街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

プロフィールを見る

イギリスのヨークシャー野生動物公園がメキシコのベニート・フアレス動物園のユピの移動受け入れを表明

a0151913_2471479.jpg
ユピ(ユピク) Photo(C)South Yorkshire Times

いささか首をかしげたくなるような話についての報道がなされています。 それをご紹介する前にまず以前の投稿である「メキシコ・モレリア市、ベニート・フアレス動物園のユピクの移動を求めた動物保護活動家の署名活動」をどうしても先にご参照いただきたく思います。

メキシコ・ミチョアカン州のモレリア市にあるベニート・フアレス動物園 (Zoológico Benito Juárez de Morelia) で飼育されている現在は22歳になっている雌のホッキョクグマであるユピ (Yupi) (*注 – 彼女の名前は以前は「ユピク(Yupik)」と報道されていましたが、Yupik というのは子音字で終わるため多くは雄を想起させる名前である点、及び彼女を愛称で呼ぶことにしているらしいと思われる点、などによって最近の報道ではYupi とされていることを考慮して、今後は「ユピ (Yupi)」 と表記することにします。) について以前から動物保護活動家が彼女を環境の良い別の場所に移動させようと署名活動を行っていることをご紹介しています。

ところがこのたびイギリス中部サウス・ヨークシャー (South Yorkshire) 州のドンカスター(Doncaster)市近くにあるヨークシャー野生動物公園 (Yorkshire Wildlife Park) が、現在同園で建設中の来年2014年に完成予定であるホッキョクグマの新飼育展示施設でユピを飼育したいとベニート・フアレス動物園に公式に申しいれたとのことです。 このヨークシャー野生動物公園では現在はホッキョクグマを飼育していませんので、この新しい施設を建設するための追加資金の一部として15万ポンドを募り、すでに現在この施設は建設中となっていますが、そこで飼育するホッキョクグマとしてユピに白羽の矢を立てたわけです。
a0151913_2592479.jpg
ヨークシャー野生動物公園のホッキョクグマ飼育展示場完成予定図

このヨークシャー野生動物公園の広報担当者はユピがメキシコの動物園において劣悪な環境で飼育されていることを述べ、そして園長さんもユピの余生は環境の良いヨークシャー野生動物公園で過ごさせてやるべきだと語っています。 さらに同園のSNSサイトのページにも現在のユピの暮らしぶりを写した写真を何枚もアップしています。 さて...このヨークシャー野生動物公園の主張は動物保護活動家の主張と全く同じであるのが実に奇妙です。 そもそもユピの受け入れについてベニート・フアレス動物園に依頼している側であるはずのヨークシャー野生動物公園が、相手方を非難するようなトーンで語るというのも不可思議です。そしてさらにイギリスのミラー (Mirror) 紙もこれについて動物保護活動家の言うことそのままを主張する報道を行っているというのも何とも奇妙に感じます。

どこでどうやって背後で連帯しているのかはよくわかりませんがズーチェック (Zoocheck) というお馴染みの動物保護活動家もこのユピのヨークシャー野生動物公園への移動を後押ししているような意味の発言を行っていますから、単に両者の阿吽の呼吸というわけではないでしょう。 そもそもズーチェックというのはその本質的なところで動物園というものを否定しているわけですから、ユピをどこかに移動させろという主張において移動先がやはり飼育下の動物園であることを認めれば自己矛盾に陥るために表だって移動先にヨークシャー野生動物公園の名前を挙げていないというだけでしょう。
a0151913_3211952.jpg
Photo(C)Clasos.com.mx / Splash News

メキシコのベニート・フアレス動物園でのユピが暮らしている環境が良くないというのは多分事実でしょう。 そしてユピをもっと環境の良い施設に移した方が良いという考え方も正しいように思います。 しかしこういったやり方でベニート・フアレス動物園に対して圧力を加え、そしてヨークシャー野生動物公園が 「待ってました」 と言わんばかりに待ち構えていて名乗りを上げるというのは感心できませんね。 いくら主張が正しくても物事の持って行き方が間違っていればダメなのです。 環境の良くない(と思われる)動物園に対して慈悲深い救いの手を差し伸べた動物園という顔を見せつつ、こういった形でホッキョクグマを入手しようとしているやり方は、考えようによっては非常に戦略的で巧妙なやり方であるようにも思います。 しかし、こういったシナリオに今回の話を持っていくのは物事を歪めてしまうことになるだろうと思うわけです。
a0151913_332564.jpg
(C)BBC

