街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ロシアの3つの動物園が共同で異種間移植(ホッキョクグマ → ヒグマへの胎仔移植)の実験を行うことを発表

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ロモノーソフとウスラーダお母さん (ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園) Photo(C)ALEXANDER DEMIANCHUK / REUTERS

ひょっとしてこれも冗談半分の話と考えたほうがよいかもしれないニュースがロシアから流れてきています。 ロシアのヴォルガ河流域の都市、ニジニ・ノヴゴロドにあるニジェゴロド動物園 (Зоопарк «Лимпопо» г. Нижний Новгород – Нижегородский зоопарк) のヴラディーミル・ゲラシーチキン園長は、ニジェゴロド動物園に教育センターの新設や新しい飼育展示場を建設する具体的計画を発表すると同時に、同園がホッキョクグマの繁殖に関してモスクワ動物園、カザン市動物園との共同研究と実験を行う予定であることを発表しました。 その研究の内容ですが、「ホッキョクグマの胎仔を雌のヒグマに移植して」(*注 - 今回の件のロシア語の表現である “...... по внедрению в самку бурого медведя эмбриона белого медведя” をどう正確に理解するかですが、эмбрион はロシア語の辞書で調べると「胚」という日本語をあてています。多細胞生物の個体発生におけるごく初期の段階の個体という意味です。 しかしホッキョクグマの場合は受精卵の着床はかなり遅れるはずで、そうなると эмбрионを「胚」 という訳語を当てるのが正確なのかどうか私の知識では判断がつきません。 ただし、このロシア語の эмбрион に「受精卵」という訳語を与えるのは無理のように思います。 何故かといえばロシア語の辞書を複数あたってみた限りでは、ロシア語では зигота という語にだけ「受精卵」 という訳語を与えるのが正確であるらしいからです。 さらに、по внедрению に対してどういう訳語を当てるかですが、ロシア語本来の意味では「導入」となるはずですが前後の文脈から考えればこれは「提供」という意味に解すべきでしょう。 そうすると今回の件についての上のロシア語は、直訳すると「雌のヒグマにホッキョクグマの胚を提供する」 ということになりますが、これを思い切って私なりに言い換えて、「ホッキョクグマの胎仔を雌のヒグマに移植して」 と表現することにします。 この件に関しては、ロシア語に非常に詳しい動物学者の方の御意見をお伺いしたいところです。) 雌のヒグマにホッキョクグマの子供を産ませることによって飼育下においては繁殖率の低いホッキョクグマの頭数を増やそうという実験に着手する予定であるとニジェゴロド動物園のヴラディーミル・ゲラシーチキン園長は語っています。

この今回の件は以前、旭山動物園の「園長室 - 動物園での獣医新技術活用」というページで前園長の小菅さんが書かれていたことと非常に似ているように思います。 ただし小菅さんは、「ホッキョクグマの受精卵をヒグマに移植し、ヒグマにホッキョクグマの仔を育てさせ...」 と言っていますが、今回のロシアの3園共同研究の件はロシア語の表現からだけ言えば小菅さんの言っていることとはやや異なることをやろうとしているような印象も受けます。 理論的には勿論こういったことは可能なわけですが、まず最初に移植を前提としたホッキョクグマの雄の精子とホッキョクグマの雌の卵子の人工授精を試験管の中で行うということになるのでしょうか? ところがこのホッキョクグマの人工授精というのは昨年アメリカで初めて行われたという段階で (その時のケースは試験管の中で行ったのではありませんでしたが)、まだまだ一般化されていない技術です。 仮にそうやって試験管の中で授精させた受精卵を、どうやってヒグマに移植しようというのでしょうか。 いろいろなことについて、あまりにハードルが高いように思います。 さて、そういったことを首尾よくクリアしたとして仮に雌のヒグマがホッキョクグマの赤ちゃんを出産しても、その後も問題なのではないでしょうか。 それとも出産後に赤ちゃんをヒグマのお母さんからとりあげて人工哺育で育てようということなのでしょうか?  確かにアイディアとしてはよくわかるのですが、生命倫理の点で問題はないでしょうか? この今回のニジェゴロド動物園、モスクワ動物園、カザン市動物園の3園共同研究によって予定されている実験については、もっと具体的なことが明らかにされてほしいと思います。 今回の簡単な発表を聞く限りにおいては、自然繁殖のほうがまだ確率が高いように感じるのですが...。

この件に関しては注目しつつ、ロシアからの後日の続報を待ちたいと思います。

(資料)
Московский Комсомолец (Mar.4 2013 - В «Лимпопо» самка бурого медведя будет вынашивать белого медвежонка)
В Городе N (Mar.4 2013 - В Нижегородском зоопарке «Лимпопо» появится образовательный центр для детей)
ARCTICunivers (Mar.11 2013 - Сотрудники нижегородского зоопарка увеличивают популяцию белых медведей)
旭山動物園 (園長室 - 動物園での獣医新技術活用

(過去関連投稿)
アメリカ・ニューヨーク州 ロチェスターのセネカ動物園が史上初のホッキョクグマの人工授精を行う
アメリカ・ニューヨーク州 ロチェスターのセネカ動物園でのオーロラへの人工授精、結果は実らず
by polarbearmaniac | 2013-03-11 01:00 | Polarbearology

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