街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ホッキョクグマ・アイカ と レディン家の物語 ~ 愛情の日々、そして悲劇的な終末へ

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ノリリスクの街角でのアイカ

ロシアの過去の映像をいろいろと見ていましたところ非常に興味深いドキュメンタリーフィルムを見つけましたので是非ご紹介しておきたいと思います。 それはロシアがまだソ連だった時代の1975年に制作された ” БЕЛЫЙ МЕДВЕДЬ Айка, Документальный фильм” (「ホッキョクグマ・アイカ」 ~ ドキュメンタリフィルム)という約55分間の映像です。 この作品には少女と少女一家が住居で飼育していたホッキョクグマのアイカ、そして野生のホッキョクグマ親子が登場しています。 何故このアイカというホッキョクグマが人間によって飼育されていたかなど状況がよくわかりませんでしたのでいろいろと調べてみましたところ驚くべきことがわかりました。 それは以下のようなことでした。

このアイカというホッキョクグマは1974年に当時のソヴィエト連邦・ウクライナ共和国のムィコラーイウという街の動物園に生まれましたが、どうもお母さんはこのアイカの育児には消極的だったようです。 たまたまその街を訪れていた生物学者のユーリー・レディンの一家はこのアイカを見て「一目惚れ」してしまったわけでした。 さらに、当時のソ連でも気候が非常に温暖だったこの地域でアイカが育つよりも自分たちが住んでいる極北の街であるノリリスクに連れて行って育てた方がよいと考えたレディン一家はこのムィコラーイウの動物園からアイカを買い取り自分たちの住むノリリスクに連れて行って自宅で飼育を始めたわけでした。
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アイカはレディン一家の6歳の娘のヴェロニカと仲良くなり、一緒に遊んだりノリリスクの街を共に散歩するようにもなったわけでした。 それが冒頭の写真です。 父親であるユーリーはホッキョクグマの生態を研究するために妻と娘のヴェロニカ、そしてホッキョクグマのアイカを連れて1975年に北極海の島に長期滞在するわけですが、その時にカメラマンのユーリー・アザロフが撮影した映像がこのドキュメンタリー映像ということです。
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映像ではレディンのキャンプ地に野生のホッキョクグマ親子が現れて付近に住みついてしまいます。 一家はアイカに食事を与えるだけでなく、ときにはこの野生の親子にも食べ物などを与え彼らの映像を非常に多く撮影したのでした。 あるときアイカがこの野生の親子の後ろにくっついてその場を立ち去ろうとしたこともあったわけですが、結局アイカは野生のお母さんには受け入れてもらえるはずもなく、再びレディン一家のもとに戻ってきたのでした。 このドキュメンタリー作品が異色なのは、野生のホッキョクグマの生態を映像で伝えるだけでなく、人間と一緒に暮らす「飼育下」のホッキョクグマが野生の親子と関わりを持てるのかという点について映像がその様子を収めている点にあります。 55分間近くの映像ですが、ご覧いただきたく思います。 必見であると強く申し上げたいと思います。 必ず最初から最後までご覧いただきたく思います。 ちなみにこの作品、いくつかの国でドキュメンタリー作品に与えられる最高の賞を受賞しているようです。



(*追記 - この映像を写真だけによって再編集した映像があります。 短時間で見ようとすると非常に便利です。)



さて、このドキュメンタリーファイルムが撮られた以降のアイカですが、このレディン一家が引き続きノリリスクの自宅で飼育されていましたが、やはり成長して体が大きくなるにつれてレディン一家は悩みぬいたあげく、動物園にアイカの飼育を託すことにしたのでした。 生物学者であったレディン氏は少しでもアイカが環境の良いところで暮らせるようにと、ロシアの動物園ではなく当時の東ドイツ(DDR – ドイツ民主共和国)のベルリン動物公園の園長さんとの合意によってアイカをベルリンに移すことにしたのでした。ベルリンへ移送する途中のモスクワでの検疫期間の最初の一週間、アイカは不安に泣き叫んでいたそうです。 レディン氏は目に涙を浮かべて当時のこの様子を回想するのでした。 一家とアイカの別れの時が来たのです。 やがてアイカはベルリンに移送されました。 ところがそこで悲劇的な事件が起こってしまったわけです。 アイカはベルリン動物公園の飼育場の壁岩から落下し、その命を落としてしまったのでした。 レディン氏はこのアイカの悲劇的最期についてその後も自分を責め続けたのでした。 「全て私が悪かったのだ。アイカはまだ一歳だった。もう一年自分たちでアイカをきちんと面倒見てやるべきだった...。」

この話を単に「野生動物をペットのようにして自宅で飼うことの間違いを犯した典型的な例だ。」などと大人の常識の正論で冷静に評価する気にはなれません。 確かにそれはその通りでしょうが、一家は自分たちの愛したアイカとこうしたことで永遠の別れを告げねばならなかったという悲しみに私は深い同情を覚えます。 ホッキョクグマという動物に心から魅せられ、そして彼らのために何かをしたいと考えたレディン一家を責める気持ちにはなりません。
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アイカの記念像 Photo(C)Заполярный Вестник

一家がアイカを育てたノリリスクの街には4年ほど前にこのアイカを記念する像ができたそうです。 以下はこのノリリスクの街の冬の摂氏マイナス54℃での様子ですが、非常に寒さの厳しい場所であることがひしひしと伝わってきます。



ちなみに付け加えておきますとこのアイカは鹿児島の平川動物公園で暮らしているホクトの母親であるアイカと同じ名前ですが無関係です。

(資料)
Заполярный Вестник (Jul.9 2008 - Медведица Айка: жизнь и судьба)
Хорошие намерения, трагические результаты
ностальгия (Белый медведь)
Заполярный Вестник (Jul.30 2008 - Просмотр видео В Норильске установили скульптуру медведицы)
Заполярный Вестник (Jul.9 2008 - Животное пополнение)
by polarbearmaniac | 2012-10-01 01:00 | Polarbearology

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