街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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アラスカで保護された野生孤児カリーをめぐるバッファロー動物園とセントルイス動物園との微妙な関係

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カリー Photo(C)John Gomes

アメリカ・アラスカ州の海岸近くでで先月3月12日に野生孤児として保護されアンカレッジのアラスカ動物園に送られてしばらく飼育された後、つい先日の14日にニューヨーク州のバッファロー動物園に移送された雄の赤ちゃんであるカリー (Kali) については遂次その状態を追ってきました。 カリーがバッファロー動物園で人工哺育で育てられたルナとの同居が予定され、そこでルナの「適応化 (Socialization)」 の試みがなされることも投稿してきました。 現段階ではまだカリーの検疫期間が続いているようでバッファロー動物園での同居開始のニュースは流れてきていません。

さて、このカリーのバッファロー動物園での滞在は比較的短期間(半年ほど)となる旨の報道はすでになされており、その後カリーはセントルイス動物園に移動してそこに完成する新施設に暮らすことになる予定です。実はこれはかなり微妙な問題があり、バッファロー動物園でカリーとルナの共同展示が始まれば大人気となることは間違いなく、ファンの強い希望を背景としてバッファロー動物園がカリーをルナの将来の繁殖上のパートナーとさせるためにカリーの引き続きの同園での飼育を、形式上カリーの所有権を持つ魚類野生動物保護局 (U.S. Fish and Wildlife Service) に対して願い出る可能性は十分あるだろうと私は見ています。 まさにそれは、あの人工哺育で育てられたフロッケの「適応化 (Socialization)」 のために期間限定で彼女と同居させたはずの雄のラスプーチンが、結局はフロッケの恒久的な繁殖上のパートナーになってしまった件を彷彿とさせる状況になる可能性があるでしょう。 そういうフロッケのような前例のある状況を作ろうとバッファロー動物園では懸命に動くでしょう。 実は比較的早い段階からカリーの最終的な落ち着き先はバッファロー動物園ではなくセントルイス動物園であることを堂々とマスコミに語っていたのはアラスカ動物園の園長さんでした。 その園長さんはアラスカの魚類野生動物保護局の担当官とカリーの保護の件について密接な連絡関係を持っていたために魚類野生動物保護局が今後カリーをどうするかについての情報を入手しやすい立場にあって、その情報をマスコミに語ったというのが事実でしょう。

実は最新の報道で、あるジャーナリストがセントルイス動物園の担当者にこの件を取材しようとしたところ、このカリーの件に関してのコメントを断られたようですが、それでも食い下がってセントルイス動物園の担当者からいくつかのことを聞き出しています。 セントルイス動物園の担当者が言うには、2015年に完成するセントルイス動物園の新施設 "Polar Bear Point" がアメリカでの有数の極めて優れた施設となり、カリーがその施設において最高の飼育環境のもとで暮らすことができると述べています。 野生孤児となって保護されたホッキョクグマをどこの動物園で保護するかについては、すでに施設はあってもホッキョクグマが飼育されていない動物園であるかそうでないかが問題であり、飼育環境の質の低い動物園にそういった野生孤児個体を移動させるようなことはないのだ、と語っています。 このセントルイス動物園の担当者は、バッファロー動物園よりもセントルイス動物園の飼育環境が(新施設完成後)は優っており、しかも施設は完成してもホッキョクグマの飼育されていないセントルイス動物園のほうがカリーの最終的な飼育場所として優っていることを言いたいようです。 なにしろ、建設中のこの新施設である "Polar Bear Point" はあの Polar Bears International の協力も企画の時点から得ており、総工費二千万ドル(約20億円)という巨額の費用が投じられているわけです。 新施設建設は見切りで開始されているとはいうものの、その費用についてはまだ募金活動さえ続けているバッファロー動物園に圧倒的な差をつけているわけです。 これでは勝負になりません。 このセントルイス動物園に建設中の新施設である "Polar Bear Point" について同動物園が完成予定図をアニメで紹介していますのでご紹介しておきます。

 

さらに今後におけるカリーとルナとの間の繁殖の可能性についてセントルイス動物園の担当者は、そういった将来の可能性は否定しないものの、一般論として重要なのは繁殖によって生み出される個体が、血統面においてどうアメリカ国内、そしてさらに世界の動物園にとってより有利となるかであるという意味の発言も行っています。どうもこの発言から推察するとセントルイス動物園は野生孤児のカリーと飼育下の両親を持つルナとを組み合わせるよりも、カリーには今後も同じような状況で保護されるであろう野生個体の雌とを組み合わせたほうがよいと考えているらしいことがわかります。 おそらくセントルイス動物園では、同園内に来年完成予定の全米でも筆頭となるであろう優れた飼育環境のホッキョクグマ飼育展示場の存在をアピールすることによって、雄のカリーに加えてさらにもう一頭の雌の野生個体を入手しようという意図があるとものと思われます。 その2頭との間で繁殖を実現したほうが血統面においてはるかに有利だと考えているのでしょう。 そしてそのほうが、来園者数を増やすのに好都合だとも考えているのでしょう。 以前に「アメリカで登場したホッキョクグマ輸入の特別枠要求への動き」という投稿をしていますのでそれをご参照いただきたいのですが、その話とつながってくるわけです。 やはりセントルイス動物園の戦略というものを垣間見せてくれるような気がします。 (*追記 - 冒頭のカリーの写真を今一度じっくりと見て下さい。 いかにも、「ボクは男の子だよ。」 という顔をしています。 ノワール(仮称)やブランシュ(仮称)やクーシャ(仮称)の顔つきとはまるで違っています。 誰が見ても「雄」というのがカリーの顔つきです。)

(資料)
TakePart (May.22 2013 - Surprise! A Happy Ending for Kali the Orphan Polar Bear Cub)
National Geographic (Mar.3 2012 - St. Louis Zoo & Polar Bears International are Spearheading an Effort to Bring Arctic Polar Bears to US Facilities)
St. Louis Magazine (Aug.2012 - The Saint Louis Zoo Needs to Seek New Revenue Sources to Save Endangered Species)

(過去関連投稿)
アメリカで登場したホッキョクグマ輸入の特別枠要求への動き
(過去関連投稿)
アメリカ・アラスカ州の北西岸でホッキョクグマの孤児の赤ちゃんが保護!
アメリカ・アラスカ動物園で保護された野生孤児のカリーが今春に期限付きでバッファロー動物園へ
アメリカ・アラスカ動物園で保護されている野生孤児のカリーの一般公開が始まる
アメリカ・アラスカ動物園で保護されている野生孤児のカリーを間近で撮り続けている専属カメラマンの視点
アメリカ ・ アラスカ動物園で保護されている野生孤児の赤ちゃん、カリーの近況と今後について
アメリカ・アラスカ動物園の野生孤児カリー、来週後半に ニューヨーク州のバッファロー動物園へ
アメリカ・アラスカ動物園の野生孤児カリーがニューヨーク州のバッファロー動物園に無事到着
by polarbearmaniac | 2013-05-23 13:00 | Polarbearology

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