街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ホッキョクグマの雑種(Ursid hybrid)を考える(2) ~ セルビア ・ ベオグラード動物園を覆う深い謎

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セルビア・ベオグラード動物園のハイブリッドペア
Photo(C)Myseoulinsurance/yahoo

(前投稿よりの続き)
さて、飼育下でのホッキョクグマのハイブリッドについて二つ目の事例をご紹介しておきます。 これは実に恐るべき事例といってよいでしょう。 まず以前の3つの投稿を最初にご参照頂きたいと思います。 「秋田県が購入断念の『幻の東欧の個体』、突然中国にその姿を現す!」、「中国に突然現れた『幻の東欧の個体』はヒグマとの混血か? ~ 深まる謎」、「中国・大連で人工哺育の淘淘、乐乐、静静の出生の謎を追う ~ 『異形』 は先天的なのか?」の3つの投稿です。 これらの投稿を行う準備の過程でセルビア(旧ユーゴスラヴィア)の首都ベオグラードの動物園にホッキョクグマとヒグマとのハイブリッドが存在しているらしいことを突き止め、そのことを投稿の中で示してきました。

このベオグラード動物園で写真家の方に撮られた写真によりハイブリッドの姿をご紹介しておきます(冒頭の写真)。 この冒頭の写真で向かって右側に写っている個体は明らかにハイブリッドであることがわかると思います。 向かって左側の個体は今一つ判然としないものの、やはりハイブリッドではないかと推察できるように思います。 そして下はベオグラード動物園の1頭の個体の写真ですが、これは明らかにハイブリッドであることを示しています。
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セルビア・ベオグラード動物園の個体
Photo(C)Myseoulinsurance/yahoo

さらに驚くべきことにベオグラード動物園では自然繁殖にも成功しています。 この下の赤ちゃんとお母さんの写真ですが赤ちゃんは比較的高い確率でハイブリッドに見えます。 お母さんについても私にはハイブリッドに見えますが、あるいはそうではないかもしれません。
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セルビア・ベオグラード動物園の親子(2007年撮影)
Photo(C)milosradulovic/yahoo

この上の写真は2007年4月に撮影されたそうですですから、秋田県が年月をおいて2度も購入を狙ったらしい個体のどちらでもないことは撮影時期から言っても明らかでしょう。 ということはつまり、このハイブリッドらしいお母さんは何度も出産を重ねているということなのではないかということです。 一見それを裏付けると思われる写真があります。 それが以下の写真です。 これは実に恐るべき写真です。 というのも1999年の6月にベオグラード動物園で撮影された親子の姿だからです。 明らかにお母さんはハイブリッドです。
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セルビア・ベオグラード動物園の親子(1999年撮影)
Photo(C) LUSA - Agência de Notícias de Portugal, S.A.

つまりこのベオグラード動物園で飼育されている個体のうち少なくとも雄1頭と雌の2頭はハイブリッドであり、ペアで繁殖を繰り返しているということになります。 しかしながらこのベオグラード動物園にはハイブリッドではないホッキョクグマも飼育されているようにも思われます。それが以下の写真です。 仮にハイブリッドだったとしても多分ホッキョクグマ以外の血は少ないのではないでしょうか。
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セルビア・ベオグラード動物園の個体
Photo(C)Action Against Poisoning/PETA

さらにこの下の報道写真によるベオグラード動物園のペアの画像ですが、これは一頭が明らかにハイブリッドですが、もう一頭は違うようにも見えます。 ハイブリッドの毛の色が季節によって変化するという事実が、顔の真正面からのアップの写真でならばともかく個体の部分的な体の写真だけでそれがハイブリッドであるか否かを100%確実に判断することの妨げになっていることも否めません。
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セルビア・ベオグラード動物園の個体    Photo(C)BBC

ところが、以下はベオグラード動物園内を撮影した映像です。 開始後1分35秒あたりから2分8秒あたりまでの映像にご注目下さい。 個体は2頭しか映っていないと思われますが、いずれもハイブリッドですね。



この下の映像で見ますと、この2頭は明確にハイブリッドです。



さて....これらの写真から私が推察するに、ひょっとしてベオグラード動物園ではハイブリッドの雄のパートナーとして雄と同じハイブリッドの雌一頭とハイブリッドではないホッキョクグマの雌一頭、合計2頭がいるのではないでしょうか? 推察の上にさらに推察を積み上げてみれば、まず秋田県が2005年頃に豪太のパートナーとして最初に購入を狙ったものの後日購入を断念した個体は両親ともにハイブリッドではなかったでしょうか? その後2009年頃に再び、今度は釧路市動物園のためにという理由で秋田県が購入を狙い、個体が発育不良で来日不能になったと言われているものの、後日中国に忽然と姿を現したと思われる個体は父親はハイブリッドであるものの母親は通常のホッキョクグマではなかったか...そう推理してみたく思います。 つまり上の写真で1999年6月に撮影されたお母さんと2007年4月に撮影されたお母さんとは、ひょっとして別の個体ではないかと考えるわけです。

