街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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アメリカ・バッファロー動物園が遂に新施設建設資金の全額調達に成功 ~ 「悪しき前例」 の危険性

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ルナ Photo(C)Buffalo News
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カリー Photo(C)Buffalo News

アメリカ・ニューヨーク州のバッファロー動物園がアメリカ動物園・水族館協会 (AZA - The Association of Zoos and Aquariums) の飼育基準を満たす総工費1400万ドルもの建設資金を必要とするホッキョクグマなどの極地動物を飼育展示する新施設 (“Arctic Edge Polar”) の建設計画に必要な建設資金のうちで不足している400万ドル分の寄付を市民から募っているものの、なかなか全額を集めることができず不足分のうちいくらかをニューヨーク州政府が負担することが決定し、計画を一部微修正するなどしてとにかく着工にこぎつけるまでとなったバッファロー動物園についてはその状況を追って今まで詳しくご紹介してきました。 

新施設建設資金の調達問題だけでなく、この今回のバッファロー動物園のルナとカリーの問題は、ホッキョクグマを飼育・展示するということに関わるほとんど全ての問題 (人工哺育、適応化、野生個体保護、繁殖計画、飼育基準、飼育展示場建設と資金調達、キャンペーンのあり方etc.) を抱合しているわけで私としては実に興味深くこの問題を追い続けてきたわけです。 「やり手」の女性であるフェルナンデス園長の強引とも思える手法にいささかうんざりした感が無きにしも非ずといった最近でしたが、とうとうこの問題に一区切りがつくことになりました。
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地元バッファロー市からの最新の報道によりますとニューヨーク州のクオモ知事はこの当初の建設計画に必要だった1400万ドルのうち現在まだ不足している75万ドルの全額を州政府が負担することを昨日の日曜日に明らかにしました。 それを伝える地元のTVニュースをご紹介しておきます。 冒頭はCMです。


9月の段階で140万ドルが不足していたためにバッファロー動物園では計画を微修正していたものの、今回のクオモ知事の負担表明によってその微修正も不要になったということを意味します。 とうとうバッファロー動物園は新施設建設資金の全額の調達ができたことになるわけです。 クオモ知事の今回の負担表明の背景にはニューヨーク州西部の観光資源へのテコ入れを行いたいという意図があるようです。 フェルナンデス園長に言わせますと、今年のバッファロー動物園の入園者数は好調に推移しており(昨年同時期よりも)6万人多く、11月と12月に悪天候にならなければ年間50万人の入園者数を達成できると予想しています。ちなみに昨年の入園者数は45万6千人だそうです。 フェルナンデス園長は、それもこれも全てルナとカリーのおかげだと考えているようです。 新しい展示場は自然の特徴を模倣したものであり、建物はイヌイットの文化を象徴した造りとなるそうです。
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Photo(C)WGRZ

こうしてバッファロー動物園では「メデタシメデタシ」となったわけですが、しかし私は今回の件で、いささか気になることがあります。 それは他園に対する影響です。 AZAの基準に適合する施設を建設するためにはこれだけの派手なキャンペーンと同時に政治的動きを行い、結果として行政に多大な負担を要求した形を取りつつ多額の資金を調達せねばならないという悪しき例を作ってしまったということです。 フェルナンデス園長のような性格の「やり手」の園長さんにありがちな傾向は、自分の園だけに意識が集中して、己がやっていることが他園にどういう影響を与えるかを考えてみるということがほとんどないという点です。 なんのかんの言いながら結局は自治体から多額の金を獲得することが園長としての手腕の全てであるという誤った評価がなされかねません。 加えて、AZA基準の施設を直ちに着工開始せねば秋にはルナとカリーを失うといった事実とは異なる内容の訴えかけを行った不誠実さも問題です(これについては「アメリカ・バッファロー動物園の新施設建設資金の露骨な寄付募集活動に眉をひそめる地元の財団・基金」をご参照下さい)。

さらに、こうしてAZAの基準に適合する施設を作るには多額の資金と派手なキャンペーンが必要であると言った印象を多くの他園に与えてしまった事実も否定できません。 「もうホッキョクグマの飼育はやめよう。」といったことになる動物園が出てくるでしょう。 現にエリー動物園のミッチェル園長はそういう気持ちになってパッチーズをノースカロライナ動物園に片道切符で貸し出すことになったわけですが、新施設を建設してパッチーズを呼び戻そうという気持ちはないようです。 AZAの基準というのはホッキョクグマたちが飼育展示されている部分だけが問題であって、観覧者側の建物や設備を規定しているものではありません。こういった建物や設備のほうに過大な金をかける傾向があるのがアメリカにおける新施設なのではないでしょうか。 デンマークのスカンジナヴィア野生動物公園やスコットランドのハイランド野生公園といった存在はこういったアメリカのやり方に対するアンチテーゼだと言って良いでしょう。 それについては以前の投稿である「スコットランドのハイランド野生公園におけるホッキョクグマ飼育場 ~ 「量」を軽視せぬ簡素な設計思想」をご参照下さい。

