街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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アメリカ・ノースカロライナ州 アッシュボロのノースカロライナ動物園の苦悩 ~ 主のいない新展示場

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故アキーラ Photo(C)News & Record

先月、アメリカ・ノースカロライナ州アッシュボロのノースカロライナ動物園で飼育されていた21歳になる雄のアキーラが急死してしまった件を投稿しています(「アメリカ・ノースカロライナ州アッシュボロのノースカロライナ動物園のアキーラが急死」)。 このノースカロライナ動物園では現在総工費850万ドルをかけた新ホッキョクグマ展示場を建設中であり2014年にオープンする予定となっています。 ところがこのアキーラが亡くなってしまったことで新ホッキョクグマ展示場完成後にそこで飼育するホッキョクグマがいないという状況に陥ってしまいました。 実はノースカロライナ動物園が所有するホッキョクグマはもう一頭いるわけですが、これが28歳になるサーカス出身のウィルヘルム (通称「ウィリー」)です。 彼は現在ミルウォーキー動物園に貸し出されているわけです。 このウィルヘルムについては以前、「米・ノースカロライナ動物園のウィルヘルム、ミルウォーキー動物園へ一時移動 ~ 彼のサーカス団時代の境遇」という投稿をしていますので是非ご参照下さい。 
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ミルウォーキー動物園に貸し出されているウィルヘルム
Photo(C)digtriad.com

ではこのウィルヘルムをノースカロライナ動物園に戻せばよいではないかという考え方はあるわけですが、しかし彼の年齢を考えればここでまた移動させるのはリスクが大きいとノースカロライナ動物園では考えており、彼の帰還を求めない方針だそうです。 そうなると来年オープンする新施設に入るホッキョクグマがいないことになり、これについてノースカロライナ動物園では新しいホッキョクグマの入手に頭を痛めています。 そこでまずノースカロライナ動物園としては連邦政府の魚類野生動物保護局 (U.S. Fish and Wildlife Service - FWS) に対してホッキョクグマの入手に協力してもらうように依頼したそうです。 これは例のバッファロー動物園に現在暮らしている野生孤児のカリーに対してセントルイス動物園が事前にFWS と連絡を密にしてその入手を内定したという事例を彷彿とさせるものですね。 結局のところこうして野生孤児を入手することを狙う以外になかなかホッキョクグマを新規に入手することが困難となっているという事情があります。 ところが不思議なことに報道によればノースカロライナ動物園がFWSに協力を求めているのはカナダの野生個体だそうで、これはさすがに無理というものではないでしょうか。 FWSがカナダの野生個体の入手に協力できるとは思えません。 第一、カナダ政府が輸出許可を認めないでしょう。 となれば次に、アラスカの個体の入手ということになるわけですが、これは運を天に任せたようなものです。

そもそもこうした野生個体は、合法・非合法を問わず狩猟によって母親が犠牲となったがために残された孤児の幼年個体を人間が保護することになった個体です。 つまり、動物園の新しいホッキョクグマの個体の入手は野生のホッキョクグマの不幸を前提としているわけです。 野生のホッキョクグマの保護を強めれば強めるほど、動物園は従来は野生孤児が入手可能であった状況が「悪化」するわけです。 野生のホッキョクグマ保護を強化すれば強化するだけ動物園はホッキョクグマの野生孤児個体の入手が難しくなるわけです。 そうなると動物園は、野生孤児ではない野生個体を入手せざるを得ないわけです。 例えば先日、人間を襲ったがために捕獲されてカナダのアシニボイン公園動物園で飼育されることになった個体とか、あるいはケガをしたために人間に保護された個体などです。 しかしその数はそう多いのもではありません。 つまりこの点において、野生下のホッキョクグマと飼育下のホッキョクグマとの間には、一種の倒錯した関係が生じていることになります。 多くの動物園においてホッキョクグマの展示に教育的視点を強めてホッキョクグマの苦境を来園者に訴えようとすれば、それはすなわち野生のホッキョクグマのより多くの不幸を前提としなければならないというパラドックスです。 動物園におけるホッキョクグマ展示は教育的価値が大きいから、ホッキョクグマの野生個体は孤児でなくとも捕獲して多くの動物園で展示すればよいではないかなどという考え方は問題外でしょう。 野生個体をそのような目的で捕獲することは、もう当の昔に法令で禁止されているわけですし、それ以前にまずこれは禁じ手です。 まして、そのような依頼をカナダ政府やロシア政府やノルウェー政府に依頼する動物園があったとすれば、そもそも動物園の意義と価値をこれもまた倒錯して理解していると非難され、その見識が疑われることは必至です。

このノースカロライナ動物園はさすがにそのような非常識な考え方はしていません。 下の映像は2年前の地元TV局の番組でこのノースカロライナ動物園の新展示場建設計画の意義と目的を紹介しており、園長さんや主任の方もそれについて語っています。 なかなかうまくまとめられた番組ですのでご覧いただければ幸いです。



次の映像はノースカロライナ動物園が制作したもので、同園のホッキョクグマ飼育展示の方針が紹介されています。



果たしてノースカロライナ動物園はどうやって新しいホッキョクグマを入手するでしょうか。 その推移を見守りたいと思います。

(資料)
Newsobserver.com (Sep.20 2013 - NC Zoo's new polar bear habitat may have everything but bears)
News 14 Carolina (Oct.14 2013 - NC Zoo looking to Canada for new polar bear)
News & Record (Sep.10 2013 - Aquila, popular male polar bear, dies at N.C. Zoo)

(過去関連投稿)
アメリカ・ノースカロライナ動物園のアキーラがデトロイト動物園へ ~ 急ピッチの欧米の施設新築
アメリカ・ミシガン州、デトロイト動物園に移動したアキーラの姿
米・ノースカロライナ動物園のウィルヘルム、ミルウォーキー動物園へ一時移動 ~ 彼のサーカス団時代の境遇
アメリカ・デトロイト動物園のアキーラが施設改修工事が終了したノースカロライナ動物園に戻る
アメリカ・ノースカロライナ動物園のアキーラが改修後の展示場に元気に登場 ~ 「マニトバ基準」 を考える
アメリカ・ノースカロライナ州アッシュボロのノースカロライナ動物園のアキーラが急死
by polarbearmaniac | 2013-10-15 01:00 | Polarbearology

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