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浜松市がキロルのパートナーの購入を検討 ~ 奇妙な報道の内容をどう考えるか

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キロル  (2012年5月20日撮影 於 浜松市動物園)

さて、中日新聞によって非常に奇妙な内容の記事(2月1日付け)が報道されています。 記事の内容を私なりに表現を多少変えつつ要約します。

①浜松市では同市の動物園のキロルのパートナーを購入するために海外の雌の個体を探し、購入可能な個体が見つかり、白羽の矢を立てた。 しかし静岡県内で一頭六千万円の事例があるなどネックは高値の価格である。以前は二千万~三千万円だった。

②浜松市のある幹部は、適当な雌がいつでも見つかるわけではないので是非欲しいが、六千万円が市民の理解を得られるか思案中であり、最新情報を集めている。

③現在の同園でのキロルの飼育は一時的な預託契約であり、時期が来れば浜松を離れる。 しかし人気者のキロルの子供ができれば、入場者が伸び悩む動物園の目玉になると市当局は考えている。


さて、この報道の内容に若干首を傾げざるをえません。 この報道の内容が仮に正しいとしますと以下のことを意味すると考えざるを得ません。

(A)購入したい雌の個体はすでに決まっていて、問題なのは高値の価格だけである。
(B)価格については相場を調べてみたら静岡市の事例が見つかり、それは六千万円だった。
(C)雌の個体導入の目的はキロルの子供ができれば入園者が増加するからである。
(D)バフィンをどうするか、キロルの所有権を持つ札幌市との話をどうするかは未定である。


まず(A)についてですが、浜松市が購入を狙う個体について私は具体的に「彼女」(以下、「娘X」と略記) のことだろうという目鼻がつきます。 年齢から考えてもまずそうでしょう。 そして正に「正札価格」は非常に高いと思われます。 しかし、別の「彼女」(以下、「娘Y」と略記)かもしれません。 もちろん「娘X」も「娘Y」も欧州のEEP (欧州絶滅危惧種繁殖計画) を担っているEAZA加盟である欧州地域の動物園で飼育されている個体ではありません。 その理由はすでに以前に書いています(上野のデアが誕生したイタリアのZoosafari はEAZA加盟ではないのでデアが日本に来ることが可能であったことも以前書いています)。 ただし「娘X」も「娘Y」もすでに日本で飼育されている個体と薄からぬ血統上の繋がりがあります。 私はこの「娘X」、「娘Y」 のうちの一頭にすでに会っています。 会ったその1頭はキロルのパートナーとしては申し分ないと思います。 しかし浜松市が白羽の矢を立てたのは多分私の会っていない個体のほうでしょう。

(B)については報道の内容が奇妙です。 先方(動物商、ブローカーなどを通じて)からの価格提示はまだないが、相場を調べてみたら最近の静岡県内の事例で一頭六千万円というケースがあったことが初めてわかったということでしょうか? そうするとこれはまだ先方に接触していないということですか? 単に一方的に白羽の矢を立てただけの「片思い」ということですか? 報道の記事を率直に読めばそうなりますね。 しかしこれはこのマスコミの取材と報道の内容に問題があると思われます。 真相は多分、すでに先方からか価格提示を受けて、あまりに高かったので相場を調べてみたら一頭六千万円の事例があったことがわかった...これが真相ではないでしょうか。 私は欧州の劇場(オペラ)関係者の何人かを知っていますが、そのうちの一人の方がかつて嘆いて言うには、「日本が格段に高いギャラを特定の歌手数人に払うために、世界中の劇場と歌手との関係における秩序、契約関係がうまくいかなくなった。 」という内容でした。 これはクラシック音楽界ではよく知られている話です。 バブル期の日本が欧州の美術品を高値で買い漁り世界の美術品市場における作品価値と価格との間の相当関係のバランスを一時的に崩してしまった話も有名です。 今回の価格の件も実はこのケースと類似したものと考えてよいでしょう。 しかしこのホッキョクグマのような入手が難しくなりつつある個体購入には「金額ブラスα」 の条件が付くことが多いはずです。 この「ブラスα」を浜松市動物園が満たすことができれば「金額」は下がり、満たせなければ「金額」は高値のままということになるでしょう。 ある動物園が入手に失敗した個体を別の動物園がそれより安い価格で難なく入手した...そういう某事例が最近ありました。 

(C)については現在の日本のホッキョクグマ界全体が内包している問題を典型的に示しているように思われます。 当面のところは日本のホッキョクグマ界は海外との協力関係無しに繁殖を推進せねばならない状況です。 どの個体とこの個体を組み合わせれば血統の多様性 (Genetic diversity) を可能な限り維持できるかを考慮しながら繁殖計画を立てて事に当たらねばなりません。 これが日本では非常に困難な状況に突き当たってしまっているいうことです。 本来は海外からの個体挿入についても日本のホッキョクグマ界全体を俯瞰した立場から繁殖計画を背景に助言を与える強力なリーダーシップをもった組織が必要なわけで、本来は「ホッキョクグマ繁殖検討委員会」がその任務を果たすのが理想的ですが、現実にはそうは簡単にいかないでしょう。 ともかく、単に「キロルの子供が生まれれば入園者が増加する」といったような単純なことをはるかに超えた問題を日本のホッキョクグマ界は抱えているわけです。

(D)についてはキロルのパートナーが見つかれば札幌市はキロルを無期限で浜松市に預託することには簡単に同意するのではないかと思われます。 問題はバフィンです。 バフィンを今後どうするかはまさに「ホッキョクグマ繁殖検討委員会」が関与すべき問題でしょう。 仮にバフィンがゴーゴとの間の繁殖がうまくいかず、そしてキロルのパートナーが確保できたらバフィンの今後の落ち着き先がないことになります。 ホッキョクグマ舎はあってもホッキョクグマがいなくなってしまった動物園に預ける...そういったことはできなくもありませんが具体的には難しいかもしれません。

さて、こうして仮にキロルのパートナーが確保できた場合、イコロの上野行きの可能性はますます濃厚になるのではないでしょうか。 もうイコロのパートナーはデアしかいないということになりそうです。 こういった状況にさらに札幌・円山動物園の新ホッキョクグマ飼育展示場建設問題が絡んでくるとどうなるか...ちょっと先の見えない状況のように感じます。

この今回の報道に何か不可思議な点を感じることの原因ですが、私は浜松市(及び浜松市動物園)が世界のホッキョクグマ界の情報入手が必ずしも十分とは言えない面があるからのような気がします。  相場云々についての姿勢からしても幾分危ういものを感じます。 浜松市(及び浜松市動物園)は「ホッキョクグマ繁殖検討委員会」、そして円山動物園をはじめとする国内の複数の動物園からもっと情報を得て腰を据えてかからないといけないように思います。 入手しようとしている個体について事前に徹底的な研究も不可欠でしょう。 浜松市 (及び浜松市動物園)には今まで以上のより一層の思慮深さが必要な場面となっているように思えます。

今後の事態の推移を見守りたいと思います。

キロルの水中おもちゃ遊び

(資料)
中日新聞 (Feb.1 2013 - 浜松市動物園の人気シロクマ キロル君の嫁探し)
by polarbearmaniac | 2013-02-02 01:00 | Polarbearology

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