街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ドイツ ・ ハノーファー動物園とホッキョクグマ展示場「ユーコンベイ (Yukon Bay)」 が味わった苦味

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シュプリンターとナヌーク Photo(C)Hannoversche Allgemeine

ドイツ北部ニーダーザクセン州の都市であるハノーファーといえば過去の歴史を振り返るとイギリスとの関係に注目しなければなりません。 1714年にハノーファー選帝侯ゲオルク1世がイギリス国王ジョージ1世として即位したわけですが、クラシック音楽の好きな方なら、ハノーファー選帝侯の宮廷楽長にもかかわらずロンドンに長期滞在して選帝侯の帰国命令に従わなかったあの作曲家ヘンデルが、ハノーファー選帝侯がイギリス国王として即位することになったために慌てて “Water Music” (日本語では「水上の音楽」と訳されています) を作曲して選帝侯との和解を図った...そういう有名なエピソードを思い出すでしょう (最近の研究では、このエピソードはどうも事実とは異なるということのようですが)。 また、このハノーファーで話されるドイツ語がドイツ語としては標準語に最も近い...少なくとも私がドイツ語を習い始めた何十年か前はそういう言われ方をされていました。 ハノーファーという街、私も過去もう20年ほど前までに数度訪れたことがありますが、なかなか上品な感じのする気持ちの良い街でしたが、今一つインパクトが弱かったような印象がありました。 街の紹介映像をご紹介しておきます。



さて、そのハノーファー市の動物園 (Erlebnis Zoo Hannover) のホッキョクグマ展示場が有名なユーコンベイ (Yukon Bay)です。
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ユーコンベイ Photo(C)dpa

今までも何度か、この2010年にオープンしたユーコンベイとそこに暮らすホッキョクグマたちについては触れてきました。 現在は雄が3頭飼育されています。 まず2007年12月生まれで5歳になったシュプリンターです。 彼はオランダ・レネンのアウヴェハンス動物園生まれで母親はフリーダムです。 次に2007年11月生まれでやはり5歳である雄のナヌークです。 彼はウィーンのシェーンブルン動物園生まれの双子の兄弟の一頭で、もう一頭はスコットランドのハイランド野生公園 (Highland Wildlife Park) で暮らすアルクトスです。 この兄弟の母親はオリンカで、彼女は現在オランダのロッテルダム動物園で飼育されています。 さらに今年の3月よりノイミュンスター動物園から12歳の雄のカップがノイミュンスター動物園のホッキョクグマ展示場の改修工事のためハノーファー動物園に預けられることとなった件についてもすでに「ドイツ・ノイミュンスター動物園のカップが同園展示場の地表改良工事のため一時的にハノーファー動物園へ」という投稿でご紹介しています。 このシュプリンターとナヌークの映像をひとつだけご紹介しておきます。 3頭で映っていますが、これはまだアルクトスがハノーファー動物園にいた一昨年の映像であるということです。



このハノーファー動物園ご自慢のホッキョクグマをはじめとした極地動物を展示するユーコンベイは報道によれば3600万ユーロという巨額の総工費で2010年の春に完成したばかりものであるにもかかわらず使用されていた金属にひどい錆びが発見され、その修理のために2012年の3月から約一年間というものは部分的な閉鎖を余儀なくされたそうです。 ユーコンベイのオープン後は入園者数が大幅に増加してハノーファー動物船はビジネス的にも大成功した動物園だったわけですが、それからというものはやや不運が続いてしまいます。
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シュプリンターとナヌーク Photo(C)Hannoversche Allgemeine

このハノーファー動物園ですが昨年2012年には一年を通じて雨の日が非常に多かった(報道によれば180日間とのこと)そうで、来園者数が大幅にダウンしてしまい前年2011年と比較すると約18万4千人減ということだったそうです。 その結果として170万ユーロの赤字を計上したそうで、こういう天候不良が動物園の来園者の減少をもたらすことは洋の東西を問わないもののようです。 そもそも動物園にとっては入園者減少の理由として天候不良をあげるのは簡単な説明として便利ではあるのですが、このハノーファー動物園では昨年3月から今年の3月頃までにわたってユーコンベイの改良工事を行わなければならなくなった影響でホッキョクグマその他を展示に障害を生じたことが、実は入園者の減少に拍車をかけた大きな原因の一つだったと思われます。

このハノーファー動物園の年間入園者数は好調だった2011年を例にとりますと約160万人のようです。 この数字は旭山動物園の2012年度の入園者数とほぼ同じですね。 さて、このハノーファー動物園は今年も天候不良による来園者数の伸び悩みに頭を抱えているそうで、2013年の第一四半期 (1月~3月) の段階ですでに60万ユーロの赤字を計上しているそうで、同園が計画しているこれからの施設整備計画について資金面で赤信号が点滅している状態だと報道は伝えています。 当然のことながら、厳しい視線が園長さんに向けられているようです。

以前に 「ドイツ・ハノーファー動物園の大きな成功」 という投稿にも書きましたのでそちらも是非ご参照いただきたいのですがドイツの動物園では単純な入園者数を 「入園者数 (Besucherzahl)」 として採用していないわけです。 それは 'VDZ-Schlüssel’ という換算方法を用いて仮想数字で表現するわけで、この 'VDZ-Schlüssel’ という換算方法は、「(当日券販売による入場者数+招待券などの無料入場者数の5%+年間チケット入場者数の20倍) *(verkaufte Tageskarten plus fünf Prozent für Freikarten plus Anzahl der Jahreskarten mal 20 = Besucherzahl)」 という計算を行います。 これで換算した仮想数字を 「入園者数 (Besucherzahl)」 とするわけです。 この計算のやり方ですと 「年間チケットを所持した常連客」 の入園数が多いと全体の 「入園者数 (Besucherzahl) 」 は大きく示されることになるわけです。 つまり、地域の常連客の多い動物園は「入園者数」の大きさに貢献することになり、それによって「入園者数」イコール「動物園の地域共同体への貢献℃」という意味を持った図式として示されることとなります。 (ドイツの全動物園のこの方法に換算した入園者数その他の統計を調べてみようとしましたが登録を要求されたりするようなのでやめておきました。) しかしこういう「入園者数 (Besucherzahl)」 の比較はストレートに動物園の収入の比較とはなりにくいわけで、むしろ社会的な貢献度を示す数字としてだけで理解したほうがいいでしょう。 

