街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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野生のホッキョクグマ調査研究者は動物園のホッキョクグマをどう見ているか ~ アムストラップ氏の講演

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アラスカ・アンカレッジの動物園のホッキョクグマ
Photo(C)Loren Holmes / Alaska Dispatch

フィールドワークを中心にして野生のホッキョクグマを調査している研究者たちが動物園におけるホッキョクグマの存在をどうみているのか、そもそも彼らが動物園におけるホッキョクグマの存在に関心があるのかないのかについて以前から興味をもっていました。 たとえば以前からご紹介している著名なホッキョクグマの研究者であるスティーヴン・アムストラップ (Steven C. Amstrup) 氏のような方です。

実はこのアムストラップ氏はこの6月にアラスカ・アンカレッジの動物園 (The Alaska Zoo) の 'Feast for the Beasts' (「動物たちの饗宴」とでも訳しておきます)という催し物のなかで行った講演が Alaska Dispatch の7月1日付けニュースサイトに掲載されており、その講演の中で動物園におけるホッキョクグマについて触れています。

まず、アメリカの動物園などが行っている世界での野性動物保護活動プロジェクトの貢献をあげています。 これはホッキョクグマに対象を限ったものではなく、多種多様な野生動物保護のための取組みということでしょう。 ホッキョクグマに限って言えば、人工授精などを含む繁殖への取り組みなども挙げています。 しかしアムストラップ氏は動物園の役割としてそれ以上にもっと重視しているのは、北米の動物園だけで年間1億7千万人もの数の入園者に対してホッキョクグマの置かれている状況を動物園という場で理解してもらうとともに野生のホッキョクグマを保護するために自ら何かの行動を起こすような動機を形成する場となりうる期待を込めているようです。
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アラスカ・アンカレッジの動物園
Photo(C)Loren Holmes / Alaska Dispatch

まあこれは、「動物園の意義と役割」 とそのまま言い換えても同じことで、動物園の存在は野生動物の保護につながるという考え方ですから、別にホッキョクグマだけに限ったことではありません。 アムストラップ氏は動物園での飼育下に限ったホッキョクグマの生態を研究するという関心は全くないように感じました。 というのも、「ホッキョクグマが生きていくために必要なのは海氷 (Sea Ice) である。」と言う内容をはっきりと語っているわけです。 ですから、そういった海氷 (Sea Ice) の存在しない動物園で飼育されているホッキョクグマをあえて抽出して特別に研究しようというのではなく、もっと広い視野の中で動物園におけるホッキョクグマ展示の意義を重要に考えていると理解してよいでしょう。 仮に「自然」というホッキョクグマ本来の生育の場が失われても動物園で飼育すればホッキョクグマを絶滅から救うことができるなどという考え方をアムストラップ氏がとらないであろうことは間違いないでしょう。





飼育下に限定したホッキョクグマの研究(特にその行動について)はアメリカやロシア(ソ連時代)で過去にもかなりなされており、それらは主に動物学者によるものですが、そういった研究は野生のホッキョクグマの保護とはほとんど無関係なのではないかと思われます。 飼育下におけるホッキョクグマの生態の研究も重要ではありましょうが、現在のホッキョクグマの置かれている状況を考えれば、飼育下のホッキョクグマの研究以上にはるかに重要になっているのが自然下のホッキョクグマの生態を「保護」の視点から研究するといったことでしょう。その意味でアムストラップ氏の言う「動物園(におけるホッキョクグマの存在)の意義」が導き出されるわけであり、そしてそのことはもっともだと思われます。 「自然下におけるホッキョクグマにとって不可欠なのは海氷の存在であり、その海氷の存在を脅かしているものが温室効果ガスであるから、その温室効果ガスの増大をどうやったら防ぐことができるかを考え、そしてそれに向けて行動するきっかけを与えてくれるのが動物園におけるホッキョクグマの存在である。」、これがアムストラップ氏の考える動物園のホッキョクグマが持つ存在意義であると考えて間違いないでしょう。

(資料)
Alaska Dispatch (Jul.1 2012 - Polar bear scientist: Why I care about zoos)
Smithsonian.com (Nov.2007 - Interview: Steven Amstrup)

(過去関連投稿)
スティーヴン・アムストラップ氏のホッキョクグマ研究調査・保護活動にインディアナポリス賞が授与
by polarbearmaniac | 2012-08-24 17:00 | Polarbearology

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