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ロシア極北で負傷、ペルミ動物園で保護されたセリクについて ~ ロシアでの野生孤児の個体保護の問題点

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ペルミ動物園でのセリク  Photo(C)"Вести" интернет-газета"

昨日まで何回かにわたってロシア極北ヤマロ・ネネツ自治管区のベルイ島で密漁者に銃撃され負傷していたところを現地で活動していたボランティアチームによって保護された後にペルミ動物園に移送された雄のセリクについて投稿してきました。 こういった野生の幼年孤児個体が保護されそして動物園で飼育されるようになったケースは私がこのブログを開設してからも数例あり、それらについては全て漏らさずここでご紹介してきたつもりです。ロシアではモスクワ動物園のアイオンクラスノヤルスク動物園のヴィクトリアとオーロラペンザ動物園のベルィヤクーツク動物園のコルィマーナなどでありアメリカ (アラスカ) ではルイビル動物園のカニックバッファロー動物園のカリーなどがそういった個体にあたります。 ロシアにおいてこうした野生孤児の個体を動物園で保護する際に問題となることをペルミ動物園・統括のエレーナ・ブルディナさんがマスコミに語っていますので簡単にご紹介しておきます。 ほとんどの内容はが既知のことではありますが、ここで改めて原点に立ち返って現場の担当者の語ることに耳を傾けてみたいと思います。 その前に、また2つほど今回ペルミ動物園で保護されることになったセリクについての地元TV局の番組をご紹介しておきます。 二番目の映像の開始後2分5秒あたりから映っているはアンデルマです。 冒頭にCMが入ることがあります。





ブルディナさんが語るには、こういった野生孤児個体を発見・保護した場合にまず大事なことは、その地区の行政担当者の素早い対応だそうです。 まずその地区の行政の責任者が迅速に連邦政府の自然管理局 (RPN - Федеральная служба по надзору в сфере природопользования) に連絡を取り、そして実際にどの動物園で飼育するかの決定を下してもらうと同時に移動の許可申請を地区の行政責任者名で自然管理局 (RPN)に提出してもらうことが重要だそうです。 今回のセリクの場合はヤマロ・ネネツ自治管区の知事という行政のトップの方が自ら積極的に動いてくれてそういった書類面での手続きは全てはスムーズに進行できたようです。 こういったことは数日間で処理されることが望ましいわけですが、問題になるのは自然管理局 (RPN) が決定した飼育先の動物園への移送手段の確保だそうです。 乏しい予算の動物園にはその輸送費用を支払うだけの予算は到底ないわけで、野生孤児が保護された地区の行政がこの輸送費用を負担することになるわけです。 今回のセリクのベルイ島からの輸送には、まずベルイ島からヤマロ・ネネツ自治管区の行政の中心都市であるサレハルド (Салехард) までの輸送のためのヘリコプターを調達し、そこからチュメニの街まで空輸され、そこからはトラックでペルミまで輸送したということですが、最初のヘリコプターの調達だけでも費用は50万ルーブル(約150万円)ほどの費用がかかり、動物園にはそういった費用を負担できませんから、どうしても行政側の好意ある対応が重要になるということのようです。
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セリク  Photo(C)Сайт города Пермь 59

こうした野生孤児個体を再び野生に戻してやることはできないのかという一般の人からの意見については、それは全く不可能であるとブルディナさんは語っています。 野生では幼年個体は通常2年間は母親が狩りの仕方や危険から身の守る方法を子供たちに教えるわけで、ホッキョクグマの野生個体が単独で生活できるようになるのは3歳からであるとブルディナさんは語り、今回のセリクのような一歳にならない個体を野生に戻せば生き延びることは全く不可能であるとも語っています。

ロシアの場合、こういった野生孤児個体をどのような動物園で保護したらよいかについては難しい問題があるようです。 ブルディナさんの語るには、ペルミ動物園はそういった個体を保護・飼育していく施設としては最高のものでは到底ありえないものの最低というわけでもないという評価を行っています。 欧州の飼育基準では必ずプールがあって一頭当たり400㎡の面積が必要と定められているもののロシアにはそれを満たす動物園はないとブルディナさんは語ります。 これは以前の投稿でワルシャワ動物園の園長さんが語っていた「地表面積は300㎡ 、プールは70㎡」という基準と近いものですので、数字的にはまあ間違いはないものと思われます。 それからホッキョクグマはヒグマよりもはるかに飼育には変化に富んだ飼育場が必要であり、こういったことも含めて頭の痛い問題であるようです。

貧弱な施設に四苦八苦しながらもロシアの動物園としてもなんとかこういった野生孤児の個体を保護・飼育していこうという意欲が感じられるブルディナさんの発言内容です。 今回保護されたセリクは近いうちにこのペルミ動物園に来園するカザン市動物園で昨年12月に誕生した雌のユムカとパートナーを組むことになるそうですが、狭くて貧弱なペルミ動物園にあっても彼らは逞しく生きていくことになるでしょう。

さあ、またペルミに行くことにしましょう。

(資料)
Сайт города Пермь 59 (Aug.27 2013 - Как спасли белого медвежонка Серику)
vesti-yamal (Aug.27 2013 - Медвежонок с острова Белый осваивается в Пермском зоопарке. Новый дом и новое меню для Сэр-Ири)
РИА ФедералПресс (Aug.27 2013 - Белого медвежонка с Белого острова поселили в Пермском зоопарке)

(過去関連投稿)
ロシア極北、カラ海のベルイ島で前脚をケガをして動けなくなっていたホッキョクグマの赤ちゃんが保護される
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ロシア極北のベルイ島で保護されたセリクがペルミ動物園に到着 ~ 10月にカザンからユムカも来園予定
ロシア極北のベルイ島で密漁者の銃撃により負傷し保護されたセリク、ペルミ動物園で報道陣に公開される
by polarbearmaniac | 2013-08-28 06:00 | Polarbearology

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