街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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セルビア・ベオグラード動物園のホッキョクグマのハイブリッド個体(Ursid hybrid)は何故出現したのか?

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ベオグラード動物園のハイブリッド 
Photo(C)MARKO DJURICA/Reuters

まずこの冒頭の写真は数日前にロイター通信が配信したセルビアのベオグラード動物園で40℃近い暑さを水中でしのいでいるホッキョクグマの写真です。明らかにハイブリッドであることは一目瞭然でしょう。 セルビアのベオグラード動物園におけるホッキョクグマのハイブリッドについては以前にもご紹介したことがありました。

昨年、ホッキョクグマのハイブリッド個体(Ursid hybrid)についてかなり追いかけていつもの投稿をしましたが、「ホッキョクグマ」 だと称して実はホッキョクグマ以外の血が混入している飼育下の個体については、その存在の場所、頭数、親族関係などが解明されていない事実が多く、それに取り組んでいる方はほとんどいないという状況です。 第一にまずこういったハイブリッドには血統登録がされません。 以前にも述べましたが、基本的に血統登録のあるホッキョクグマの場合ですらロシアの動物園で生まれた個体などのように血統登録情報が信頼できない場合があるほどですから、ましてやハイブリッドの血統の解明には多くの事実を拾い上げ、そして積み重ねていく以外に方法はないわけです。 以前に「ホッキョクグマの雑種(Ursid hybrid)を考える(2) ~ セルビア ・ ベオグラード動物園を覆う深い謎」という投稿をいたしておりますので、まずそれを先にご参照頂き、今回のセルビア・ベオグラード動物園の話を再度進めます。
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ベオグラード動物園のハイブリッド Photo(C)Beo Zoo Vrt

そもそも何故ベオグラード動物園にホッキョクグマのハイブリッドが飼育されているのかということが問題です。 飼育下でホッキョクグマとヒグマを混血させようという意図のもとにハイブリッドが誕生したというのは不自然な解釈だろうと考えますので、やはりこれは外的原因による偶然性に求めたいと思います。 そしてこのベオグラード動物園の場合は現代史におけるセルビアの置かれた特殊な状況に眼を向けてみる必要があると思っています。 私は以前の投稿でも述べましたように1990年代初頭におけるユーゴ内戦による混乱にその原因を求めたいとは思うのですが具体的な根拠は薄弱です。 しかし、いろいろと調べていきますといくつか興味深い事実が浮かんできました。
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まず、第二次大戦中の1941年にベオグラードに爆撃があった際に動物園にも被害があり、飼育されていたホッキョクグマやその他のクマたちが動物園の外に出てしまうという事件があったそうです。 ホッキョクグマたちは近くの川にいるところを発見されたということのようです。 しかし大戦末期までにベオグラード動物園の動物たちのほとんどは死亡したそうですから、この1941年の事件がホッキョクグマのハイブリッドを生じさせる原因になった可能性は非常に低いでしょう。 仮にあったとしても、その時から半世紀以上経過した現在までこの動物園でその血統が残っているという可能性は限りなくゼロに近いでしょう。

次に、コソボ紛争に端を発した1999年3月末から開始されたNATO軍のベオグラードを中心にしたセルビアへの空爆です。 この空爆以前から、セルビア各地に存在していた小さな動物園が動物たちを避難させようにも安全な場所がなかったために、そういった動物たちをベオグラード動物園がかなり無理を承知で受け入れたという事実が判明してきました。 ベオグラード動物園自体のスペースも十分ではなかったために、そうした動物たちを狭い場所に押し込んで、場合によっては異なる種をも同じ場所で飼育せざるを得ない状況が生じていたことも明らかになってきました。 NATO軍の空爆開始後はベオグラード動物園の付近も爆撃の対象になり動物園の施設にも被害が及んだそうです。 そういった中でホッキョクグマとヒグマを同じスペースで飼育した可能性を否定できないように思います。 この結果、ホッキョクグマのハイブリッドが誕生した可能性は否定できないようにも思われます。 

