街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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アメリカ・ノースカロライナ動物園のアキーラが改修後の展示場に元気に登場 ~ 「マニトバ基準」 を考える

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改修された展示場に登場したアキーラ Photo(C)WFMY News

先日、「アメリカ・デトロイト動物園のアキーラが施設改修工事が終了したノースカロライナ動物園に戻る」という投稿でデトロイト動物園に預けられていたノースカロライナ動物園の20歳の雄のアキーラ (Aquila) がこのたびホッキョクグマ展示場の改修工事の終了したノースカロライナ州アッシュボロのノースカロライナ動物園に戻ってきたことをご紹介しています。 そしてとうとう今週の水曜日の15日にこのノースカロライナ動物園の展示所がオープンされ、アキーラが元気にそこに姿を現しました。



前回の投稿でも書いたのですが園長さんはホッキョクグマの繁殖を希望する趣旨の発言を行っておりアキーラのペアとなる相手はもちろんでしょうが、若年個体ペアの導入も希望をしているようです。ノースカロライナ動物園は今回オープンした従来の展示場の改修工事と並行して新しいホッキョクグマの展示施設の工事も並行して行っています。 来年2014年に完成の予定だそうです。 総工費は約850万ドルとのことです。 それが完成した後にもう一頭のホッキョクグマであるウィルヘルムが戻ってくるという段取りのようです。





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アキーラの帰還を歓迎するノースカロライナ動物園 
Photo(C)WFMY News

アメリカの動物園のホッキョクグマ展示場の改良工事は次から次へと進行中で、これはAZA (Association of Zoos and Aquariums - アメリカ動物園水族館協会) の定めたホッキョクグマの飼育基準に適合するように建設が行われているわけです。 適合しない施設では今後はホッキョクグマの飼育ができなくなるということです。 この AZA の飼育基準については Standardized Animal Care Guidelines – Polar Bear) をご参照いただきたいのですが、この AZA の基準というのは基本的にはカナダ・マニトバ州の「ホッキョクグマ保護法 (‘Polar Bear Protection Act’)」 (PBPA, 2002) に準拠しているわけですから、飼育環境の基準についてもこのマニトバ州の「ホッキョクグマ保護法」で定められたホッキョクグマ保護規定 (通称「マニトバ基準」 )(Polar Bear Protection Act - Polar Bear Protection Regulation) を基本的に踏襲していることになります。 しかしそういった「マニトバ基準」には明確に定められていない多くの事項についても、実はAZAの規準は設定しているのです。 AZA の基準に関して展示場の面積についての部分だけ下に抜き出しておきます。これだけでも相当に長いですので、具体的な面積を指示している部分は太字にしておきます。

AZAの基準
Exhibit size: Polar bears in the wild are nomadic animals that
cover large landmasses. Although in some parts of their range
polar bears cover relatively large areas while on solid ground,
their mobility on land is dwarfed by their movements while on
the sea ice – their preferred habitat. Clearly, no captive
situation will be able to address the natural mobility of the
species. What can be done, however, is to maximize the
variety captive animals encounter in their surroundings,
and to compensate for lack of physical space with varied,
daily enrichment opportunities (see section 5.7 for additional
information) that promote species-appropriate behaviors.
The AZA Bear TAG, in conjunction with the Manitoba
Standards, state that 1-2 bears should be given access to
5400ft2 of dry land, with an additional 1650ft2 of land
for each additional polar bear (PBPA 2002).

The bears’ normal gait is a slow, lumbering walk of about
3 miles per hour. Bears can gallop for short distances,
and immature bears can run as far as a mile. Exhibits should
be designed to allow for walking and running opportunities.
Research suggests that polar bears may be susceptible to
the development of abnormal behaviors in captivity due to
their wide-ranging nature in the wild (Clubb & Mason 2003).
Enclosures with complex path ways and designs help reduce
stress, stereotypic behavior, and other abnormal behaviors.

Polar bears are excellent swimmers, using their large front
paws as powerful oars, and their rear paws as rudders.
A polar bear may remain submerged for over a minute.
The AZA Bear TAG recommends that large pools with
an area of 760ft2,
and with a deep end that is 9 feet or
more deep (PBPA 2002) should be incorporated into exhibits.
The USDA Animal Welfare Act (AWA 2005) mandates that
polar bear pools be a minimum of 5 feet deep, and a surface
area of at least 96ft2; the AZA Bear TAG recommendation
supercedes these dimensions. It is recommended that pools
are irregular in shape, containing both deep and shallow
areas. Innovative pool designs, such as a donut-shaped pool,
may be built to test if different patterns can decrease
water-based stereotypies. The bears often utilize the shallow
areas for wading and play. Cool water (55-70°F) with live fish,
smooth pool walls and ledges, an island, rocking icebergs
(polar themed floats), moving logs/trees, waterfalls or
streams flowing to the pool, changing currents and a wave
machine would be ideal. It is important to have freshwater
(pond, stream, pool and/or drinking trough/s) available for
the bears in addition to the pool. If floating objects are
provided in the pool, care must be taken to ensure that they
do not damage the pool structure (see section 1.4.9.).
Refer to section 1.5.1 for more details on water quality issues.


