街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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旭山動物園、ホッキョクグマの人工授精を狙いイワンの精子採取に成功 ~ 「イワン繁殖能力懐疑説」後退

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イワン (2012年12月8日撮影 於 旭山動物園)  Nikon D5100
AF-S DX NIKKOR 18-300mm f/3.5-5.6G ED VR

共同通信が非常に興味深い記事を報道各社に配信しています。 日本経済新聞が10月12日付けでその記事を報じていますのでこちらをご参照下さい。 その内容をまとめてみます。

① 旭山動物園と北海道大学がイワンに麻酔をかけ、尿道にカテーテルを入れて精子を採取した。 精子採取は生きた動物から行うのは難しいとされてきた。

② 北海道大学と帯広畜産大学は、そのイワンの精子の動きや形に異常がないことを確認し日本動物園水族館協会の会議で報告した。

③ 旭山動物園ではイワンから採取した精子を人工授精に使うことも検討している。


...ということです。 まず①と③についてですが、これは昨年3月1日にアメリカ・ニューヨーク州 ロチェスターのセネカ動物園で実際に雄のゼロ(22歳)に麻酔をかけて精子を採取し、それを今度は2日間にわたってホルモン剤を投与してあった雌のオーロラを麻酔にかけて彼女の生殖器にその精子を注入するという方法ですでに行われていますので、その時の投稿である「アメリカ・ニューヨーク州 ロチェスターのセネカ動物園が史上初のホッキョクグマの人工授精を行う」、及び「アメリカ・ニューヨーク州 ロチェスターのセネカ動物園でのオーロラへの人工授精、結果は実らず」を是非ともご参照下さい。 このセネカ動物園の史上初のホッキョクグマの人工授精は残念ながら最終段階での成功結果が出なかったわけですが、やはり将来的に有望な手段の一つであることは否定できません。 精子の採取だけで言えば最近では、2009年1月にハンガリーのブダペスト動物園がこれを成功させています。 この件については「ハンガリー・ブダペスト動物園のレディとヴィタスの不妊検査 ~ ドナウ河岸の憂鬱」という投稿をご参照下さい。

②についてですが、ここ数年にわたって残念ながらイワンの生殖能力に懐疑的な意見が出ていたことも事実であり私もかつてはそうした意見を持っていたわけですが、イワンの家系、つまり「アンデルマ/ウスラーダ系」という世界屈指の繁殖能力を誇るホッキョクグマの血統グループの家系にあってイワンだけが生殖能力がないというのはあまりに不自然だと考え、現在では私はこの「イワン繁殖能力懐疑説」には否定的な考えを持っています。 もうくどいですのでこれ以上は書きませんが、あの偉大なアンデルマの長男である帝王メンショコフ女帝ウスラーダとの間に第一子として生まれたモスクワ動物園の輝ける母であるシモーナ、そのシモーナとウランゲリの間の第一子がイワンです。 ですからイワンというのは人間世界で言えば、「アンデルマ/ウスラーダ系」の長子家督相続者という大変な血統の持ち主であるわけです。
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(資料)"Polar Bear Husbandry at the Moscow Zoo" (2006)

これでイワンに繁殖能力がないなどとは常識的には到底考えられないわけです。 今回採取されたイワンの精子の動きや形に異常がないということから、やはり「イワン繁殖能力懐疑説」はかなり後退、いやほとんど消滅したと考えてよいでしょう。
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イワン (2012年3月2日撮影 於 旭山動物園) Nikon D7000
Tamron 18-270mm F/3.5-6.3 Di II VC PZD

さて、この①②③のうち、旭山動物園が今回の件で本当に狙ったのは人工授精云々よりも実は②を明らかにすることではなかったかと思います。 つまり、「イワン繁殖能力懐疑説」が事実であるのか否かを確認したかったのが本意だっただろうと私は考えています。 その目的を一応は果たしたわけで、次の段階として③を狙っているのだと考えるべきでしょう。 ではいったい人工受精をどの雌の個体に施すかといえば、それは他園の個体ではなく、まず同園で飼育されているピリカ以外にはありえないだろうと考えるのが妥当でしょう。 イワンとピリカの相性は良いとは言えないのが現実です。 というより、ピリカのイワンに対する警戒心があまりに強すぎで繁殖というステージに上がれないでいるというのが現在の状況です。 つまり繁殖行為の前々段階である Courtship behavior にさえ至らないイワンとピリカの組み合わせについて、それを人工授精という起死回生の手段で一気に解決を図ろうというのが旭山動物園の次の本当の狙いではないかと私は推察しています。 仮にそれが成功でもすれば、ピリカの名前は史上初の人工授精による出産に成功したホッキョクグマとして世界のホッキョクグマ史に永遠に名前を刻まれる可能性すらあるでしょう。 旭山動物園よりもっと詳細な情報が開示されればありがたいと思いますが、現時点ではあまり明らかにしたくないこともあると思います。 これからの推移を見守りたいと思います。

(*追記 - 以前に「中国・天津市の天津海昌極地海洋世界でホッキョクグマの赤ちゃん誕生! ~ そしてカナダでの映画撮影」 という投稿でも指摘しましたがホッキョクグマの人工授精については実はすでに数例、中国で成功しているのではないかと考えうる余地があるように思います。 しかし中国ではそのことを報告書のように明確な形で発表してはいません。 彼らは「人工繁殖」という用語を用いていますが、その具体的内容については明らかにしようとはしていません。 それが明らかにならない限り断定的なことは言えないように思います。 現時点ではアメリカのセネカ動物園の2012年の人工授精の試みをもって「史上初の試み」と解しておくのが妥当であると考えます。)

(資料)
日本経済新聞 (Oct.12 2013 - ホッキョクグマの精子採取 旭山動物園など、子孫繁栄に期待
Polar Bear Husbandry at the Moscow Zoo (I. V. Yegorov, Y. S. Davydov 2006)

(過去関連投稿)
ハンガリー・ブダペスト動物園のレディとヴィタスの不妊検査 ~ ドナウ河岸の憂鬱
アメリカ・ニューヨーク州 ロチェスターのセネカ動物園が史上初のホッキョクグマの人工授精を行う
アメリカ・ニューヨーク州 ロチェスターのセネカ動物園でのオーロラへの人工授精、結果は実らず
ピリカとイワン、そのお互いにとっての試練の場
ロシアの3つの動物園が共同で異種間移植(ホッキョクグマ → ヒグマへの胎仔移植)の実験を行うことを発表
by polarbearmaniac | 2013-10-12 14:30 | Polarbearology

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