街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ホッキョクグマの雑種(Ursid hybrid)を考える(1) ~ ドイツ・オスナブリュック動物園のティプスとタプス

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ドイツ・オスナブリュック動物園のティプスとタプス(一歳の時点での画像)
Photo(C) Zoo Osnabrück

これから何回かにわたってホッキョクグマと他のクマ科との雑種 (Ursid hybrid) の存在について考えていきたいと思います。 この雑種 (Ursid hybrid)をこれから以降、便宜上単に「ハイブリッド」という名前で呼んでおくことにします。 扱うのはもちろん生物学的な観点からの探求というよりは、そのハイブリッドの存在事例の整理と、その存在に対する我々人間の側の反応といったものとならざるを得ません。 その反応には程度の差こそあれジェンダー論といったような人間の側の社会的・文化的な視点を完全に逃れることは難しいでしょう。 話はもちろん、片方の親がホッキョクグマである場合に限定することにします。

近代においてこの(ホッキョクグマの)ハイブリッドが存在しうることを人間が認識したのは自然界ではなく飼育下におけるハイブリッドの存在だったのが意外とでも言えましょう。 調べてみますと欧州での飼育下において最初にこの存在が明らかになったのは1876年にドイツのシュトゥットガルトの動物園で雄のホッキョクグマと雌のヒグマとが交配し双子が生まれたという記録があるそうです。 それと前後して、やはりドイツのハレでもホッキョクグマとヒグマとのハイブリッドが何度か誕生していたようです。
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19世紀に飼育下で出現したホッキョクグマとヒグマのハイブリッド(左)
(Rothschild Museum) Photo: Messybeast

北米では1936年にワシントンのスミソニアン国立動物園で雄のホッキョクグマが偶然にアラスカヒグマの飼育場に入り込んだ結果として3頭のハイブリッドが誕生しているそうです。 これらが主な事例のようですね。 ドイツの2例については、たたしてこれがハイブリッドの誕生を積極的に意図したものなのか (つまり、あえて交配させたのか)、それとも何らかの偶然から生じたものなのかが今一つ不明な点が残ります。 ともかくこういった事例からホッキョクグマがクマ科の他のクマと交配可能であることが事実として明らかになっていたわけでした。 ただしあくまでもそれは動物園という閉じた空間での事例であり、自然界では通常は起こりえないと解釈されていたわけでした。

さて、ここで動物園におけるホッキョクグマとヒグマとのハイブリッドの現代での存在事例を二つほどご紹介しておきます。 一つ目はドイツのオスナブリュック動物園で2004年の1月にヒグマの雌から誕生したティプスとタプスの2頭(冒頭の写真)です。

前年の2003年に雄のホッキョクグマであるエルヴィスと雌のヒグマであるスーシとの間に繁殖行為があったというわけですが、具体的にどのような状況でこのようなことが生じたかについてオスナブリュック動物園がそれを詳細に説明している記述が見出せません。 ただしこのティプスとタプスの誕生についてオスナブリュック動物園は不名誉なことだと恥じていたことから推察しますに、おそらく動物園の管理ミスによって雄のホッキョクグマのエルヴィスがヒグマの飼育場に入り込んだのではないかと思われます。 しかしある報道によりますと、このオスナブリュック動物園では1980年からホッキョクグマとヒグマは一緒に飼育されており、それまで24年間この2種の間での繁殖はなかったので実際にハイブリッドが生まれたときには仰天した。」というオスナブリュック動物園の関係者の発言を引用していますが、果たしてそれが正確な状況だったかについて私は非常に懐疑的です。 まさかそんな飼育を長い期間にわたって行っていたとは考え難いです。 ともかく、このホッキョクグマのエルヴィスとヒグマのスーシとの間の繁殖行為自体は動物園が意図したものでないことは明らかなようです。
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現在のティプスとタプス  Photo(C) Zoo Osnabrück

ホッキョクグマとヒグマのハイブリッドであるティプスとタプスの2頭は大変元気に成育しました。 動物園側の説明では、この2頭のハイブリッドは外形も行動もホッキョクグマとヒグマの両方の特徴を兼ね備えているそうで、耳はホッキョクグマよりは大きいがヒグマよりは小さ頭部の形状はホッキョクグマに近いとのこと。 毛の色は季節によって変化するそうです。 ドイツのブロガーさんが撮られた映像をお借りすることにし、2頭の以下の映像をご参照下さい。 見る角度や光の当たり具合によってホッキョクグマとヒグマのどちらに似ているかについては幾分印象が異なるようですがどうでしょうか。







さて、昨年オスナブリュック動物園では連邦政府の環境基金から40万ユーロの支給なども受け、この2頭の飼育展示施設を整備、オープンし、このハイブリッドの2頭を地球温暖化の危機の象徴として来園者にその存在を知らしめようとしています。 ブセマン園長は、「地球温暖化は人類全てに大きな影響を与えるものなのに、その事実が実感として我々に届いていない。来園者がこの2頭の姿を見ることによって少しでも地球温暖化のもたらす影響を理解してほしい。」という内容をコメントしています。 これはかなり「尖った」やり方のように思われます。 「あざとさ」と紙一重のような印象を与えかねない危険性を伴っていないとは言い切れないように思います。
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Photo(C)Zoo Osnabrück 

こういった形でこの2頭を地球温暖化の影響と結びつける理由は、ここ数年にわたってカナダで見つかった自然下におけるハイブリッドの存在の確認を背景としたものでしょう。 ホッキョクグマ以外のクマが地球温暖化の影響でホッキョクグマの生息地に入り込み、その結果として生まれたのがカナダにおける野生下のハイブリッドであると推定できますが、オスナブリュック動物園がそのハイブリッドとこのティプスとタプスを結び付けるようにパネルその他の説明と共に来園者の抱く印象を誘導しているとすれば、それはやや強引なのではないでしょうか。 地球温暖化はもちろんネガティヴなことではありますが、その影響の一つをこの2頭のハイブリッドの存在と何らかの形で結びつけるということは、なにかこの2頭にスポットライトを当ててネガティヴな意味における「見世物」のように扱っていると感じないわけにはいきません。 私にはどうもスッキリとしない気持ちが残ります。

次に自然界でのハイブリッドの存在事例に移りますが、その前にもう一つ、別の動物園での驚くべき事例を次にご紹介しておきます。 (続く)

(資料)
Ursid hybrid (Wikipedia)/Messybeast.com (Hybrid Bears)
Zoo Osnabrück (Aktuelles/Archiv Feb.24 2005 - Neues von den Bärenjungen "Tips" und "Taps" )
Zoo Osnabrück (Zoobewohner – Hybridbären)
Neue Osnabrücker Zeitung (Mar.11 2011 - Neues Zuhause für Tips und Taps im Zoo Osnabrück: Taiga-Erlebniswelt soll im Sommer öffnen)
Neue Osnabrücker Zeitung (Apr.20 2011 - Im Osnabrücker Zoo dürfen Tips und Taps wieder in die Sonne)
Neue Osnabrücker Zeitung (Jun.15 2011 - Osnabrücker „Breisbären“ machen den Klimawandel sichtbar)
Deutsche Bundesstiftung Umwelt(Jun.15 2011 - Eisbären auf der Spur: „Klimahöhlen" bringen die Arktis nach Osnabrück)
BBC (Oct.30 2009 - Polar bear plus grizzly equals?)
by polarbearmaniac | 2012-07-03 19:00 | Polarbearology

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