以上がAZAの基準です。 一方、この面積に関する具体的規定について「マニトバ基準」はどのように規定しているでしょうか。

「マニトバ」基準 (正式には、マニトバ州「ホッキョクグマ保護法」 の「ホッキョクグマ保護規定」 "Polar Bear Protection Act - Polar Bear Protection Regulation")
Size of exhibit area
An exhibit area in a facility containing one or two polar bears
must be at least 500 m2. The size of the exhibit area must
increase by an additional 150 m2 for each additional polar
bear in the facility.


一頭もしくは二頭の飼育展示場は少なくとも5400平方フィート(*約500平方メートル)なければならず、さらに一頭ごとの追加で1650平方フィート(*約150平方メートル)を追加というわけです。 その展示場の中にプールは760平方フィート(*約71平方メートル)は確保されていることが推奨されるというわけです。 飼育展示場の面積についてAZAの基準は 「マニトバ基準」 に準拠していますので条件は同じです。 ただし、マニトバ基準ではプールの広さについては明確な義務規定がありません。 ですのでその欠缺をAZAは独自に推薦基準として設定して定めているわけです。 プールの形状については「不規則な形状」を推奨しています。 プールの広さははあくまでも「推薦 (recommendation) 規定」 というわけです。 このようにAZAの基準は、ホッキョクグマの飼育に関して基本的な基準を規定している「マニトバ基準」をそのまま踏襲し、さらに「マニトバ基準」には規定されていない条件についても追加して規定している基準であるということです。 つまりこれが「マニトバ基準」とAZAの基準との間の関係であるわけです。 アメリカの動物園の新ホッキョクグマ飼育展示場の建設は全てAZAの基準をクリアするものでなければなりませんから、そのAZAの基準をクリアすれば即ちそれは「マニトバ基準」をクリアしたものとなるわけです。

男鹿水族館は2つの展示場の合計が約500平方メートルだったはずですが、そうすると一つの展示場エリア (“An exhibit area”) で少なくとも500平方メートルという「マニトバ基準」(そしてAZAの基準)に本当に合致することになるのでしょうか?  しかしまあ、「あの2つの展示場は実は連絡通路で繋がっているので、実質的には一つの展示場なのである。」 という解釈ならば確かに「マニトバ基準」 にはギリギリのことろで適合していることになるでしょうね。 多分そういう解釈なのでしょう。 少なからず苦しい解釈のようにも感じないわけではありませんが、これ以上は考えないことにしておきます。

施設のハード面で「マニトバ基準」(そしてAZA の基準)に到底及ばない日本の大多数の施設ですが、今日からでもその基準に合致させることが可能な重要な規定があります。 それは以下です。 その部分の「マニトバ基準」を抜き出しておきます。 この趣旨についてはかねてから私も何度か書いていますがこういうことです。

Unrestricted access in facility
6(1) Subject to subsection (2), the polar bear must be allowed to move freely between the exhibit area and the off-exhibit
area at all times.


ホッキョクグマには展示場と室内の間を、いついかなる時でも自由に出入りすることを可能とさせてやらねばならない。

これはプールの広さや形状のような「推薦 (recommendation) 規定」 ではありません。「義務 (must be) 規定」 なのです。 施設のハード面で「マニトバ基準」を実現することは直ちには無理でも、少なくともこの点に関しては今からでも実行可能なのです。 日本でホッキョクグマを飼育している全ての動物園で今後、彼らに室内と室外との間の出入りの自由を是非とも認めるべきでしょう。 日本の動物園と同様にホッキョクグマ飼育展示場の施設が貧弱なロシアの動物園(モスクワ動物園を除く)は、少なくとも私の訪問したモスクワ、サンクトペテルブルク、ペルミ、カザン、カリーニングラード、ハバロフスクの動物園に関する限りではすべて出入りの自由を認めていました。 

