街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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「ホッキョクグマ飼育マニュアル(Care Manual)」よりの考察(7) ~ 産室内の母親は室内に留め置くべきか?

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イルカお母さん Photo(C)Skandinavisk Dyrepark

この上の写真は私たち日本人にとってはまったく驚くべき写真だと言ってよいでしょう。 写真に写っているのはデンマーク・コリン (Kolind) のスカンジナヴィア野生動物公園で昨年11月21日に双子の赤ちゃんを産んだイルカお母さんですが、昨日2月1日にちょっと一息入れる気分転換のために産室から戸外に出てあたりを歩き回ったそうです。 上の写真はその時に撮影されたものです。 ホッキョクグマのお母さんが産室で子育て中は通常は室内に閉じ込めて戸外には出さないというのが一般的なやり方だというのが私たちの理解・認識です。 しかしこのスカンジナヴィア野生動物公園ではイルカお母さんの戸外での気分転換の散歩をこうして許しているわけです。 

実はこのやり方はドイツのニュルンベルク動物園でも採用していたはずです。 少なくともヴェラお母さんが2007年12月にフロッケを産んだときにはニュルンベルク動物園ではヴェラお母さんがこうして産室から戸外に出ることを許していたはずです。 しかしその時はヴェラお母さんがカメラマンの不徳な行為によって情緒不安的になって赤ちゃん(フロッケ)を咥えて戸外に出たあと、赤ちゃんを半ば虐待し始めてしまったという不幸な事件となってしまいフロッケが人工哺育に切り替えられたきっかけになったわけです。 産室から戸外に出られないようになっていればこの事件は防げたでしょう。 この件については以前「ニュルンベルク動物園の二つの選択」という5回の連続投稿にてご紹介しています。 この問題のシーンを再度、下の映像でご紹介しておきます。 産室から戸外への扉は開いているのがおわかりいただけると思います。 しかしこの事件の全ての責任はカメラマンなどのマスコミにあるわけで、こうしてヴェラお母さんに出入りに自由を認めていたニュルンベルク動物園にあるのではないということを認識しておくべきでしょう。 (しかしウスラーダやシモーナだったら同じ状況下であってもヴェラのようなことはしなかっただろうとは思いますが。)



以前にも触れたことがありますが、こうしてホッキョクグマに室内(産室)と戸外の出入りの自由を常に認めるということはホッキョクグマの人(熊)格を尊重して可能な限り自由を与えてやろうという姿勢を意味し、それはやはりそういった自由を与える人間の側の国民性や考え方が影響しているように思います。 日本のように人間の側の都合だけを中心に据えて動物をきっちり管理しようというやり方からは、このように産室内で育児中の母親を戸外に出してやるという発想はしにくいわけです。 実は昨年からこのブログではアメリカ動物園・水族館協会 (AZA) が作成した「ホッキョクグマ飼育マニュアル(Polar Bear Care Manual)」(pdf) をテキストにして具体的な事例を検証しつつ研究を続けています。 さて、このマニュアルですが今回のような件について母親の産室での育児期間中は母親を戸外に出してはいけないという記載は全く無いというのが事実です。 ただし赤ちゃんたちに関しては産室からは出さないようにするという方針は読み取れます。 お母さんが産室から(寝室などを経て)戸外に出るときには赤ちゃんたちが産室から出られないようにするために装置を設置しておくことが以下のように定められています

A 17.8" (45cm) high cubbing gate can be used to prevent
the cub(s) from following their mother out of the den when
they become mobile (Kenny & Bickel, 2005).


この装置が設置できないような産室の構造になっているとすれば、それは母親と赤ちゃんたちを産室内に閉じ込めたままでおくという通常のやり方にならざるを得ないと考えられるわけです。 とはいっても、大多数の動物園においてはやはりお母さんの産室内での育児期間中はお母さんを戸外に出すことを許すという方法を現実には採らないわけです。 そういった意味でこのスカンジナヴィア野生動物公園のやり方はホッキョクグマの自由を最大限に尊重したやり方だと言えるでしょう。 お母さんが息抜きの戸外に出ているときに赤ちゃんたちは下の写真のように産室内にいるわけです。 泣き出したらお母さんが産室の戻るということになるのでしょう。
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Photo(C)Skandinavisk Dyrepark

私たちが親しんでいる札幌・円山動物園のホッキョクグマの繁殖に関する諸々のやり方は世界の主流を行く非常にオーソドックスなやり方だと思いますが、世界の動物園ではまだまだいろいろなやり方をやっているところがあるということです。 ですからその円山動物園自体が仮にホッキョクグマの飼育・繁殖に関して同園での従来のやり方とは少し異なるやり方を今後いくつかの場面で部分的に採用したとしても、それ自体何ら不思議なことはないだろうと考えます。

(資料)
Association of Zoos and Aquariums - Polar Bear (Ursus Maritimus) Care Manual

(過去関連投稿)
「ホッキョクグマ飼育マニュアル(Care Manual)」よりの考察(1) ~ 雄雌の同居は繁殖行動期に限定すべき?
「ホッキョクグマ飼育マニュアル(Care Manual)」よりの考察(2) ~ ホッキョクグマの訓練をどう考えるか
「ホッキョクグマ飼育マニュアル(Care Manual)」よりの考察(3) ~ 胸部の変化は妊娠の兆候と言えるのか?
「ホッキョクグマ飼育マニュアル(Care Manual)」よりの考察(4) ~ 産室内の授乳の有無をどう判断するか
「ホッキョクグマ飼育マニュアル(Care Manual)」よりの考察(5) ~ 赤ちゃんの頭数・性別は事前予測可能か
「ホッキョクグマ飼育マニュアル(Care Manual)」よりの考察(6) ~ Courtship Behavior の位置付け
by polarbearmaniac | 2013-02-02 06:00 | Polarbearology

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