ただしこの解釈には難点があります。 というのも以前の投稿でご紹介したハイブリッドの写真の中で1999年に撮影された写真にはすでにその時点でハイブリッドである母親の姿が映っています。 ということは、この1999年のNATO軍のセルビア空爆とホッキョクグマのハイブリッドを結びつけるのは無理ということにもなるわけです。 ただしかし、ベオグラード動物園でのホッキョクグマのハイブリッドについては、以前にも指摘しましたが、二系統ある可能性が大きいわけで、少なくともハイブリッドではない通常のホッキョクグマである雌一頭の存在を想定せねばならないように思うわけです。
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ベオグラード動物園のホッキョクグマ(2003年)  
Photo(C)ROBERT BROOK/SCIENCE PHOTO LIBRARY

上の写真は2003年にベオグラード動物園で撮影されたホッキョクグマの写真ですが、これはハイブリッドには見えません。 となれば考えうる仮説の一つは、ユーゴ内戦にその出自が関係しているかもしれない1990年代初頭に生まれたホッキョクグマのハイブリッドの雌一頭、そして1999年のコソボ紛争、そしてその過程におけるNATO軍のセルビア空爆といった混乱時にハイブリッドを出産した可能性のある通常のホッキョクグマの雌一頭、この二系統なのではないかと仮定してみることもあながち無理ではないだろうと思っています。

このベオグラード動物園におけるホッキョクグマのハイブリッドの映像は非常に少ないのですが2つほど見ておきましょう。 まず最初に繁殖行為です。



次ですが、これはベオグラード動物園のいろいろな動物たちが映っています。 開始後2分7秒あたりからのシーン、それから3分12秒あたりからのシーン、4分13秒あたりからのシーン、5分5秒あたりからのシーン、そして次の6分56秒あたりからのシーンではなんとハイブリッドの幼年個体が登場しています。 その後もいくつかのシーンで登場していますが、ベオグラード動物園におけるホッキョクグマのハイブリッドの姿をこれほど生々しく捕えた映像は他には無いように思います。



この上は2008年の映像のようですが、この幼年個体も現在では中国のどこかの都市に行っているだろうと思います。

ともかく、非常に謎の多いベオグラード動物園です。

(*後記 - この 「何故出現したか」、つまりその根源の部分についての答えを、海外のある方から明確な証拠を添えて情報をいただきました。 真相については情報をいただいた方に無断で開示するわけにはいきませんが、私がこの投稿で当初に考えていたように「ユーゴ紛争」に原因があったのではないということがわかりました。 ですから私の本投稿における仮説は間違いであることを申し添えておくこととします。)

(資料)
Reuters (Jul.29 2013 - Polar bear cools off in its enclosure in Belgrade's zoo)
CNN.com (May.29 1999 - Animals in Belgrade zoo also feel effects of war)
Reuters (May.30 1999 - Belgrade Zoo Animals Provide Early Bombing Warning)
New York Times (Books Review – “Hearts Grown Brutal”)
Eugene Register Guard (Jun. 12 1999 – Help Belgrade Zoo)
The New York Times Book Review (May.26 2013 - The Weird Beauty of the Well-Told Tale)
Science Photo Library (Polar bear, Belgrade Zoo, Serbia)
actionagainstpoisoning.com (BELGRADE ZOO - MEDIEVAL PRISON FOR ANIMALS)
Trip Advisor.ca (Belgrade Zoo Photo: Polar bear cage.)
coturnix.org (Mar.27 2007 - Belgrade Zoo needs to move!)

(過去関連投稿)
秋田県が購入断念の「幻の東欧の個体」、突然中国にその姿を現す!
中国に突然現れた「幻の東欧の個体」はヒグマとの混血か? ~ 深まる謎
中国・大連で人工哺育の淘淘、乐乐、静静の出生の謎を追う ~ 「異形」 は先天的なのか?
ホッキョクグマの雑種(Ursid hybrid)を考える(1) ~ ドイツ・オスナブリュック動物園のティプスとタプス
ホッキョクグマの雑種(Ursid hybrid)を考える(2) ~ セルビア ・ ベオグラード動物園を覆う深い謎
ホッキョクグマの雑種(Ursid hybrid)を考える(3) ~ 自然界におけるホッキョクグマのハイブリッド
by polarbearmaniac | 2013-08-03 21:30 | Polarbearology

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