さて、ごく最近のルナとカリーの仮飼育展示場での様子を見てみましょう。





世の中にはホッキョクグマに何の関心も持たない人々も多く存在しています。 そういった人々(納税者)に、「何億円もかけた豪邸に住むとは、ホッキョクグマというのはいったい何様なのか!」といった反感だけは持たれないようにしたいものです。

(資料)
Buffalo News (Nov.10 2013 - State closes funding gap on zoo’s Arctic Edge polar bear habitat)
WGRZ (Nov.10 2013 - State Completes Funding for Zoo's Polar Bear Exhibit)
Buffalo Business First (Oct.29 2013 - Zoo closes funding gap on polar bear exhibit)

(過去関連投稿)
動物園による情報公開 ~ アメリカ・バッファロー動物園でのホッキョクグマ連続死亡事件
繁殖のために住み慣れた動物園を旅立ったホッキョクグマ ~ ヘンリー・ヴィラス動物園のナヌークへの期待
アメリカ・バッファロー動物園のホッキョクグマ新展示施設建設へ篤志家の多額な資金寄付
アメリカ・ニューヨーク州、バッファロー動物園の苦悩 ~ ホッキョクグマ新施設建設の資金不足
アラスカで保護された野生孤児カリーをめぐるバッファロー動物園とセントルイス動物園との微妙な関係
アメリカ ・ ニューヨーク州、バッファロー動物園で遂にルナとカリーが初顔合わせ
アメリカ ・ バッファロー動物園でルナとカリーの正式な同居展示が開始 ~ カリーの今後について
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園でのルナとカリーの同居は順調に推移
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園の新施設建設の不足資金を州政府が一部負担の意向示す
アメリカ・バッファロー動物園がルナの移動可能性に言及 ~ 報道されている状況は本当に事実なのか?
アメリカ・バッファロー動物園の新施設建設資金の露骨な寄付募集活動に眉をひそめる地元の財団・基金
アメリカ・ニューヨーク州のバッファロー動物園に凝縮した新施設建設の問題 ~ 主役は来園者か動物たちか?
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園のルナとカリーの近況 ~ 展示需要と個体数のアンバランス
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園の新施設建設に対し州議会が州予算よりの援助を承認
アメリカ・バッファロー動物園が野生孤児カリーの継続飼育を狙い、遂に上院議員にFWSへの説得を依頼

(*以下、ルナ関連)
アメリカ・ニューヨーク州、バッファロー動物園でホッキョクグマの赤ちゃん誕生! ~ その姿が突然公開
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園の赤ちゃんの追加映像 ~ ララの子供たちの従妹であるルナ
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園の人工哺育の赤ちゃんのルナが初めて戸外へ
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園の赤ちゃん、ルナの近況を伝えるTVニュース映像
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園の赤ちゃん、ルナが雪の舞う戸外へ
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園の赤ちゃん、ルナが遂に一般公開へ
アメリカ・ニューヨーク州、バッファロー動物園の赤ちゃんの「ルナ」が仮称から正式の名前となることが決定
アメリカ・ニューヨーク州、バッファロー動物園のルナの近況 ~ 人間の視線への意識と興味
(*以下、カリー関連)
アメリカ・アラスカ州の北西岸でホッキョクグマの孤児の赤ちゃんが保護!
アメリカ・アラスカ動物園で保護された野生孤児のカリーが今春に期限付きでバッファロー動物園へ
アメリカ・アラスカ動物園で保護されている野生孤児のカリーの一般公開が始まる
アメリカ・アラスカ動物園で保護されている野生孤児のカリーを間近で撮り続けている専属カメラマンの視点
アメリカ ・ アラスカ動物園で保護されている野生孤児の赤ちゃん、カリーの近況と今後について
アメリカ・アラスカ動物園の野生孤児カリー、来週後半に ニューヨーク州のバッファロー動物園へ
アメリカ・アラスカ動物園の野生孤児カリーがニューヨーク州のバッファロー動物園に無事到着
by polarbearmaniac | 2013-11-11 02:00 | Polarbearology

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