街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ホッキョクグマの赤ちゃんの授乳時の左右の位置関係と性別、及び 「左利き/右利き」 との関係について

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ララお母さんとノワール、ブランシュ(仮称)の双子
(2013年3月31日撮影 於 札幌・円山動物園)

先日の投稿で、赤ちゃんが雄と雌という性別の異なる双子であった場合に「雄(オス)の赤ちゃんは母親の左乳を吸い、雌(メス)の赤ちゃんは右乳を吸う」 という私なりの仮説について述べました。 そして、仮に今回のララの新ツインズの性別が異なるのであれば、ララの左乳の飲むノワール(つまりララの正面に向かって右側)が雄(オス)ではないかという私なりの考えを書きました。 実は昨シーズン(2012~13)で世界の動物園で誕生した赤ちゃんのうちすでに性別が判明していて、なおかつそれが雄と雌であることが判明している赤ちゃんといえば、オランダ・ヌエネンの「動物帝国」で昨年11月16日にフリーマスお母さんから誕生した双子の赤ちゃんである雄のピセル (Pixel) と雌のノルチェ (Noordje) がいるわけで、ではこのピセルとノルチェの場合はどうなのかということを調べてみました。

実はこのピセルとノルチェがフリーマスお母さんから授乳を受けている映像はいくつか公開されており、その授乳シーンの直前の行動、体の大きさの違い、その他いくつかの要素をいろいろな角度から、いったいどちらがピセルでありどちらがノルチェであるかを判断する映像分析を行ってみました。 その結果ですが、完全に自信があるわけではありませんがフリーマスお母さんの右乳を吸っているのはやはり雌(メス)のノルチェ、フリーマスお母さんの左乳を吸っているのが雄(オス)のピセルであるらしいと推察しうる結果になりました。 さて、ここまでは私の仮説に合致していることになるわけですからそれでよいのですが、実は一つだけ興味深い映像がありましたので以下にご紹介しておきます。 この映像をよくご覧下さい。 映像開始後1分11秒から以降の授乳シーンです。



ここでなんとこの2頭は両方ともフリーマスお母さんの左乳を吸っているわけです。 その他のこの親子のネット上での授乳映像ではすべて、ノルチェ(と思われる赤ちゃん)が右乳を、そしてピセル(と思われる赤ちゃん)が左乳を吸っているのですが、上の映像だけはそうではないわけです。 となれば、「雄(オス)の赤ちゃんは母親の左乳を吸い、雌(メス)の赤ちゃんは右乳を吸う」 という私の仮説は飛躍していることになり、正確には「授乳時において雌(メス)の赤ちゃんは雄(オス)の赤ちゃんの左側に位置して授乳を受ける」 という程度以上のことは仮説としては提示できないと考えるべきであることがわかりました。 左側に位置しているからと言って常に右乳を吸うとは限らないということになります。
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フリーマスお母さんとノルチェ、ピセルの双子 
Image : Mindy van den Broek

さらに次に、この授乳時の左右の位置関係が性別ではなく赤ちゃんの「利き手」(ホッキョクグマの場合は正確には「利き前脚」ということになりますが) に関係があるからではないかという可能性を考えてみたいと思います。 実は 「ホッキョクグマは基本的に全て左利きである。」 という考え方が欧米では広く信じられているわけです。 この説の根拠になっているのはイヌイットの観察によるものだそうです。 イヌイットによると、「ホッキョクグマの左前脚よりも右前脚のほうが緊急時において少し遅れてゆっくり動く。」 というのが彼らの観察だそうです。 これはつまり、「ホッキョクグマは左前脚のほうが右前脚よりも動きが俊敏であるから、ホッキョクグマは基本的に左利きである」 と解釈され、それがこの「ホッキョクグマ左利き説」 の根拠になっているというわけです。 ところが、カナダでホッキョクグマの生態調査を行っている複数の研究者によれば、麻酔銃で眠らせたホッキョクグマの脚部をチェックしてみると左前脚と比較して右前脚のほうが傷の痕跡がはるかに多く発見されるとのことで、これは「ホッキョクグマは獲物を得るための狩りや、その他の活動において左前脚よりも右前脚をはるかに多く使用することを意味している」 と解釈され、このことが「ホッキョクグマは基本的に右利きである」 ことを意味するという研究報告を出しているそうです。 つまりイヌイットの観察を根拠にした 「ホッキョクグマ左利き説」 に真っ向から対立する研究結果ということになります。

お馴染みの Polar Bears International はこのホッキョクグマの利き脚について、HP の Polar Bear Facts & Information のページで、欧米で信じられている 「ホッキョクグマ左利き説」 は根拠のない誤解 ("Myths and Misconceptions") であると位置付け、この「左利き説」を一蹴しています。 研究者の長年の観察によれば、ホッキョクグマは左右の脚を同じだけ平等に動かし、人間 (そして一部の霊長類) にはある「左利き」「右利き」という 「利き脚」 はホッキョクグマには存在しないというのが観察者の得た結論であり、そしてそれが Polar Bears International の見解かつ結論でもあるということになります。 ここで3月22日、円山動物園で新ツインズがお披露目になった日に私の撮った映像を再度ご紹介しておきます。 ここでララお母さんは雪を掻くのに左前脚と右前脚を交互に使っています。



次に一昨年、モスクワ動物園で私が撮ったウランゲリの映像をご紹介しておきます。 彼も左前脚と右前脚を交互に使って人工雪を掘っています。 ただし右前脚を用いる時間が幾分多いかなという程度です。



たったこの2つの映像だけでも、少なくともイヌイットの観察を根拠にした「ホッキョクグマ左利き説」についてだけは全く成立しないように思われます。 いや、そもそも 「ホッキョクグマには利き脚がある」 という考え方それ自体が確かに誤解であるように思われます。 ある特定の場面だけ取り出せばあたかも左脚、又は右脚を好んで用いているかのように見えても、そのこと自体がホッキョクグマにおける「利き脚」 の存在を意味しているわけではないというのが正しい理解だと言えそうです。  私自身は以前からなんとなく、ホッキョクグマにも「利き脚」 はあるだろうと思っていましたが、どうもその考えは捨て去らねばならないようです。 さて、ということになりますと、ホッキョクグマの赤ちゃんの授乳時の左右の位置関係が彼らの「右利き」「左利き」と関係があると考えることは極めて困難であるということを意味することになります。 ともあれ、このホッキョクグマの赤ちゃんの授乳時の左右の位置関係が性別に関係があるという私の仮説ですが、さらにこれからもっといろいろな例にあたってみたいと思っています。

(資料)
Polar Bears International (Polar Bear Facts & Information - Myths and Misconceptions)
Wikipedia (Polar Bear - Physical characteristics "Research of injury patterns in polar bear forelimbs found injuries to the right forelimb to be more frequent than those to the left, suggesting, perhaps, right-handedness")
Studies on the footpads of the polar bear (ursus maritimus) and their possible relevance to accident prevention (The Journal of Hand Surgery: British & European Volume Volume 10, Issue 3, October 1985)
Blurtit ("Are Polar Bears Left-handed Or Right-handed ?")

(過去関連投稿)
「行動範囲の拡大したノワールとブランシュ(仮称)にララお母さんの心配の種は尽きず ~ 一般公開9日目」
オランダ・ヌエネンの「動物帝国」で誕生の双子の赤ちゃんのピセルとノルチェ、早々と戸外に初登場!
ウランゲリ のユーモラスな避暑法
by polarbearmaniac | 2013-04-03 23:30 | Polarbearology

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