街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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アメリカ、デトロイト動物園のベアレ逝く ~ 20歳で初出産に成功したサーカス出身のホッキョクグマの生涯

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ベアレお母さんと生後5か月の娘のタリーニ (2005年)
Photo(C)Charles V. Tines / The Detroit News

アメリカ・ミシガン州のデトロイト動物園で飼育されていた27歳の雌のホッキョクグマであるベアレ(Bärle) が昨日18日の水曜日に安楽死という方法でこの世を去りました。 彼女は数日前から食欲がなく、好物であったポテトやチッキンを与えても食べようとはしない状態だったとのこと。 彼女は腫瘍に冒されているという獣医さんの昨日朝の診断で、安楽死の処置がその日に行われたそうです。 直ちに解剖が行われリンパ節の異常と悪性リンパ腫が所見されたとのことです。 彼女を生きながらえさせて苦しませるよりも彼女に来たるべき苦しみから直ちに解放させてやりたいという見地から安楽死という手段が苦渋の手段として選択されたということでした。 私などは、いくらなんでも診断の当日に速攻で安楽死させたのはいかがなものかとも思いますが、この点では欧米、特にアングロサクソン系の国ではこういうやり方で動物を「救う」という一例を見せつけられた気がします。
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ベアレ Photo(C)WDIV

享年27歳のベアレですが、彼女はカナダのマニトバ州で野生で捕獲され、その後にチャーチルから一度ドイツの動物園に送られたそうです。 しかしそこから例の悪名高きメキシコのスアレスサーカスに他のホッキョクグマ2頭とともに売られてしまいました。 そのサーカスで約16年間も劣悪な環境で演技させらたわけでした。 摂氏45℃もある駐車場で出番を待って運送車両の中に閉じ込められて待機していたこともあったそうです。 しかし2002年にこのサーカス団がプエルトリコの公演しに来たところでアメリカの当局による海洋哺乳類保護法 (Marine Mammal Protection Act) 違反の摘発を受けて当局に保護された6頭のなかに彼女が入っていたわけでした(この件については過去関連投稿をご参照下さい)。 この結果として彼女がデトロイト動物園で保護されることになったのは彼女がもう18歳になった時でした。 彼女は小柄なホッキョクグマで、デトロイト動物園に到着したときは体の表面の状態は体毛が抜け落ちている箇所もあったりして悪化していたそうです。 2度目の冬にはその状態は大きく改善したそうです。 しかし彼女が慣れさせられた中南米の気候の影響のためか、彼女は他のホッキョクグマよりも暑さが好きになってしまったようで、彼らが暑さを避けるために水に入っているような時でも彼女は芝生の上で寝転がっている光景がよく見られたそうです。
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ベアレお母さんと娘のタリーニ
Photo(C)RASHAUN RUCKER/Detroit Free Press

しかしその後の彼女の第二の人生(熊生)は素晴らしかったのでした。 彼女はなんとデトロイト動物園に保護された2年後の2004年11月に雄のトライトンとの間で一頭の雌のホッキョクグマの赤ちゃんを出産したのです。 長くサーカス団での劣悪な環境で暮らしてきたベアレが20歳にもなって初めて出産し、そして立派に赤ちゃんを育てている姿は感動的だったとデトロイト動物園の関係者は回想しています。 この娘のタリーニといつも遊んでいる姿が見られたそうです。

私は以前の投稿で雌のホッキョクグマの「最高齢初産例」としてベルリン動物園のトスカが20歳でクヌートを出産した例を挙げていますが、トスカは育児放棄してしまったわけで厳密に言えばこれは初産での成功例にはなりません。 トスカはクヌート出産以前にも出産した経験があったそうですがやはり育児放棄しており、クヌートが「生き残った」のは人工哺育のためです。 ところがこのデトロイト動物園のベアレは出産後も子育てを行ったわけですから、これは「最高齢初産例」というよりは「最高齢初産成功例」と言うべきでしょう。 これ以上の年齢で初めて出産し、そして育児を行ったホッキョクグマの例はほとんどないのではないかと考えます。 このデトロイト動物園というのはホッキョクグマの最高齢出産成功例の記録(35歳11ヶ月)を持つ動物園であり、こういったホッキョクグマの高齢出産の成功に対して何か蓄積され記録・伝授された技術があるのかもしれません。
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ベアレお母さんと娘のタリーニ
Photo(C)RASHAUN RUCKER/Detroit Free Press

ここでベアレが産んだ娘であるタリーニの幼年時の映像をご紹介しておきます。 どちらもタリーニが1歳の時の映像です。彼女は現在もデトロイト動物園で飼育されています。




最後に謹んでベアレの冥福を祈ります。 本当に長い間ご苦労様でした。

(資料)
Detroit Zoo (Press Release Jul.18 2012)
Detroit Free Press (Jul.18 2012 - Polar bear that thrived at Detroit Zoo after rescue from circus dies)
The Detroit News (Jul.18 2012 - Polar bear at Detroit Zoo euthanized)
CBS Detroit (Jul.18 2012 - Detroit Zoo Mourns Loss Of Rescued Polar Bear)
Longevity of mammals in captivity; from the living collections of the world. Kleine Senckenberg” Weigl, R. 2005.
A database of vertebrate longevity records and their relation to other life-history traits
(*追加資料 - 以下のWinnipeg Free Press の記事が私の投稿の翌日になってネット上に登場しました。 記事のタイトルは "Manitoba polar bear's incredible journey ends" であり、なかなか素晴らしい内容の記事です。 ベアレの生涯についてこの記事の内容を材料として本投稿を若干加筆しました。)
Winnipeg Free Press (Jul.20 2012 - Manitoba polar bear's incredible journey ends)

(過去関連投稿)
サーカス団のホッキョクグマ今昔物語
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アメリカ・ワシントン州タコマ、ポイント・デファイアンス動物園のケネス逝く
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ホッキョクグマの歴代最高齢出産成功記録は35歳11ヶ月? ~ サツキ、産室から出る...
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by polarbearmaniac | 2012-07-19 12:00 | Polarbearology

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