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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ドイツ・ハノーファー動物園と個体交換交渉を行った札幌・円山動物園 ~ その背景を読み解く

ドイツ・ハノーファー動物園と個体交換交渉を行った札幌・円山動物園 ~ その背景を読み解く_a0151913_1618192.jpg
シュプリンター (左)とナヌーク (右) Photo(C)Zoo Hannover

北海道にお住まいの方から「ホッキョクグマ館新設へ」というタイトルの北海道新聞の本日付の記事のコピーを送っていただきました。 同紙のネットのサイトには見つからない記事でしたので感謝いたします。 大変に興味深い記事です。 比較的長い記事ですので、記事の記述の順番を変更しながら私なりに内容を言い換えしつつ要約いたします。

① 札幌・円山動物園は今年の夏にドイツ・ハノーファー動物園とホッキョクグマの交換交渉を進めたが、円山動物園側の施設の問題で頓挫した。(こういった経緯により)円山動物園は海外の施設を調査・研究して新施設作りを進めることにした。来年度中に職員を海外に派遣して施設を調査し基本計画をまとめたい意向である。

② 新ホッキョクグマ館は2015年に着工し2017年にオープンの予定。 この新施設では展示・繁殖の両方を行い、現在の施設は繁殖専用とする。


....という内容です。 この北海道新聞の記事の内容を読まれた方で驚いた人がいたとすれば、それは円山動物園がドイツのハノーファー動物園と交渉を持ったという点でしょう 。 また、この記事を読んで喜ばれた方がいるとすれば、それは新ホッキョクグマ館 (第二ホッキョクグマ館) の建設が進みそうだという点においてでしょう。 しかし私は前者に深い意味を感じます。 ハノーファー動物園 (Erlebnis-Zoo Hannover) は当然EAZA (European Association of Zoos and Aquaria) 加盟の動物園です。 ということはホッキョクグマに関してはEEP (European Endangered Species Programmes) の範囲内で繁殖を図る施設として機能する役割を果たすわけです。 そういったEEPの範囲外である欧州域外の動物園に個体を出すということは、たとえ交換であっても基本的には行わない方針なわけです。 ところが今回の計画が頓挫したのは円山動物園の施設の問題が原因(つまりハノーファー動物園が円山動物園の施設に難色を示したということ)であると報じられている点です。 ハノーファー動物園は円山動物園にEEPの枠外にある日本の動物園とはホッキョクグマの個体交換を行わないと言えば単純にそれで済むはずなのに、何故わざわざ円山動物園のホッキョクグマ展示施設の飼育環境まで調べて、その結果として飼育環境を理由にして断ったのでしょうか?

理由は比較的簡単です。 ハノーファー動物園 (及びEAZAのコーディネーター) がハノーファー動物園の施設(有名なYukon Bay です)で飼育している2頭の雄のホッキョクグマであるシュプリンター(間もなく5歳)とナヌーク(5歳)のパートナーを見つける困難さに直面しているということだからです。 以前の投稿である「ドイツ・ハノーファー動物園のアルクトスとナヌークの双子兄弟に4歳のお誕生祝い ~ 将来への不安」、及び「ドイツ・ハノーファー動物園のアルクトス、スコットランドに無事到着しウォーカーと初顔合わせ」、及び「スコットランドのハイランド野生公園、ウォーカーとアルクトスの近況 ~ 雌の伴侶欠乏世代の個体たち」 という投稿に欧州におけるパートナー不足の問題を書いていますのでご参照下さい。 さらに、「ドイツ・ニュルンベルク動物園のグレゴールとアレウトの双子の移動先調整にEAZAが難航?」 という投稿をご参照いただきたいのですが、もう12月になろうというのに欧州ではまだホッキョクグマの移動計画が発表されていません。 つまり、この世代の雄が多すぎてパートナーとなるべき雌が不足しているわけです。 それだけではありません。 移動させようにも移動先が簡単に確保できないためにフリーダム(アウヴェハンス動物園)やヴェラ(ニュルンベルク動物園)の来年の繁殖ができなくなるかもしれません。 ハノーファー動物園(そしてあるいはEAZAのコーディネーター)としてはこういった状況を打開することを考え円山動物園から話があった時にララの子供たちとシュプリンターやナヌークを交換することは血統面から考えて有効な解決策だと考えEEPの枠の問題はひとまずは横に置いておき、個体交換の有用性を真剣に検討したであろうことは間違いないでしょう。 だからこそ日本の動物園は欧州のEEPの適用域外であったにもかかわらず、円山動物園の飼育環境を知ろうとしたということです。

私は以前から何度か書いていますが、ララの子供たちをフギースフリーダムオリンカの子供たちと交換することは血統面から考えれば欧州と日本の双方にとって有利な状況が生じるのです。 実現性はともかくとして机上の話ではそういうことなのです。 ところがハノーファー動物園は円山動物園の現在の施設ではシュプリンターやナヌークを送ることができないと考えてこの計画が頓挫したのは純粋に施設の問題だけだったと考えるべきでしょう。 つまりこの事実は欧州がこの世代の繁殖に頭を痛めているという事実を逆にあぶりだしたことを意味します。 今回の個体交換計画は頓挫したものの、難攻不落と見えたEAZAのEEPの外壁は破ろうと思えば(つまり日本側が新施設を建設して飼育環境を大幅に改善した上で欧州の動物園に個体交換を提案すれば)破れる可能性があることもわかったような気がします。 とにかく日本のホッキョクグマの繁殖計画はもう5年早く推進されるべきでした。

それにしても円山動物園はよくハノーファー動物園という、まさに「絶妙な」動物園(つまりパートナー探しで一番困り果てている動物園)を選択して話を持って行ったものです。 結果的に話は頓挫したものの、円山動物園が交渉相手としてハノーファー動物園を選択したのはホッキョクグマの血統面だけに関するならば実に正解でした。 円山動物園がなぜハノーファー動物園に目を付けたかの経緯はわかりませんが、よほど欧州のホッキョクグマ界に詳しくないとこの選択は出てこないはずです。 ただし、相手の施設(Yukon Bay)があまりに立派過ぎることが障害になってしまったということでしょう。

さて、ここでハノーファー動物園のユーコンベイ(Yukon Bay)で暮らすシュプリンターとナヌークの雄2頭の映像をまたご紹介しておきましょう。





(過去関連投稿)
ドイツ・ハノーファー動物園の新施設 Yukon Bay
ドイツ・ハノーファー動物園に仲良しトリオ出現 ~ ユーコンベイで3頭の同居開始
ドイツ・ハノーファー動物園の大きな成功
ドイツ・ハノーファー動物園のアルクトスとナヌークの双子兄弟に4歳のお誕生祝い ~ 将来への不安
ドイツ・ハノーファー動物園のウィーン生まれの双子に別離の時来る ~ アルクトスがスコットランドへ
ドイツ・ハノーファー動物園のアルクトス、スコットランドに無事到着しウォーカーと初顔合わせ
スコットランドのハイランド野生公園、ウォーカーとアルクトスの近況 ~ 雌の伴侶欠乏世代の個体たち
ドイツ・ハノーファー動物園のシュプリンターとナヌークに一足早くハロウィーンのカボチャのプレゼント
ドイツ・ニュルンベルク動物園のグレゴールとアレウトの双子の移動先調整にEAZAが難航?
ノルウェーの極地動物園、ララの子供たちの入手を狙い円山動物園と接触か? ~ 報道内容の真偽を検証する
ララの子供たちの繁殖について思う
by polarbearmaniac | 2012-11-30 17:00 | Polarbearology

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