街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ロンドン動物園での飼育最後のホッキョクグマ、ピパラクの異国での悲運の死とキャンディの祖母モサの姿

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ピパラクとサリーお母さん(1968年) Photo(C)ZSL

以前に 「ロンドン動物園でのホッキョクグマ性別取り違え事件 ~ マスコミが勝手に下してしまった性別判定」 という投稿で、イギリスのロンドン動物園で、イギリスでは初めて飼育下の自然繁殖に成功した1949年生まれの有名なブルーマスについて触れたことがありました。

ロンドン動物園ではその後もホッキョクグマをずっとペアとして飼育しており、雌は何度も出産していたそうですが、いずれも誕生後間もなく赤ちゃんは死亡しておりロンドン動物園としてはその後しばらくはホッキョクグマの繁殖には成功していませんでした。 そしてやっと二回目に繁殖に成功したのが1967年12月1日に誕生した雄のピパラク (Pipaluk) だったわけです。 このピパラクの母親はサリー、父親はサムという1960年にモスクワ動物園からロンドン動物園に幼年個体として来園したホッキョクグマのペアでした。 このペアの間に誕生したのがピパラクです。
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ピパラクの父親サム Photo(C)ZSL
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ピパラクとサリーお母さん(1968年)   Photo(C)Getty Images

さて、このサリーとサムのペアの間に生まれたピパラクが翌年1968年の3月にサリーお母さんと共にロンドン動物園で一般公開されたときの映像をご紹介しておきます。 ( この下の写真をクリックして下さい。)



このピパラクが公開されたときは凄い人気だったそうです。 やはりイギリス人もホッキョクグマの赤ちゃんには大変に興味を示したということですね。
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一般公開開始日のピパラクとサリーお母さん(1968年) 
Photo: The week / London Zoo

このピパラクには早速1969年にブリストル動物園からサブリーナという雌が、彼の将来の繁殖上のパートナーとしてロンドン動物園に来園します。 ピパラクとこのサブリーナの初顔合わせと思われる1969年の映像がありますのでそれもご紹介しておきます。 この2頭の相性なかなか良かったようですね。( この下の写真をクリックして下さい。)



このピパラクとサブリーナは1980年まで同居していたそうですが2頭の間での繁殖には成功しなかったため、結局1980年にサブリーナはホィップスネイド動物園 (Whipsnade Zoo) に移動し、逆にホィップスネイド動物園からはモサ (Mosa) という雌がピパラクの新しいパートナーとしてロンドン動物園にやってきたのでした。 このモサという雌は実はやはりモスクワ動物園の出身で、1965年に雄のアモスと一緒に幼年個体のうちに最初はロンドン動物園に来園したわけですが、実は1969年にそのアモスと一緒にホィップスネイド動物園に移動していました。ですからモサはロンドン動物園に帰還したということになります。 この雌のモサが1965年にモスクワ動物園からロンドン動物園に雄のアモスと共に来園してロンドン動物園で公開されたときの映像をご紹介しておきます。 (*追記 - 本投稿の下のほうでも記述していますが、この映像のアモスとモサこそ、札幌・円山動物園のキャンディの祖父母の幼少期の貴重な映像なのです。)(この下の写真をクリックして下さい。)



実はこの雌のモサは1976年と78年にホィップスネイド動物園でアモスとの間で繁殖に成功していたために、ロンドン動物園では是非ピパラクとの間での繁殖を成功させたかったということなのでしょう。 実はこのモサが1978年に産んだ雄の赤ちゃんこそ、あの札幌・円山動物園のキャンディの父親であるボリスなのです。 ボリスについては、「札幌 ・ 円山動物園のキャンディへの期待と声援 ~ 彼女のドイツでの幼少期と今は亡き両親の姿」という投稿をご参照下さい。 (*追記 - そしてモサが1976年に産んだのがあのメルセデスのパートナーであったバーニーです。 つまりモサは白浜のオホトの祖母にもあたるわけです。)
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モサ(札幌・円山動物園のキャンディの祖母)Photo(C)PAPHOTOS

