街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ワシントン条約(CITES)第16回締結国会議の採決でホッキョクグマを「附属書I」に移行する案が否決される

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アイラ (2012年2月1日撮影 於 札幌・円山動物園)

現在、タイのバンコクで開かれている「ワシントン条約」 (CITES - Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora : 絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)の第16回締約国会議においてアメリカが主導して提案したホッキョクグマを同条約の「附属書Ⅱ」から「附属書I」に移行させようという提案については「ワシントン条約 (CITES)第16回締結国会議とホッキョクグマの保護について ~ 賛成できぬWWFの見解」という投稿でその内容をご紹介していました。 これはすなわち、ホッキョクグマの体からできた製品の国際商取引を禁止することによってホッキョクグマの狩猟を事実上不可能にしようという提案でした。

このアメリカの提案に対して7日に採決が行われ、アメリカの提案に賛成が38か国、42か国が反対、棄権は46か国という結果となり、この提案の採択に必要な三分の二の賛成を得られず否決されたという報道が入ってきています。 実は数日前からECが妥協案として商取引の数量の割当制などをアメリカに提案していましたがアメリカはこれを拒否したという報道がありましたが、この妥協案も採決で否決されてしまったそうです。

実に残念なことです。 三年前のカタールのドーハでの会議と同じ結果になってしまったわけです。 私の予想では三分の二は無理でも過半数から賛成は得られるのではないかと思っていましたが、その過半数にも届かなかったわけです。 イヌイットの団体はバンコクで「勝利宣言」をしているようです。 従来からアメリカの提案に反対していたカナダ政府は、このワシントン条約の事務局やWWF、そして例のトラフィックとかいう団体 (Traffic - Wildlife Trade Monitoring Network) からの支持を取り付けて今回もアメリカの提案に反対したわけですが、やはりアメリカが現時点に至るまでのホッキョクグマの頭数の推移が減少していること、及び今後の減少予測を十分に科学的なデータに基づいた説得力を持って条約の加盟国に示しきれなかったという点に一番大きな敗因があると思われます。

さて、そうは言うもののホッキョクグマにとってはかなりのダメージです。 「附属書I」に入れるための科学的な立証が必要な生息数減少率という条件を満たせるかどうか (つまり3世代 - ホッキョクグマの場合には45年間 - にわたって50%以上の生息数の減少という条件) をもってホッキョクグマの国際商取引を認めるか認めないかという、そういった枠組みの話に収斂させてしまったのでは野生動物の保護というものを非常に「静的」に捉えてしまうこととなり、このワシントン条約のそもそもの趣旨を外れた形式論に陥っているいると言わざるを得ません。 「附属書I」の充足要件を墨守しようと汲々とするがあまり、肝心のこのワシントン条約の趣旨と存在意義を忘れた本末転倒な見解を提示してカナダ政府の主張を援護し、結果的に自らの使命である野生動物の保護活動の使命に反する行動を行ったWWF の責任は重大であると言えましょう。 野生動物の保護については、その生態環境の変化が及ぼすであろう将来の可能性まで取り込んでいくような「動的」な取り組みがなされない限り、すべて対策が後手に回るということになるのです。 非常に生息数が減少してからあわてて対策をとっても効果は薄いわけです。 現在のワシントン条約の枠組みと野生動物の効果的な保護との間に溝が横たわっていると言ってよいかと思います。 

アメリカには是非とも次の会議でもこの提案をしてほしいと思います。 それまでに、過去のデータ及び将来の頭数予想を明確にわかりやすい形で提示できるようにすべきでしょう。 それと同時に、野生動物をどうやったら守れるかということをその原点に立ち返って主張し、生息数維持のために狩猟などの人為的な脅威を排除することの意味を強く訴えるべきでしょう。 毎年カナダだけで600頭ものホッキョクグマが殺されているなどという現状を肯定できるはずがありません。 (そういった現状のさらなる継続を主張したのがカナダ政府とWWFであるという事実を肝に銘じておく必要があります。)  イヌイットの主張を一つ一つ潰していくことも不可欠です。 私自身としてはイヌイットの主張、イヌイットの生活を賛美する一部写真家の発言とその作品、そしてWWFやTraffic などという団体が本当にどういう活動を行っているかについて、今まで以上に厳しい視線で見つめていこうと思っています。

以下は今回の採決の後でBorn Free という動物保護団体の責任者の方が会場の外で採決の感想を述べているものです。私はこのBorn Free という団体は支持しませんが、しかしこの方の発言の内容には賛成です。



それから以下はCNNの番組で 国際動物福祉基金 (International Fund for Animal Welfare) の北米代表の方が今回の採決の結果を語っています。 このIFAW という団体も私は支持しかねますが、しかしこの方の今回の件について語っていることそのものに関しては正しいと思います。



(資料)
AP (Mar.7 2013 - Conservation body rejects polar bear trade ban)
New York Times (Mar.7 2013 - Proposal to Ban Trade in Polar Bear Parts Is Rejected)
The Guardian (Mar.7 2013 - Bid to halt polar bear trade fails)

(過去関連投稿)
ワシントン条約 (CITES) 第16回締結国会議とホッキョクグマの保護について ~ 賛成できぬWWFの見解
アメリカの絶滅危惧種保護法 (Endangered Species Act) とホッキョクグマ ~ 連邦控訴裁判所の決定について
by polarbearmaniac | 2013-03-08 01:00 | Polarbearology

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