街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園のウスラーダの歩む道 ~ 再説: 繁殖可能年齢上限

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ウスラーダ (2012年9月17日撮影 於 サンクトペテルブルク、
レニングラード動物園) Nikon D5100
AF-S DX NIKKOR 55-300mm f/4.5-5.6G ED VR

今年のホッキョクグマの出産シーズン入りに際しては先日の投稿で、アメリカのコロンバス動物園の双子姉妹であるアナーナとオーロラにダブル出産があるかどうかが今年の世界のホッキョクグマ界で最も注目される点であると述べました。 しかしここでもう一つ、忘れてはならない有名なペアの間の繁殖について指摘しておかねばなりません。 それは言うまでもなくロシア・サンクトペテルブルクのレニングラード動物園の誇る屈指の名ペアであるウスラーダとメンシコフです。

ウスラーダ   (Sep.17 2012)

ウスラーダは今年の11月で26歳、メンシコフは25歳となるわけでこれは通常で言えばホッキョクグマの繁殖年齢の上限、もしくはそれを越えた年齢となっているわけです。 このウスラーダの26歳という年齢をどう考えるかですが、彼女がこれまで15頭の子供たちの出産・成育に成功してきたことはこの問題を考えるにあたって重要なことです。 ホッキョクグマの最高齢出産世界記録はアメリカ・デトロイト動物園で飼育されていたドリス (1948 ~ 91) の持つ38歳2か月、そして最高齢出産成功世界記録 (つまりその後の成育にも成功したということ) はやはり彼女の持つ35歳11か月です。 この世界最高齢での出産成功で成育したのがカリストという雄であり、このカリストの息子がセネカ動物園で現在飼育されている雄のゼロというわけです。 このあたりの詳しいことについては過去関連投稿をご参照いただくこととし、本投稿ではこれ以上は触れません。 

そういった最高齢出産世界記録 (38歳2か月) や最高齢出産成功世界記録 (35歳11か月) があるならば、どの雌のホッキョクグマもその年齢に達するまでは繁殖を諦めてはいけない、と言いたいところですが、しかし少なくともそれは何度も出産に成功してきた偉大なる母親たちに対してはそう言うことも全く不可能ではないにしても今まで出産経験のないホッキョクグマについてはせいぜい21歳あたりが上限だと考えてよいでしょう。 サツキ(旭川)はそう言った意味でもう上限にほぼ達したわけで、それ以上の奇跡は期待できないということです。 またキャンディ(札幌)やバリーバ(横浜)やバフィン(大阪)は出産経験はあるとはいえ、やはりサツキと同等に考えてよいでしょう。 この4頭は繁殖という点ではもう後のないところまで追いつめられている (いや、すでに土俵を割っている?)わけです。 現時点で私がはっきりと確認できている限りでは「最高齢初産成功例」 は20歳です。 これに関しては是非、「アメリカ、デトロイト動物園のベアレ逝く ~ 20歳で初出産に成功したサーカス出身のホッキョクグマの生涯」をご参照下さい。 このベアレというのは本当に素晴らしいホッキョクグマです。 そして彼女の出産成功は実に感動的なことだったわけです。 (*注 - 「成功」というのは「成育成功」という意味です。)
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ウスラーダ Photo(C)Яндекс/Sunny TV

この下の表はカナダにおいて野生のホッキョクグマの何歳の雌が何頭の幼年個体を連れていたかを調査したものです(クリックして現れたページの+をさらにクリックして最大化して下さい)。 左端のage が雌の年齢であり、次の No cubs は ”Females with no cubs” の意味であり、つまり幼年個体を連れていない雌の数です。 次の1 cub は一頭の0歳の幼年個体を連れていた雌の数、次の 2 cubs は0歳の双子を連れていた雌の数、次の1 1-yr-old は1歳の1頭の幼年個体を連れていた雌の数、次の2 1-yr-old は1歳の双子を連れていた雌の数、次の1 2-yr-old は2歳の1頭の幼年個体を連れていた雌の数、そして右端の 2 2-yr-old は2歳の双子を連れていた雌の数です。
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(出典) "ANURSUS:A POPULATION ANALYSIS SYSTEM FOR POLAR BEARS (Ursus maritimus)"
Appendix A. Pooled mark-recapture data for female polar
bears In arctic Canada between 1970 and 1984