さて、その後のピパラクとモサとの間にはやはり期待された繁殖はなかったわけでした。 一方、ピパラクの母親であるサリーお母さんとサムとの間ではその後1970年11月に三つ子が、そして1972年11月にパディワック (Paddiwack) が誕生していますが、全てロンドン動物園から他園へ移動しています。
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パディワックとサリーお母さん(1973年) Photo :Zoochat.com

このサリーお母さんは1975年に15歳の若さで亡くなり、そして彼女のパートナーだったサムは同じ年にドイツのミュンヘン・へラブルン動物園に移動となったわけです。

ロンドン動物園では1985年のホッキョクグマ、その他の熊を展示していたマッピンテラスという展示場を閉鎖することになり、このときを最後にロンドン動物園ではホッキョクグマの飼育を止めてしまいました。 イギリスという国は動物保護活動家の「活躍最先進国」でもあったというわけです。 さて、ロンドン動物園で飼育されていたピパラクとモサですが、同園がホッキョクグマの飼育を止めることになったため、一緒に1985年に一時的にダドリー動物園 (Dudley Zoo) に移動となったあと、同年にやはり一緒になんとポーランドのカトヴィツェ動物園 (Śląski Ogród Zoologiczny) に移動したのでした。 当時のポーランドはまだ社会主義国だったわけで、何故イギリスの動物園のホッキョクグマが飼育環境が良いはずもない社会主義国のポーランドの動物園に移動したのかが、よくわかりません。 まるで厄介者をお払い箱にしたかのようにイギリスから移動させられたのだと理解する以外にはないでしょう。 この2頭にとっては実に可哀そうなことをしたものです。 ピパラクはこのカトヴィツェ動物園に到着して約5年ほど経ってひっそりと亡くなりました。 彼のパートナーだったモサは、1998年にそのカトヴィツェ動物園で亡くなっています。
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ピパラク(1984年) Photo :Zoochat.com

ロンドン動物園で2回目にホッキョクグマの繁殖に成功し、1968年3月に生後3か月で一般公開された後に大変な人気を博したピパラクでしたが、異国での彼とモサについては、もうロンドンの人々の記憶からは忘却され、彼らの様子については当時のイギリスではそれに興味を持ったり知りたいと思った人はいなかったというわけです。 彼の死は、そういった意味でも実に寂しいものだったわけでした。
(*追記 - 後日イギリスの一部の大衆向けマスコミはピパラクの死をスキャンダラスに報道しています。 それまでピパラクとモサが何故ポーランドに行かなければならなかったか、そしてどのようにポーランドで暮らしていたかなどには何ら関心などなかったにもかかわらず、ピパラクの死だけを取り上げてカトヴィツェ動物園を一方的に非難する内容の記事だったそうです。)
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1985年、ロンドン動物園を去る年のピパラク Photo(C)ZSL

ホッキョクグマに対する関心が高まったここ何年かで、ロンドン動物園での飼育の最後のホッキョクグマとなったピパラクそしてモサについて、記憶の片隅に微かに眠っていた記憶を甦らせた方々がロンドンに僅かでもいるのはせめてもの救いです。
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(資料)
The Zoological Society of London (History - Famous Animals)
The Week with the First Post (Jan.19 2012 - In pictures: famous polar bears)
Zoochat.com (United Kingdom - Tecton Carnivore Pits - History of Occupation)
Pipaluk Bears (About Pipaluck Bears)
British Pathé (Polar bear cub "Pipaluk" makes debut at London Zoo - Regent's Park.)
British Pathé (Polar Bears - Sabrina and Pipaluk.)
British Pathé (Polar Bears At London Zoo 1965)

(過去関連投稿)
ロンドン動物園でのホッキョクグマ性別取り違え事件 ~ マスコミが勝手に下してしまった性別判定
札幌 ・ 円山動物園のキャンディへの期待と声援 ~ 彼女のドイツでの幼少期と今は亡き両親の姿
by polarbearmaniac | 2013-07-03 23:45 | Polarbearology

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