次に、こうして繁殖を続けている(らしい)ベオグラード動物園で生まれたハイブリッドと思われる赤ちゃんたちはその後どうなったのでしょうか? どこか他の動物園に行ったことには間違いないと思われます。 その行先の動物園でハイブリッドである姿を来園者に見せていることは間違いないと思いますが、そのような姿をしたホッキョクグマは少なくとも私が調べた限りでは欧米、及び日本の動物園では見当たりません(昨日投稿したドイツ・オスナブリュック動物園のティプスとタプスは別です)。 となれば、やはり彼らは中国の動物園に行ったと考えるのが最も合理的だと思われます。 現にこの幼年個体がセルビアから中国・江西省の南昌市に行っています。 これは私の推理ですが、上で御紹介した1999年に撮影された写真に写っている赤ちゃんこそ実は現在、中国・大連市の老虎灘海洋公園で飼育されているアベルではないでしょうか? 年齢から言っても符号すると思われます。 アベルの写真については以前の投稿でもご紹介していますが再度以下でご紹介しておきます。
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中国・大連市の老虎灘海洋公園のアベル Photo(C)陕西阳光网络

彼は中国における「異形のホッキョクグマ」である淘淘、乐乐、静静の父親であると中国側は発表しています。これは生物学上は正しい可能性が大きいでしょう。 しかし中国側はアベルとイダはフィンランドの動物園から中国にやってきたと発表していますが、これが真っ赤な嘘であることはすでに以前の投稿でご紹介しています。 このアベルはフィンランドから来たのではなくセルビアのベオグラード動物園からやってきたと考える以外、ハイブリッドと思われるアベルの出自を説明することは困難だと思われます。

さらに、以前の投稿で私は明確に指摘していませんが中国・大連におけるアベルの「パートナー」であるイダも写真で見る限りではハイブリッドの可能性があります。 そうだとすれば、アベルもイダもセルビアのベオグラード動物園の出身であることになります。 そうすると、少なくともアベルとイダの父親は同じであるということになります。 母親については違うかもしれません。 イダの外形を写真で見る限りにおいては、イダはアベルよりもホッキョクグマ以外の血は比較的少ないように見えます。 そうすると、上で述べましたように、イダの父親はハイブリッドであっても母はハイブリッドではないと考え得る可能性が比較的大きくなります。 そして仮にアベルとイダの父親が同じだとすれば淘淘、乐乐、静静の3頭は生物学上、アベルとイダという兄妹の近親交配の結果生まれ、人工哺育された「ホッキョクグマ」だということになります。 この3頭の外見上の異形を説明する一つの材料となりうる可能性を100%排除することはできないということにもなります。 しかしこれは推論の上に推論を積み重ねたものですので、別の角度からもっと確実な根拠が欲しいところです。 ただし、アベルがセルビアのベオグラード動物園出身のハイブリッドであるという点については99.9%確実だと思われます。 問題はイダがハイブリッドであるか否かです。 上の写真のアベルの背後に写っているのがイダです。 体毛の色に関する限りにおいてはアベルそっくりに見えます。 イダが仮にハイブリッドであるとすれば、それは即、彼女がベオグラード動物園の出身であることを99.9%意味します(何故なら、繁殖可能なハイブリッドのペアを飼育している動物園はドイツのオスナブリュック動物園を除けばセルビアのベオグラード動物園しかないからです)。そうであるならは即、アベルとイダの父親は同じであることを99.9%意味します。 そのことは即、淘淘、乐乐、静静の3頭は兄妹の近親交配の結果であることを99.9%意味します。 以前の投稿でアベルとイダが一緒に写っている写真を他に2枚ほど掲載してあります。 さて、どうでしょうか? イダもハイブリッドでしょうか...?

さて次に考えねばならないのは、何故ベオグラード動物園には少なくとも2頭の成獣のハイブリッドがいるのかということです。 その事情を推察させる情報は少なくとも私が調べた範囲内ではネット上にはないようです。 しかしこれは私の憶測ですが90年代の旧ユーゴスラヴィアの内戦に何か原因がないでしょうか? こちらの投稿の最後でも触れていますが、約20年前のユーゴ内戦の混乱時に当時のセルビア・モンテネグロ地域の動物園からホッキョクグマが山中に逃げ出し、そういった機会にヒグマとの混血が生じたという話をご紹介しています。 実はこの話のソースが今となっては不明です。 しかしコソボ山中でホッキョクグマらしき個体が野生化して生存しているらしいという話のソースは明らかにしています。 上のほうでご紹介したハイブリッドの親子の写真のうち1999年に撮影された写真ですがユーゴ内戦の勃発直後に混乱の中で誕生したハイブリッドの雌が、成長して赤ちゃんを最初に出産できる年齢となる時期に奇妙に符号しているように思われます。

このセルビアのベオグラード動物園で飼育されているハイブリッドの出自については深い謎の霧の中にあるといってもよさそうです。 (続く)

(*追記 - BBC の2009年10月30日付けの報道によりますと、飼育下でハイブリッドが存在しているのはチェコ、イスラエル、ロシア、スペイン、ポーランド、ドイツであると報じています。 ただし私が調べた限りでは、これらの国の全てで本当にハイブリッドが実際に存在しているかも含めて、実際にハイブリッドが繁殖した例を全く見出せません。飼育下で繁殖し続けているのはセルビアのベオグラード動物園でのみです。 さらにこの報道では肝心のセルビアがスッポリ抜け落ちています。 これらから言えることは、このBBCの報道の信憑性は高くないだろうということです。) 

(過去関連投稿)
秋田県が購入断念の「幻の東欧の個体」、突然中国にその姿を現す!
中国に突然現れた「幻の東欧の個体」はヒグマとの混血か? ~ 深まる謎
中国・大連で人工哺育の淘淘、乐乐、静静の出生の謎を追う ~ 「異形」 は先天的なのか?
ホッキョクグマの雑種(Ursid hybrid)を考える(1) ~ ドイツ・オスナブリュック動物園のティプスとタプス
by polarbearmaniac | 2012-07-04 20:30 | Polarbearology

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