この上の表から逆算しますと、5~9歳にすでに一気に出産のピークがあることがわかります。 上の年齢を見ていきますと24歳がほぼ上限のように見えます(実際は24+ となっていますが、単純に24歳と考えておいた方が無難でしょう)。 これはあくまでも野生下の場合のデータですので飼育下では10歳台の後半から20歳あたりまでもっとピークがなだらかに引き伸ばされてくるはずです。 それからこれは当然のことですが、その雌がこれまで何回出産してきたかということはこのデータからの読み取りは不可能です。
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ウスラーダ (2012年9月18日 於 サンクトペテルブルク、レニングラード動物園)

では26歳になるウスラーダはどうなのかと言いますと彼女はこれまで15頭の出産・成育に成功していますのでサツキやキャンディなどの場合とは到底単純には比較できないわけです。 雄についての確認しうる最高齢繁殖関与成功世界記録は28歳(ロストック動物園だったはず)です。 メンシコフは間もなく25歳になろうとしていますが彼の実績から考えればこの年齢は全く問題ないと考えられます。 ここで今年9月11日におけるウスラーダとメンシコフに対するおやつのプレゼントの様子をレニングラード動物園が公認している映像で見てみましょう。 これはなかなか見応えのある映像です。 おやつを与えているのは同園のホッキョクグマ担当のイヴァノフ飼育員さんです。 最初に映っているのはウスラーダです。次に登場するのがメンシコフで、彼は水に飛び込んで水中でおやつをもらっています。 その後はウスラーダとメンシコフが交互に映っています。



9月とはいうもののウスラーダの体はかなり太っており、やはり出産準備を意識した給餌が長いスパンで行われていることを示しています。 ウスラーダが前脚を動かしておやつへの期待を示すポーズは彼女の娘であるモスクワ動物園のシモーナも行うポーズです。 シモーナはひょっとして母親のウスラーダのこのポーズを見て真似しているのかもしれません。 日本でいえば、あのララの「頂戴ポーズ」のようなものでしょう。

今回このウスラーダに出産があれば、1頭ならば雌の出産(成育)世界最多記録に並び、双子ですと17頭となり、確認しうる限りでは単独での世界最多記録となるはずです(同一パートナーでの繁殖ではもう世界記録は更新しているはずです)。 しかしやはり26歳という年齢に大きな不安は残るわけですが、彼女の実績とパワーがそれを乗り越えてくれることを期待したいと思います。ホッキョクグマ界のカリスマであるペルミ動物園のアンデルマと同様に、この女帝ウスラーダも雲上のホッキョクグマの領域に入りつつあるのを我々は現在進行形で目撃しているわけです。

昨年の秋、私は「正念場のキャンディが 『晴れ舞台』に立つ日は来るか」という投稿で、「キャンディの出産の可能性は15%、そして赤ちゃんと一緒に4月初旬に戸外に出てくる可能性は5%」と予想しました。 今年はと言えば、「キャンディの出産の可能性は10%、そして赤ちゃんと一緒に4月初旬に戸外に出てくる可能性は3%」と考えておきたいところです。 ウスラーダに関しては「出産の可能性60%、そして赤ちゃんと一緒に4月初旬に戸外に出てくる可能性は50%」と予想しておくこととします。 キャンディについては願望抜きで冷静に考えれば昨年より成功率が高くなることはないだろうということです。 そしてウスラーダについては彼女のような例年は「大本命」であり続けてきた雌にしても、このような低い数字にならざるを得ないというわけです。

