街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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「ホッキョクグマ飼育マニュアル(Care Manual)」よりの考察(2) ~ ホッキョクグマの訓練をどう考えるか

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ミッキー (2012年6月10日撮影 於 熊本市動植物園)
Nikon D5100  シグマ 70-300mm F4-5.6 DG MACRO

前回に続いて国内外の動物園の現状とアメリカ動物園・水族館協会 (AZA) が作成した「ホッキョクグマ飼育マニュアル(Polar Bear Care Manual)」 との関係について考えたいと思います。 このAZAの飼育マニュアルは、飼育下のホッキョクグマの福利厚生を最大限に実現するためにはいかなる方法で飼育を行えばよいかという点に主眼がおかれているわけで、人間の側の都合や満足を目的としたものではないという点を念頭に置かねばなりません。 「いかに見せるか」 とか 「いかに来園者を満足させるか」 という人間の側の事情はここでは排除されているわけです。 こういったこのマニュアルの視点を根拠づけているのが、飼育下のけるホッキョクグマに対する長年にわたってのアメリカでの研究報告ということになります。

このマニュアルには、日本の動物園におけるホッキョクグマを見ている我々日本のファンには若干違和感を持つ項目があります。 それは第8章の “Behavior Management” に記載されている “Animal Training” という項目です。 ここで述べられていることの一つに、ホッキョクグマに刺激を与えて反応を引き出すという訓練(Training)があります。 Training(訓練)と言ってしまうと何かサーカス団の動物に対する調教を連想してしまいますが、このマニュアルにおける訓練(Training)とはそういったものではありません。 このマニュアルで述べられている訓練(Training)を行う目的の一つは、ホッキョクグマに何かの刺激を与えて彼らがそれを解決しようとする反応を得ることによって彼らが日常生活で感じているストレスの軽減につなげようという考え方です。 そしてこういったことが原因の一つとなっている常同行動を減少させる効果も期待されているわけです。さらに、ホッキョクグマに何か健康の異常があった場合にこうした訓練(Training)を行うと飼育員さんが異常を早く発見できるという健康チェックの意味合いもあるそうです。 こういった訓練(Training)は来園者にその様子を見せるのが目的ではないということが重要です。 実は明らかにこのAZAのマニュアルの考え方に沿ってホッキョクグマに訓練(Training)を行っている映像がありますのでご紹介しておきます。 これは昨日も投稿しましたイギリス北部スコットランドのハイランド野生公園でのウォーカーの訓練の様子です。 以前別の機会でもご紹介したことがありました。



さらにこの下のアメリカのインディアナポリス動物園での映像も同じ考え方の基づいていると思います。 飼い犬の訓練のようなこともやっているようで、ちょっと意外な感じもします。



こういった訓練(Training)を常同行動を減少させる目的を主眼として行った映像があります。 それは下のチェコ・プラハ動物園での映像です。



このプラハ動物園のホッキョクグマは映像の冒頭のような常同行動を一日7時間も行っていたそうですが、この10分間の訓練(Training)を一日2~3回行うことによって常同行動の時間が半分に減ったそうです。 この訓練もホッキョクグマに刺激を与えて反応を引き出すという訓練である点においてハイランド野生公園やインディアナポリス動物園での訓練(Training)と共通しています。

こういった訓練(Training)の一部と類似したことを日本の動物園でも行っていることは事実です。 たとえば昼間の時間に飼育員さんがホッキョクグマにおやつを与えるというミニイベントです。 それはおやつを与えるという刺激を与えることにより、それを食べるという反応を引き出すということを意味します。 しかしそれとこのAZAのマニュアルにおける訓練(Training)が大きく異なるのは、日本の動物園ではそういったホッキョクグマの反応を来園者に見てもらうのが目的のミニイベントであるのに対し、AZAのマニュアルにおける訓練(Training)の目的は全くそうではないということです。

日本の動物園におけるこうしたイベントは、人間がホッキョクグマに食べ物を与えて彼らがそれを(喜んで)食べるのを見ることによって人間の側が、自分たちの彼らに対する優位性を確認したいという欲求を満足させようという行為のように思えて私は本来好きではありません。 それでも写真に撮ってブログに時々アップさせたりなどしてはいますから偉そうなことは言えません。 しかしAZAのマニュアルでこういった行為も一部含めホッキョクグマの訓練(Training)を行うことがホッキョクグマの福利厚生につながるということであれば、それは大変結構なことだと思います。 ただし訓練のプログラムと目的意識を持ち、そしてこれは来園者に見せるのが目的ではないとして行わない限り成果は出ないのではないかと思われます。 日本においては、動物園の現状と来園者の意識、そして飼育員さんのプロ意識といった点にも克服すべきも課題があるようにも思われます。

(資料)
Polar Bear (Ursus Maritimus) Care Manual

(過去関連投稿)
「ホッキョクグマ飼育マニュアル(Care Manual)」よりの考察(1) ~ 雄雌の同居は繁殖行動期に限定すべき?
by polarbearmaniac | 2012-09-13 18:30 | Polarbearology

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