しようと考え、いろいろと試みてきました。 結果としてやはり私には、客観的事実と照らし合わせてこの記事の内容は到底事実とは考えられないものの、この報道記事が存在していることそれ自体については日本のホッキョクグマファンの方々にこのブログでお知らせしたほうがよいと考えるに至りました。 仮に万が一この報道の内容が正しいとすれば、ここでこうしてブログに投稿すること自体が日本側の関係者に大きなご迷惑をおかけすることになるかもしれません。 しかしその心配はないと考えます。何故なら記事の内容は到底事実ではあり得ないと考えるからです。 

以下、報道記事内容の検証です。

(1) まず最初に、この記事で2010年にノルウェー極地動物園がホッキョクグマの入手のためにフィンランドの動物園と話し合ったとの内容についてです。 「フィンランドの動物園」とはラヌア動物園以外にはありえません。ラヌア動物園で飼育されているのは雄のマナッセ、雌のヴィーナスとヴァレスカの双子の姉妹です。このヴィーナスとヴァレスカの双子の姉妹は雄のマナッセとの間での繁殖を担っているわけで、決して1頭が余分に余っているわけではありません。 昨年の11月にとうとうヴィーナスが赤ちゃんを出産した件についてはこのブログでもご紹介しています。フィンランドでは飼育下におけるホッキョクグマの自然繁殖が長年の悲願だったわけで、そのために雌を2頭ドイツのロストック動物園から受け入れているわけです。 そのラヌア動物園にホッキョクグマ譲渡を申し入れてもそれは不可能なことです。 話し合い自体が途切れてしまったことは当然でしょう。 ですので、この点(フィンランド側との話し合いの頓挫)に関する限りは大筋ではこの報道内容は正しい可能性が大きいでしょう。

(2) 次に、フィンランドの動物園との話が暗礁に乗り上げた後に、「日本北部にある動物園」のほうからノルウェー極地動物園に対してホッキョクグマに関して話を持ちかけてきたという内容についてです。 記事によればこの「日本北部にある動物園」は2001年以来ホッキョクグマの繁殖にたびたび成功しているとありますので、札幌・円山動物園を指すことには間違いありません。 (ララの最初の繁殖成功は2001年ではなくツヨシの誕生である2003年ですが、そのことは脇に置いておきます。)  また、この部分は記者の作文ではなく実際にノルウェー極地動物園からの取材で得た情報だろうと考えます。 円山動物園が2009年にイコロとキロルを欧州の個体との交換を希望して職員を欧州に派遣したのは有名な話です。 しかしその目的はあくまでも個体の交換であり売買の話ではありません。 この記事によればノルウェー極地動物園がフィンランドの動物園とホッキョクグマ入手の話を開始したのは2010年12月頃のことだと言っています。 しかしこの2010年の暮れにはもうすでに日本ではホッキョクグマ繁殖検討委員会が立ち上げられ、日本としてのホッキョクグマの繁殖への取り組みが開始されていました。 そういった段階でフィンランドとの交渉の頓挫後にノルウェー極地動物園が日本の動物園、つまり円山動物園と考えられる動物園からホッキョクグマの譲渡(売却)についてのアプローチを受けた(記事の内容から推定してアプローチがあったというのは昨年秋以降ということを意味します)などということはあり得るはずがありません。 仮に本当に円山動物園からのアプローチがあったとすれば、該当個体はイコロ、キロル、アイラの3頭になるでしょう。 しかしこのノルウェー極地動物園は現在ホッキョクグマを飼育していませんので、「交換」を前提とした話にはなり得ませんので円山動物園からのアプローチなどあるはずがありません。 日本からのアプローチがないのならノルウェー極地動物園が日本の動物園に条件提示などできるはずがありません。 そうなると、つまりこのノルウェー極地動物園の園長さんは、ありもしない話をあったようにフォルケブラデット紙の記者に言っているということになります。 しかしこの記事の見出しは「来年(2013年)にはホッキョクグマが入手できる」となっています。上に翻訳した部分以外の文脈から言って、この動物園が日本からホッキョクグマを入手できる十分な手応えを前提とした記事になっています。 一つ考えうることは、最初のアプローチを相手側に行ったのは日本の動物園(つまり円山動物園)ではなくノルウェー極地動物園のほうからではないかということです。こう考えれば、ノルウェー極地動物園が円山動物園、そして日本のホッキョクグマ繁殖検討委員会の方針を知らずに相手側にアプローチすることはあり得ます。 しかしこの場合でもこの記事におけるノルウェー極地動物園の園長さんの発言は明らかに事実とは反することには違いありません。 いったい何故こんな記事がネット上に堂々と出るのでしょうか?

