街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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アメリカ・サンフランシスコ動物園で ピケ(Piké) の人工哺育に成功したゲイル・ヘドバーグさんの功績

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30歳になった人工哺育されたピケ(Piké)   Photo(C)Getty Images

以前、「アメリカ・サンフランシスコ動物園での1982 ~ 83年のピケ (Piké) の人工哺育 ~ 実践から体系化へ」という投稿でアメリカのサンフランシスコ動物園における1982~83年にわたっての雌のホッキョクグマであるピケの人工哺育について投稿したことがありましたのでまずそれをご参照頂きたいのですが、このときピケの人工哺育を担当したのが同園の獣医であったゲイル・ヘドバーグさんでした。 以前にもご紹介していますがヘドバーグさんはこの時の記録と体験をもとにホッキョクグマの人工哺育の方法論、特に野生のホッキョクグマの母乳の成分についての研究を著わし、ホッキョクグマの人口哺育論の発展に多大な貢献をしたわけです。 そのヘドバーグさんがサンフランシスコ動物園のホッキョクグマ展示場の前でホッキョクグマについて語っている映像を同園の公式の映像でご紹介しておきます。 こちらになります。
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ヘドバーグさんとピケ(1982年)  Photo : San Francisco Zoo

そのヘドバーグさんがサンフランシスコ動物園で働き始めて最初に手掛けた大仕事は、この1982~3年におけるホッキョクグマのピケの人工哺育だったというわけでした。 この時に人工哺育されたホッキョクグマのピケですが、昨年11月に30歳の誕生日が祝われており、雪のプレゼントがありましたのでその映像もご覧いただきましょう。



こうして人工哺育で育てられたホッキョクグマが30歳になっても非常に元気であるということですが、ヘドバーグさんの行った人工哺育は大成功であったことを意味します。 生後6か月までは自宅で人工哺育を行い、その後に動物園にピケを戻したわけですが、自宅でのいろいろな苦労談をヘドバーグさん自身が語っており、こちらのページを開いていただいてそれを聴くことができます。 おもしろかったのは、隣人にあらかじめホッキョクグマの赤ちゃんを自宅で育てていることを伝えておいたということです。 この赤ちゃんの発する声は非常に大きくて、隣人から子供を虐待していると思われることを防ぐためだったなどというエピソードなどです。 生後6か月が経過して動物園に戻ったピケの「適応化 (socialization)」 もうまくいったようで、その後は育ての親であるヘドバーグさんの姿にさほど執着しなくなったようです。
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ヘドバーグさんとピケ (1983年)  Photo : San Francisco Zoo

このピケの繁殖のために1985年にアンディがサンフランシスコ動物園に来園したわけでした。 ところが入園後にヘドバーグさんがこのアンディの性別検査をしてみたところアンディは当初考えられていたような雄ではなく雌(メス)であったことが判明し、結局ピケとウウルの繁殖上のパートナーに成り得なかったという不運な事件もあったようですが、ピケとアンディは雌同士で非常に仲が良かったそうです。 そのアンディが2010年の8月に27歳で亡くなった件は「アメリカ・サンフランシスコ動物園のアンディ逝く」という投稿をご参照下さい。 報道によれば、この1982~3年のピケの人工哺育以前に飼育下でホッキョクグマの人工哺育に成功したのは5例しかなかったと述べられていますが、これは多分事実ではないように思われます。 これは旧東側の社会主義国でのホッキョクグマの人工哺育の成功例を除いた数字のように思います。 しかし、それまでのホッキョクグマの人工哺育については、成功例の情報が体系化されていなかったことは確実で、このホッキョクグマの人工哺育の技術と方法論の体系化に対するヘドバーグさんの功績は実に大きなものがあると言ってよいでしょう。 そして1994~95年にアメリカのデンバー動物園で行われたクロンダイクとスノウの有名な双子の人工哺育の成功例に至って、アメリカではホッキョクグマの人工哺育に関する技術論・方法論が完成されたというわけです。 そうした情報が日本にはほとんど入ってこなかったというのは実に残念なことでした。
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ヘドバーグさんと30歳のピケ Photo : San Francisco Zoo

そのヘドバーグさんは今年の夏に31年勤めたサンフランシスコ動物園を退職されるそうですが、これで彼女のキャリアが終わるわけではなく、今後もホッキョクグマだけに留まらない飼育下における動物の人工哺育について培ってきた自分の知識と経験を後の世代に引き継ぐべく、来年からは人工哺育に関するワークショップを立ち上げるそうで、この分野におけるさらなる深化を目指す姿勢には賛辞を送りたいと思います。 ヘドバーグさんはこう言っています (間接話法を直接話法に言い換えます)。

".... knowledge often gets lost when experienced staff leave,
and my goal is to pass on as much of my expertise as possible
to the next generation of exotic animal caretakers.”


まことにその通りだと思います。

(資料)
KALW (Jul.16 2013 - How a baby polar bear made it into a Fremont living room)
WCNC.com (Nov.15 2013 - San Francisco Zoo polar bear gets fresh snow)
The Huffington Post san Francisco (Nov.16 2013 - San Francisco Zoo Polar Bears Celebrate Their Birthday In Style)
Reddit (Pike, a 30 year old Polar Bear was gifted 10 tons of snow for his birthday in a California zoo)

(過去関連投稿)
アメリカ・サンフランシスコ動物園のアンディ逝く
アメリカ・サンフランシスコ動物園での「ホッキョクグマの雪の日」
アメリカ ・ サンフランシスコ動物園でホッキョクグマのお誕生会に10トンの雪のプレゼント
アメリカ・サンフランシスコ動物園での1982 ~ 83年のピケ (Piké) の人工哺育 ~ 実践から体系化へ
by polarbearmaniac | 2013-07-17 21:30 | Polarbearology

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