街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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アメリカ・ニューヨーク州 ロチェスターのセネカ動物園が史上初のホッキョクグマの人工授精を行う

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オーロラとゼロ
Photo(C)Rochester Democrat and Chronicle / Seneca Park Zoo

これは若干の冗談話として聞いておいた方がよいのかもしれない思われるニュースが報じられています。アメリカ・ニューヨーク州ロチェスターのセネカ(公園)動物園が5月1日に発表したところによりますと、同動物園で飼育されている22歳のホッキョクグマのオーロラ(札幌・円山動物園のデナリの姉にあたります)に対して3月1日に人工授精が行われたとのことです。

この人工授精の試みは、オーロラのパートナーであるゼロ(22歳)に麻酔をかけて精子を採取し、それを今度は2日間にわたってホルモン剤を投与してあったオーロラを麻酔にかけて彼女の生殖器にその精子を注入するという方法で行われたようです。 オーロラのホルモン量の増減のパターンを2008年から観察し続け、そしてまさに受精しやすい時に合わせて今回の人工授精の試みがなされたそうです。
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Photo(C)Senaca Park Zoo

このオーロラは前のパートナーであったユーコンとの間で過去4頭の繁殖に成功している雌のホッキョクグマであり、そろそろ繁殖の上限年齢に接近しつつあるということと、雄のゼロは過去の繁殖に成功した経験がないものの精子は正常であることから、今回のホッキョクグマの初の人工授精の試みがなされたとのことです。 今回の人工授精はシンシナティ動物園の協力で行われたそうですが、そのモデルペアとしてゼロとオーロラは理想的であったと考えられたためのようです。セネカ動物園はこの人工授精は現時点で成功していると考えているそうです。その理由として、人工授精が行われた3月1日から現在まで2か月間、オーロラには排卵がない(“Aurora hasn't ovulated in two months”) という事実から彼女が「妊娠」している確率が高いと考えていることを挙げています。 セネカ動物園としては11月のオーロラの出産に大きな期待をかけているそうです。
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Photo(C)Seneca Park zoo

以下、記者会見のごく一部も含めてニュース番組の映像をご紹介しておきます(最初にCMが入ります)。





この話、少しばかり引っかかる点を感じないわけではありません。セネカ動物園のワイアット氏は記者会見でいろいろと語っていますが、この人工授精の詳細について具体的にもっと報告書のような形で公表されない限り、このセネカ動物園の発表記者会見の内容程度(文章ではセネカ動物園が管轄となっているモンロー郡の郡長官 - County Executive - のマギー・ブルックス氏の発表内容で読むことが可能です)だけでは、これが現時点で成功したと言えるのかどうかについては、なんとも言いかねるように思われます。

それから、セネカ動物園もPolar Bear International も、そしてモンロー郡の郡長官のマギー・ブルックス氏もこの今回のことを世界最初のホッキョクグマの人工授精だと誇らしげに語ったり伝えたりしていますが、一つのマスコミはそれに冷水を浴びせるように中国(大連の老虎灘海洋公園のケースのことでしょう)の「前例」があると言っています。 この中国(大連の老虎灘海洋公園)の例は実は詳細が闇に包まれており、実際に人工授精だったのかの確認はできていなかったはずです。 「人工繁殖」とだけ言っており、その詳細は明らかでありません。単なる人工哺育のことを「人工繁殖」と言っているのか(つまり「自然繁殖」に相対する言い方として「人工繁殖」と言っているのか)、それとも最初の受精時点から人の手が入っているから「人工繁殖」なのかが不明確です。 中国側もこれを公表しようとはしていません。ですから今回のセネカ動物園の人工授精が「世界初」であるかと問われれば、確認しうる限り「世界初」であると言ってもよいように思われます。何故なら中国(大連の老虎灘海洋公園)が人工授精を行ったという詳細な報告を公表していないからです。

今回の件を「史上初」として記者会見で誇らしげに発表したマギー・ブルックス郡長官は将来を有望視されている共和党の政治家であり、その発表に冷水を浴びせたマスコミ(Rochester Democrat and Chronicle)は名前からして明らかに民主党支持であることを考えれば、このあたりの状況はよく理解できます。 ただしかし一般論としては、ホッキョクグマへの人工授精についての話は、それが中国であれアメリカであれ、注意してやや慎重に受けとらないといけないということも事実と言えます。

以下はゼロとオーロラの22歳の誕生祝の際の映像です。



また、以下はオーロラがアメリカ動物園・水族館協会(AZA)のオークションのための絵を「創作」している映像です。 これは滑稽で楽しい映像です。



(香港にて記す) 

(資料)
News from Maggie Brooks - BROOKS, ZOO OFFICIALS ANNOUNCE GIANT STEP IN POLAR BEAR REPRODUCTION)
Rochester Democrat and Chronicle (May.2 2012 - Seneca Park Zoo attempts artificial insemination of polar bear)
WISN Milwaukee/AP (May.2 2012 - Zoo officials say Zero's New York mate likely pregnant)
WROC-TV (May.1 2012 - Polar Bear Baby Watch at Seneca Park Zoo? )
13WHAM-TV (May.1 2012 - Seneca Park Zoo Attempts Artificial Insemination of Polar Bear)
Rochester YNN (May.1 2012 - Procedure on Polar Bear at Seneca Park Zoo Could Make History)
(追加資料)
Cincinnati Zoo (Saving Species with Science - Spring 2012)

(過去関連投稿)
ホッキョクグマが堀に落ちたらどうなるか?(その2)(前) ~  動物園の危機管理
ホッキョクグマが堀に落ちたらどうなるか?(その2)(後)~ 堀に居座ったホッキョクグマ
ハンガリー・ブダペスト動物園のレディとヴィタスの不妊検査 ~ ドナウ河岸の憂鬱
ドイツ・ブレーマーハーフェン臨海動物園での妊娠判定の試み 
中国・大連、老虎灘海洋公園でホッキョクグマの双子の赤ちゃん誕生! ~ また繰り返される不可解な人工哺育
中国・大連で人工哺育の淘淘、乐乐、静静の出生の謎を追う ~ 「異形」 は先天的なのか?
by polarbearmaniac | 2012-05-05 07:00 | Polarbearology

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