(資料)
Ленинградский зоопарк (Новости сайта - Видео кормления животных в Ленинградском зоопарке)
Газета Metro (Apr.11 2013 - У обитателей Ленинградского зоопарка начался брачный период)
Аргументы и Факты (Jun.11 2013 - Белые медведи, жираф-долгожитель и другие «звезды» Ленинградского зоопарка)
Letopisi.Ru (Сетевой проект Живой символ Арктики/Белые медведи Ленинградского зоопарка)
"ANURSUS:A POPULATION ANALYSIS SYSTEM FOR POLAR BEARS (Ursus maritimus)"

(過去関連投稿)
サツキ、産室から出る...~ ホッキョクグマの歴代最高齢出産成功記録は35歳11ヶ月?
高齢のデビーを愛し、慈しみ、送った人々 (下)
カナダ・マニトバ州、アシニボイン公園動物園の新展示場施設の建設  ~  偉大なるデビーの遺したもの
アメリカ、デトロイト動物園のベアレ逝く ~ 20歳で初出産に成功したサーカス出身のホッキョクグマの生涯
アメリカ・ニューヨーク州 ロチェスターのセネカ動物園でのオーロラへの人工授精、結果は実らず

(*以下、ウスラーダ、メンシコフ関連)
ケンピンスキーホテルからレニングラード動物園へ ~ ウスラーダとメンシコフとの再会へ!
ウスラーダお母さんにスイカのプレゼント
世界で最も偉大なる母、ウスラーダの素顔
世界で最も偉大なる男、メンシコフの雄姿 ~ 彼こそ「男の中の男」という言葉にふさわしい!
ウスラーダとメンシコフの夏 ~ 日曜日の昼下がりの光景
至高のホッキョクグマ、メンシコフとの再会 ~ 来園者を魅了する偉大なる雄姿
メンシコフ閣下の充実した時間 ~ 肉のプレゼント
ウスラーダの赤ちゃんの登場を待つサンクトペテルブルクのレニングラード動物園
秋晴れのサンクトペテルブルクでウスラーダ一家と再会 ~ ロモノーソフ君、はじめまして!
ウスラーダの15番目の子供、ロモノーソフの素顔 ~ 一人っ子の温和な性格か?
ウスラーダお母さん、堂々たる貫禄を見せつける理知的な母性の発露
帝王メンシコフ、人々を魅了する美しき威厳
夕方から満を持して登場のウスラーダとロモノーソフの親子
ウスラーダさん、メンシコフさん、ロモノーソフ君、お元気で! ~ ホッキョクグマ体験の至福の3日間
理性のウスラーダと情愛のシモーナ ~ 偉大なるホッキョクグマ母娘の性格の違い
ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園のロモノーソフのヤクーツク動物園への移動が決定
息子との間近の別れを予感しているウスラーダお母さん ~ 冬の日のサンクトペテルブルクの親子の情景
ロモノーソフとウスラーダお母さんの親子最後の一日 ~ サンクトペテルブルクでの別れ
ロモノーソフ、無事にヤクーツク動物園に到着 ~ そして息子の去った日のウスラーダお母さんの姿
仙台・八木山動物公園のカイのロシア時代の写真
ウスラーダお母さんの10番目の子供、カイ (八木山動物公園 / ロシア名 : ラダゴル )のロシア時代の姿
ロシアのマスコミ、カイ(仙台)とロッシー(静岡)の地震・津波からの無事を大きく報じる
カイ (仙台・八木山動物公園 / ロシア名:ラダゴル) とウスラーダお母さんの物語
モスクワ動物園の「良妻賢母」シモーナ ~ 母親のウスラーダに似た顔立ち
ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園での「国際ホッキョクグマの日」のイベント
ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園の名ペア、ウスラーダとメンシコフの新たなる挑戦
ロシア ・ サンクトペテルブルク建都310年の記念ポスターに登場したメンシコフ ~ 偉大な男が祝った街
女帝ウスラーダとシモーナ、コーラ、リアの三頭の娘たち ~ 偉大な母親たちの三代の系譜
by polarbearmaniac | 2013-10-26 07:00 | Polarbearology

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