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ベルリン動物園の故クヌートの死因解明の最終報告書が発表される ~ 「ウィルス感染による脳炎」

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故クヌート Photo(C)dpa

今回の件も実は私がベルリン滞在中に報道されており、投稿しようかどうか迷っていた内容ですが、ドイツでは一流紙を始め広く報道されていますのでご紹介しておくことにします。 ベルリン動物園で2011年3月にあのクヌートが悲劇的な死を遂げてから間もなく3年になろうとしていますが、そのクヌートの死因 (Todesursache) に関する最終報告書が先週発表された件です。(*後記 - その後2015年8月にさらに決定的で完全な最終報告書が出されました。それについては「ベルリン動物園の故クヌート(2006~2011)の死因は「抗NMDA受容体抗体脳炎」 ~ ウィルス不特定の謎解明」という投稿を御参照下さい。)

クヌートの死因については実は彼の死後半月ほど経過した段階でベルリンのライプニッツ研究所が死因を調査・発表していましたが、今回はそのライプニッツ研究所を中心とした複数の研究機関の専門家たちからなる合同チームが広範囲に徹底的にクヌートの死因を解明しようとした結果が今回、最終報告書として発表されたわけです。 その最終的な結論は当初発表された死因と内容的にはほぼ同じで、「ウィルス感染によって引き起こされた可能性が非常に強い、炎症からなる脳炎 (Enzephalitis, einer Entzündung des Gehirns die dem Tier Krämpfe bereitete und die höchstwahrscheinlich durch eine Virusinfektion verursacht worden war.)」 ということだそうです。 そしたさらに仮にクヌートが水に落下せずとも、彼の脳の状態は非常に深刻な段階にまで達していたがために、やはり死亡したであろうことも明らかにしているそうです。 またこの脳炎を引き起こしたウィルスの特定はできなかったそうですが、以前2010年にドイツのヴッパータール動物園でイェルカの命を奪ったウマヘルペスウィルス (Pferde-Herpesvirus) ではないということも明らかにされたそうです。 このイェルカも亡くなる直前にはクヌートとそっくりな発作を起こして亡くなっており、そのイェルカの死因はウマヘルペスウィルスだったわけで、クヌートが感染したのもこのウィルスではなかったかという疑いが存在していたわけですが、それは否定されたということになります。

今回の合同チームによるクヌートの死因解明は、一頭の動物の死因を追及するために今まで行われたことのないほど広範囲になされたものだったそうです。クヌートの遺伝子に異常がないのかどうか、あるいは他に持病があったのではないかなども病理学的な見地から徹底的に調査されたそうですが、そういったことは見つからなかったそうです。



それから、クヌートの死の直後には、上の映像で見るあのクヌートの発作は癲癇(Epilepsy)ではないかという説もあったわけですが、今回の最終報告書ではクヌートの脳に生じた炎症は脳内で「電気的な脳の暴走(elektrisches Gewitter)」を生じさせ、それは外見上においては結果的には癲癇の発作に良く似てはいるものの癲癇と似ているのはその外見的な症状だけであることを示すことによって、逆にクヌートの発作は癲癇であることを完全に否定していることとなります。

ともかくクヌートを死に導いたウィルスが特定できなかったことは、今後において突然変異を生じた未知のウィルスが動物園における動物の飼育に対して大きな脅威となる可能性は否定できないことは言うまでもありません。 生息地が全く異なる複数の動物たちが一つの動物園に飼育されているわけで、そういったことからウィルスの脅威に目を向けていく必要があるでしょう。このことは以前の投稿である「ドイツ・ヴッパータール動物園の故イェルカの死因はヘルペスウィルス(Zebra herpesvirus)の感染と判明」をご参照下さい。

さらに私として付け加えれば、クヌートのこのような死に方は彼が人工哺育されたこととは何の関係もないということです。 少なくともこれだけは今回の最終報告書ではっきりしたわけです。

(資料)
Berliner Morgenpost (Jan.3 2014 - Abschlussbericht bestätigt Todesursache von Eisbär Knut)
Tagesspiegel (Jan.3 2014 - Knut starb an Hirnentzündung)
Berliner Zeitung (Jan.4 2014 - Das unbekannte Virus)
DIE WELT (Jan.5 2014 - Eisbär Knuts Tod im Mammutverfahren aufgeklärt)

(過去関連投稿)
ベルリン動物園のクヌートが急死! ~ ホッキョクグマのアイドル、死して永遠・不滅の伝説となる...
ベルリン動物園がクヌートの検死解剖結果を発表 ~ 「死は脳に生じた重大な変化が原因」
ベルリン動物園のブラスキエヴィッツ園長、クヌートの脳の疾患について語る
クヌートの死因、脳脊髄液腔(Hirnwasserkammer)の異常とライプニッツ研究所が明らかにする
クヌートの死因の結論出る ~ 脊髄の炎症
クヌートの頭部の断層X線写真の再現画像で見た頭蓋骨 ~ 形状には異常なし
ドイツ・ヴッパータール動物園のイェルカ、突然逝く
ドイツ・ヴッパータール動物園のラルス(クヌートの父)、病状回復へ
ドイツ・ヴッパータール動物園の故イェルカの死因はヘルペスウィルス(Zebra herpesvirus)の感染と判明
by polarbearmaniac | 2014-01-07 16:30 | Polarbearology

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