ちなみにハノーファー動物園の2011年の入園者数160万人をこの方法で計算した「入園者数 (Besucherzahl)」 は350万人となるそうです。 年間チケット入場者数を20倍として評価するという、20倍の根拠がよくわかりませんが、このハノーファー動物園の「入園者数 (Besucherzahl)」 が実際の入園者数の2倍強程度であることを考えてみると、ハノーファー動物園のリピーターの数は必ずしも多くないということなのかもしれません。 仮に20倍という数字を採用すると、ホッキョクグマの赤ちゃんの成長を見るために年間チケットを買って毎週土・日に動物園に行くという固定ファンの多い動物園の「入園者数 (Besucherzahl)」 は途方もない数字になるのではないでしょうか? そしてその数字は、その動物園の入園者の実数、あるいは入場料収入とはかなり乖離した傾向を持つだろうということです。 この20倍という数字は過大評価ではないかと感じますが、一方でたとえば障害者や高齢者や幼児が無料で入園した場合などは5%、つまり20分の1でしか人数としては評価しないという点については今度は過小評価のような気がします。 つまり、五体満足な就業年齢の大人が年間チケットを買って入園する場合を非常に大きく「入園者数 (Besucherzahl)」 としては評価するということなのでしょう。   ドイツの考え方はなかなか独特ですね。
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部分的に再開されたユーコンベイに登場したシュプリンターとナヌーク
Photo(C)Hannoversche Allgemeine

さて、いよいよ今年の3月から約一年振りにユーコンベイが完全に再オープンし、シュプリンターとナヌークはやっと、この広い展示場を自由に動き回れるようになったようです。 彼らはノイミュンスターから期間限定でやってきた新入りのカップの臭いをかんだりしながら彼を受け入れたようです。このユーコンベイ再開の際のシュプリンターとナヌークの様子をハノーファー動物園の公式映像、その他で見てみましょう。





ハノーファー動物園ではこの金属錆びを除去するのにかかった29万ユーロについて、この工事を請け負った建設会社を相手に訴訟をおこすようです。 このユーコンベイは来園者の関連スペースも含めてですが、広さが二万二千平方メートルだそうですから、単に展示場だけでも「マニトバ基準 (500平方メートル以上)」など糞喰らえという広さがあるものだと当然理解してよいでしょう。 こういった欧米の最新のホッキョクグマ展示場は、こういう設計を行う専門の設計者が存在しているわけです。 まず、ホッキョクグマが伸び伸びと快適に暮らせるようにと考えて一度簡単な設計図面を作成するわけです。 そしてその設計の結果が「飼育規準」 (たとえばマニトバ基準だとかAZAの基準だとかEAZAの基準だとか)をクリアするものかどうかを後からチェックするということだそうです。 だいたいにおいて欧米人が何事かに快適さを追求しようとすれば、結果的にはそれは当然こういった基準をはるかに超える図面となるわけで、そういった意味では、「マニトバ基準」というものはすでに乗り越えられてしまった過去の遺物という面を持つことになるのでしょう。 だから、「飼育基準」に合わせて図面を描くというのは全く逆なわけです。 そういった「基準」 にあわせて図面を描くというのは、快楽を悪と考え忍従を美徳と捉える我々日本人の悲しき発想でしょう。 
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(C)Erlebnis Zoo Hannover 

さて、このユーコンベイの再開によって夏場に入園者数がどれだけ回復するか、いよいよ正念場を向かえるハノーファー動物園です。

(資料)
Bild.de (Apr.23 2013 - Zoo fehlen 60 Mio Euro !)
Bild.de (Jun.5 2013 - MILLIONEN-LOCH im Zoo !)
Erlebnis Zoo Hannover – Pressemitteilung (Jan.10 2012 - Rekordjahr für Erlebnis-Zoo Hannover)
Blooloop.com (Feb.1 2011 - Record Breaking Year at the Hannover Adventure Zoo! )
NDR.de (Mar.5 2012 - Eisbären in Yukon Bay rostet das Gehege weg)
NDR.de (Mar.15 2013 - Eisbären zurück im sanierten Gehege)
Hannoversche Allgemeine (Mar.15 2013 - Eisbären sind wieder im Zoo Hannover zu sehen)
NDR.de (Mar.15 2013 - Erlebnis-Welten im Zoo Hannover besuchen)

(過去関連投稿)
ドイツ・ハノーファー動物園の新施設 Yukon Bay
ドイツ・ハノーファー動物園に仲良しトリオ出現 ~ ユーコンベイで3頭の同居開始
ドイツ・ハノーファー動物園の大きな成功
ドイツ・ハノーファー動物園のアルクトスとナヌークの双子兄弟に4歳のお誕生祝い ~ 将来への不安
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スコットランドのハイランド野生公園、ウォーカーとアルクトスの近況 ~ 雌の伴侶欠乏世代の個体たち
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ドイツ・ハノーファー動物園と個体交換交渉を行った札幌・円山動物園 ~ その背景を読み解く
by polarbearmaniac | 2013-06-06 01:30 | Polarbearology

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