もし札幌・円山動物園で今これをやったら、ララ親子はお昼寝は室内に戻って行う可能性が大きいでしょう。 そうなると、たまたまお昼寝中にホッキョクグマの赤ちゃんを見に来た一般来園者は大いに文句を言うでしょね。 その場合、「ホッキョクグマの赤ちゃんを見に来て下さい」と呼びかけている動物園側としては対応が難しいでしょうね。 私は昨年3月にモスクワ動物園にシモーナお母さんの産んだ三つ子の赤ちゃんを数日間にわたって見に行きましたが、シモーナ親子の室内でのお昼寝時間は非常に長く、場合によっては5時間を超えるときがありました。 ところがお昼寝がたった30分ほどの時もあるという具合に一定していないのです。 そうなると、いつまでお昼寝が続くのかの全く予想のつかない状態だったわけです。 朝にホテルの朝食で多量のパンの他にベーコンやソーセージを腹一杯食べ、ゆで卵も3つ食べる...そしてモスクワ動物園の開園から閉園までひたすら寒いホッキョクグマ展示場前に張り付いて昼食は一切とらない...これが私の昨年のモスクワ動物園でのスタイルでした。 大変でしたが今では楽しい思い出になっています。 

一昨年4月にドイツのニュルンベルク動物園でヴェラお母さんとグレゴールとアレウトの双子の赤ちゃんに会いに行ったときですが、この双子は一日に数回あるお昼寝はやはり室内で行います。 ところが、まるで時計でも見ているかのようにピッタリ一時間経過すると赤ちゃんたちは外に出てくるわけです。 そしてドイツのお客さんたちもピッタリ一時間するとホッキョクグマ展示場に再集結するわけです。 ホテルからニュルンベルク動物園まで乗ったタクシーの運転手さんが、「ホッキョクグマの双子の赤ちゃんのお昼寝時間は1時間だよ。」 と言っていましたが、本当にその通りでした。 さすがに時間には正確なドイツ人客とドイツのホッキョクグマの赤ちゃんたちだと内心苦笑しました。 やはりモスクワ動物園のシモーナ親子はロシアのホッキョクグマですね(笑)。 いつ外に出てくるかの予想がつかないわけです。 とはいってもニュルンベルク動物園のヴェラお母さんはモスクワ動物園育ちでシモーナお母さんの娘ですが、ドイツで飼育されているうちにドイツのホッキョクグマの気質を身に着けたということでしょうか(笑)? 

話がすっかり外れてしまいました。 とにかく、室内外の出入りは是非とも自由にさせてやりたいと思います。 「マニトバ基準」 といえばすぐ飼育展示場の面積のような施設のハード面に関心が行きがちですが、こういった 「出入りの自由」 も「マニトバ基準」 なのです。 ホッキョクグマたちが室内に入ってしまい姿が見えなくなっても、我々は寛容な態度を持つべきでしょう 。 モスクワ動物園のロシア人のお客さんたちはその点、非常に寛容なのです。 大戦末期にまるで火事場泥棒のように日本から北方領土を奪い、そして明確に国際法に違反して日本人捕虜を強制的にシベリアに連行して賃金も払わず強制労働をさせ、過酷な条件で多くの捕虜の方々の命を奪った悪しきロシア人たちですが、動物園のホッキョクグマ展示場における姿の見えないホッキョクグマたちに対する寛容さだけは見習う必要があるかもしれません。

(資料)
WFMY News (May.15 2013 - Aquila Polar Bear At NC Zoo Back In His Newly Renovated Home)
Fox8 News (May.15 2013 - Polar bear returns to NC Zoo)
ASSOCIATION OF ZOOS AND AQUARIUMS (Standardized Animal Care Guidelines – Polar Bear)
カナダ・マニトバ州 「ホッキョクグマ保護法」 - Manitoba ‘Polar Bear Protection Act’ (PBPA, 2002)
カナダ・マニトバ州 「ホッキョクグマ保護法」・ホッキョクグマ保護規定 (通称「マニトバ基準」) - Polar Bear Protection Regulation)

(過去関連投稿)
アメリカ・ノースカロライナ動物園のアキーラがデトロイト動物園へ ~ 急ピッチの欧米の施設新築
アメリカ・ミシガン州、デトロイト動物園に移動したアキーラの姿
米・ノースカロライナ動物園のウィルヘルム、ミルウォーキー動物園へ一時移動 ~ 彼のサーカス団時代の境遇
アメリカ・デトロイト動物園のアキーラが施設改修工事が終了したノースカロライナ動物園に戻る
by polarbearmaniac | 2013-05-18 07:00 | Polarbearology

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