街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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地球温暖化がホッキョクグマにもたらす未知の病原体の脅威

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アイラ (2012年7月7日撮影 於 おびひろ動物園)

地球温暖化によってもたらされる北極圏の氷の面積の縮小がホッキョクグマの生態に与える影響は今更ここで述べる必要もないわけで、それを直截的に要約すれば、海氷の面積の減少は主食であるアザラシを捕える機会の減少を意味し、それはすなわち栄養不良となったホッキョクグマの母親の出産、及びその後の子育てに非常な悪影響をもたらし、このことによって生息数が減少するという一連の負の連鎖だと言えましょう。 さて、しかしこの海氷の減少から繁殖への悪影響という連鎖以外にも、地球温暖化がホッキョクグマの生息数の減少をもたらすもう一つの重要な可能性について触れておきたいと思います。
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地球表面の平均気温の変化
(C)School of environmental science, climatic research unit, university of East Anglia

今回ここで御紹介するのはイギリスの科学雑誌 “New Scientist” の電子版に紹介されている “Climate change brings disease threat for polar bears” (5月15日付)という記事の中での生物学者たちの警鐘です。 まず、アメリカ・フロリダ州、ニューカレッジ (New College of Florida) のダイアナ・ウェーバー助教授を中心としたチームがカナダに生息する98頭のホッキョクグマのDNA配列を調査した研究です。 この研究チームは、こうしてホッキョクグマから採取したサンプルを調べて、主要組織適合抗原のMHCクラス遺伝子(Major Histocompatibility Complex - MHC) のなかで、とりわけ脊椎動物の大部分に見られる免疫システムには重要な役割を果たす特殊な遺伝子を探したのですが、それが見つからなかったそうです。 そもそもホッキョクグマのMHCクラス遺伝子の数は少なく、これはウィルスの存在が極めて稀である北極圏といった地域に暮らすことに適応するための変化ではないかと指摘する研究者もいるそうで、緯度が高く温度の低い地域に生息する生物はこういったMHCクラス遺伝子の多様性が見られない傾向があるという研究結果を根拠にした考え方だそうです。

ウェーバー助教授は、最近の北極圏に生息する動物にはかつてでは見られなかったいくつかの病気にかかる個体が存在しているとも述べていますが、地球温暖化の進行によって本来は緯度の低い場所に存在する病原体が緯度の高い場所にも存在が可能となり、それによってホッキョクグマのようなMHCクラス遺伝子の多様性の少ない種が、こういった状態においては懸念されるということも語っています。 こういった病原体によって引き起こされる病気でホッキョクグマの生息数が減少する可能性もあるという危険性です。

以前、「ドイツ・ヴッパータール動物園の故イェルカの死因はヘルペスウィルス(Zebra herpesvirus) の感染と判明」という投稿をしていますのでそれもご参照いただきたいのですが、飼育下の動物たちにもこのウィルスの脅威にさらされているわけで、このヴッパータール動物園の故イェルカの死因がシマウマヘルペスウィルスの感染によるものであったことも考えれば、仮に地球温暖化が想像を超えるピッチで進行すれば、本来は北極圏には生息しない動物の生息地が北に拡大し、それによってホッキョクグマとの遭遇の機会が生じれば、ホッキョクグマがそういった今までには出会わなかったウィルスに感染するという可能性は十分にあるでしょう。 実はこのヴッパータール動物園の故イェルカの死因が判明した翌日におびひろ動物園に行きましたが、あそこではホッキョクグマ舎の隣がキリン・シマウマ舎ですね。 野生下ではホッキョクグマとシマウマは決して遭遇することのない組み合わせです。 イェルカの死因がシマウマヘルペスウィルスであえうことを思い出して私はちょっとドキリとしました。

(資料)
New Scientist (May.15 2013 - Climate change brings disease threat for polar bears)
Polar Bear Specialist Group of the IUCN Species Survival Commission (Jan.27 2009 - Climate impacts on polar bears)
New Scientist (Jul.25 2012 - Hardy polar bears have survived past global warming)

(過去関連投稿)
ドイツ・ヴッパータール動物園の故イェルカの死因はヘルペスウィルス(Zebra herpesvirus) の感染と判明
by polarbearmaniac | 2013-05-28 20:30 | Polarbearology

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