(3) 今回のこの記事の裏付けを取るために現地ノルウェーの複数の関係者のTwitter, Facebook 等の書き込みなどまでも細かくチェックしてみました(ネット上で公開されているとはいえ、こういった他人の書き込みの覗き見、詮索はあまり好ましいことではないのは十分わかってはいますが、他にノルウェー側の状況を調査する方法がありませんのでしょうがありません)。 しかし調査の結果としては明確にこれといった今回の報道内容を裏付ける内容の書き込みを発見できませんでした。 ただしかし調査の過程で一つの事実に注目しました。 それはこの記事の中で私が翻訳していない部分でも簡単に触れていますが、この動物園が付近のフィヨルドの観光と、この動物園をセットにして観光資源にするための施設拡充整備のために投資家の投資を募っているということと、その目玉の一つがホッキョクグマの飼育であると位置付けていることです。 まるでかつての男鹿水族館を思い出させるような立場のようです。 ホッキョクグマ入手の目途がたてば、設備投資のための資金調達に有利になるということのようですね。 その予算として見込んでいるのは一千九百万クローネ(約2億5千万円であり、その確保のために銀行保証や政府保証が必要となるようです。 これ以降は私の推測ですが、ホッキョクグマの入手が極めて有望であるという報道があれば、この動物園への投資が促進されるという状況があるのではないでしょうか? 周囲に対して、ホッキョクグマ入手の日は近いと思わせておかなければいけない理由がノルウェー極地動物園の側にあるのではないかということです。
ノルウェーの極地動物園、ララの子供たちの入手を狙い円山動物園と接触か? ~ 報道内容の真偽を検証する_a0151913_3412472.png
この北欧ノルウェーの極地動物園(上の地図でナルヴィク/ Narvik という街のすぐそばにあります)は世界最北の動物園だそうで、なんと北極圏内に入っています。相当に温度の低い場所にあります。雪も多いようです。そして多分、この動物園のホッキョクグマ展示場は膨大な広さになるものと思われます、こういう場所に存在している動物園にホッキョクグマを連れて行ったら彼らは喜ぶでしょうね。
ノルウェーの極地動物園、ララの子供たちの入手を狙い円山動物園と接触か? ~ 報道内容の真偽を検証する_a0151913_338511.jpg
ノルウェー極地動物園 Photo : Innovation Norway

冗談はさておき、以上述べましたことから、この今回のノルウェーのマスコミの記事の内容は全く正しくないと考えます。この動物園に取材し、そしてその取材で得た情報をそのまま記事にしていたとしたら、この記事の情報のソースであるこのノルウェーの極地動物園が事実ではない情報をマスコミに流したということになるでしょう。

私の今回のこの投稿の目的は、このノルウェーのマスコミの記事の存在をホッキョクグマファンの方々に知っていただくためだけのことです。 ララの子供たちを繁殖とは無関係に単に「一本通行」でノルウェーに出す今回の報道記事の話が仮に万が一、億が一にでも実際に存在するとすれば、私はそれには到底賛成しかねるということを最後にハッキリと申し上げておきます。 ホッキョクグマの繁殖に結びつかない移動には強く反対いたします。

(資料)
Folkebladet   (Jan.24 2012 -  “Kan få isbjørn allerede neste år” )

(過去関連投稿)
フィンランド・ラヌア動物園でホッキョクグマの赤ちゃん誕生!
札幌・円山動物園のアイラ、おびひろ動物園へ
by polarbearmaniac | 2012-02-10 08:30 | Polarbearology

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