私もユピをあんな暑い国から是非解放してやりたいと思います。 しかし今回のやり方には賛成できません。 第一、ベニート・フアレス動物園はこういうやり方に大反発するでしょう。 中南米のスペイン語圏の国々の人たちは「プライド」を傷付けられるのを極度に嫌います。 「名より実」 という考え方は彼らはあまりしないのです。 こういった今回のやり方では、ユピをますます苦しい立場に追い込むようなものです。 「動物保護活動家の主張に屈してしまう動物園」 という姿はベニート・フアレス動物園にとっては屈辱でしょう。 こういう図式に今回の件を持って行ってしまっては、できることもできなくなってしまうわけです。

ここで前回ご紹介したものとは別のメキシコのTV局の映像でユピの環境を見てみることにしましょう。



園長さんは前回の投稿でご紹介したような従前の主張を繰り返す形での反論を行っています。

(資料)
Save Yupi (A Polar Bear in Mexico)
Yorkshire Wildlife Park Foundation (Project Polar)
Daily Mirror (Oct.26 2013 - Polar bear Yupi stranded 4,000 miles from home in a sweltering Mexican zoo)
BBC (Oct.29 2013 - South Yorkshire zoo bid to save 'Mexican' polar bear)
South Yorkshire Times (Oct.29 2013 - A happy new life for polar bear Yupi at Doncaster’s wildlife park)
Diario Libertad (Jan.16 2013 - Director de zoológico de Morelia se niega a informar sobre estado de salud de la osa polar Yupi)

(過去関連投稿)
メキシコ・モレリア市、ベニート・フアレス動物園のユピクの移動を求めた動物保護活動家の署名活動
by polarbearmaniac | 2013-10-30 06:00 | Polarbearology

カテゴリ

全体
Polarbearology
しろくま紀行
異国旅日記
動物園一般
Daily memorabilia
倭国旅日記
しろくまの写真撮影
旅の風景
幻のクーニャ
エッセイ、コラム
街角にて
未分類

最新の記事

ロシア・ノヴォシビルスク動物..
at 2017-08-21 01:30
ロシア・西シベリア、セヴェル..
at 2017-08-20 15:00
*新規投稿お知らせ
at 2017-08-19 23:45
ロシア・ヴォルガ川流域のペン..
at 2017-08-19 02:00
ロシア・西シベリア、ボリシェ..
at 2017-08-18 02:00
ロシアのクラスノヤルスク環境..
at 2017-08-17 01:30
チェコ・プラハ動物園のホッキ..
at 2017-08-16 01:30
ロシア・サンクトペテルブルク..
at 2017-08-15 01:30
ロシア・ウラル地方、エカテリ..
at 2017-08-14 01:30
大阪・天王寺動物園のシルカ ..
at 2017-08-13 01:30

以前の記事

2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月

検索

ブログパーツ

  • このブログに掲載されている写真・画像・イラストを無断で使用することを禁じます。

ライフログ


人生と運命 1


スターリン―青春と革命の時代


モスクワは本のゆりかご


私のモスクワ、心の記憶


自壊する帝国 (新潮文庫)


甦るロシア帝国 (文春文庫)


嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)


ロシア 春のソナタ、秋のワルツ-1999-21st


それからのエリス いま明らかになる鴎外「舞姫」の面影


ミチコ・タナカ 男たちへの讃歌 (新潮文庫)


わがユダヤ・ドイツ・ポーランド―マルセル・ライヒ=ラニツキ自伝


ベルリン戦争 (朝日選書)


Hof――ベルリンの記憶


カチンの森――ポーランド指導階級の抹殺


北京烈烈―文化大革命とは何であったか (講談社学術文庫)


慟哭の通州――昭和十二年夏の虐殺事件


主題と変奏―ブルーノ・ワルター回想録 (1965年)


藤田嗣治 異邦人の生涯


Barle's Story: One Polar Bear's Amazing Recovery from Life As a Circus Act


Hotel Adlon: Das Berliner Hotel, in dem die grosse Welt zu Gast war


Ein seltsamer Mann


Alma Rose: Vienna to Auschwitz


St Petersburg: A Cultural History


Gulag


The Guest from the Future: Anna Akhmatova and Isaiah Berlin