街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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男鹿水族館での今後のホッキョクグマの繁殖を考える ~ “ What if...? ”

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豪太 (2014年1月25日撮影 於 男鹿水族館)

多くの人々が気が付いていながら、ほとんど表だって語られないことがあります。 今回はそれについて敢えて考えてみたいと思います。

今週ミルクが釧路市動物園に移動します。 その主な目的は、豪太とクルミとの間の次シーズン(2014年) の繁殖を狙うためです。 さて、これからが問題です。 今年2014年の春にこの2頭の間での繁殖行為があり、そして今年の11~12月に首尾よくクルミが出産したとします(一頭か二頭かについては話を簡単にするため一頭としておきます)。 産室内で赤ちゃんが無事に成育し、そして来年2015年の4~5月にクルミお母さんと一緒に一般公開されるとします。 そして来年の11~12月に一歳のお誕生会があるでしょう。

さて....この赤ちゃん(以下、個体X と略記します)は、その後いったいどうなるのでしょうか? 「クルミお母さんと一年だけしか一緒にいないのは可哀想だ。」 という声が再び必ず上がり、そして多分今度はミルクの場合とは違って個体Xはもう一年クルミお母さんと一緒に暮らすでしょう。 そうして2016年の11~12月に個体Xの2歳のお誕生会が開催されるでしょう。 さて...その後はどうなるのでしょうか?  まさに“ What if...? ” の連続です。
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クルミ (2014年1月25日撮影 於 男鹿水族館)

予想されることはまず、長期出張しているクルミの釧路市への返還でしょう。 そうなると男鹿水族館は豪太と秋田県が所有権を持つ個体Xの二頭飼育体制となるでしょう。 スペース的にはこれで全く問題ないわけですが、これでは豪太はもう繁殖に寄与させないということを意味します。 そうならないためにクルミが男鹿水族館に残留して引き続き豪太との間での繁殖を狙うと仮定すれば、個体Xをどこか別の施設に移さねばなりません。 さて...どうしましょうか?  なにしろ個体Xは秋田県の所有です。 ...となれば考え得ることは、

(A) 秋田市の大森山動物園の中にホッキョクグマを十分に飼育できる施設を新設して、そこに2017年の初頭に個体Xを移動させる。

(B) 個体Xを2017年の初頭に秋田県外の動物園に移動させる。


この二つです。 (A)については正確に言うと大森山動物園は秋田県の施設ではなく秋田市の施設のはずですが、まあそれは大した問題ではないでしょう。 (B)については移動地は北海道・東北以外になるでしょう。 なにしろ北海道の動物園にはスペース的な余裕がもうありません。 東北ではホッキョクグマを飼育しているのは仙台の八木山動物公園ですが、そこもスペースはないでしょう。 ですから必然的に個体Xは北海道・東北以外の動物園に移動することとなります。 どこになるかは難しいところです。 しかし、どこになったにせよ秋田県にとっては不本意でしょう。
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ミルク (2014年1月25日撮影 於 男鹿水族館)

さて、今回のミルクの釧路への移動についていくつかの報道ではしきりに権利関係について触れています。 その背景にはおそらく、豪太/クルミのペアの次の繁殖結果、つまり個体Xの権利は秋田県に属するということを強調したいためでしょう。 それはおそらく秋田県(の行政の最高責任者の方、及び担当者の方)が、秋田県が権利を持つ個体を何が何でも早く得たいと考えていることがマスコミの報道から透けて見えてくるわけです。 となれば、上記の(A)と(B)の選択肢ではおそらく(A)が採用される可能性が大きいと考えられます。 つまり、個体Xを何が何でも秋田県内に留め置こうという意思が働くであろうからです。 さてそうなると次の問題が生じてきます。 それは、「ホッキョクグマは秋田市で見られるのだから、わざわざ男鹿半島にある水族館まで行かなくてもよい。」 という考え方が一般の人に多く出てくるわけです。 これは男鹿水族館にとっては大きな痛手です。 これでは男鹿水族館でホッキョクグマを飼育するという同館の存在意義そのものを否定する結果になりかねません。

さて、では(A)と(B)以外の選択肢がないかといえば、そうでもありません。 以下の二つです。

(C) 2017年初頭にクルミを釧路に返還し、その代わりに別の雌の個体Fを男鹿水族館に導入して豪太との繁殖に寄与させ、個体Xは引き続き男鹿水族館で飼育して、豪太、個体F,個体Xの三頭飼育体制にする。

(D) 2017年初頭にクルミを釧路に返還し、豪太もオーストラリアに返還し、個体Xが繁殖可能な年齢になるまで男鹿水族館は個体Xの一頭飼育展示体制にする。


この(C)ですが、要するに個体Xの存在がクルミの三回目の繁殖に障害となるわけですから(つまり発情を阻害する要因になるので)、この場合クルミを別の雌の個体Fと入れ替えてしまおうという考え方です。 そうなると豪太と個体Xは繁殖行動期以外は交代展示するということになるでしょう。 やや苦しいですが可能ではあります。 次に(D)ですが、これは奇手のように見えますが、ホッキョクグマの所有権というものに固執するならば実はこれが一番筋の通った考え方です。 豪太の所有権は秋田県にはありませんから、いざ個体Xが誕生すれば秋田県自らが所有権を持たない豪太は不要となるという考え方です。 さらにクルミ返還は個体X誕生後は既定の方針でしょう。 ただしオーストラリアのシーワールドでは豪太の返還を自らは受け入れないでしょう。 オーストラリアのシーワールドは「余剰個体」を海外に出すことに過去に大きな苦労をしているわけです。 あのサンクトペテルブルクのウスラーダお母さんの産んだ双子をシーワールドは一緒に一度は導入したものの、そのうち雄のリューティクが「余剰個体」となってしまい、その受け入れ先探しに難航し、結局リューティクは2006年夏にアラスカ動物園に引きとられたわけです。 アメリカは海外からのホッキョクグマの輸入は基本的にはほぼ困難となっているわけですが、アラスカ州は野生のホッキョクグマの生息地という特殊な条件もあり、その例外だったようです。 秋田県がオーストラリアのシーワールドに豪太の返還を申し出てもシーワールドは難色を示すでしょう。 となれば、やはり(D)ではなく(C)の可能性がかなり高くなります。
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ミルク (2014年1月25日撮影 於 男鹿水族館)

さて、では最初に挙げた選択肢の(A)と次に挙げた選択肢(C)の二つの有力な可能性のうちどちらがさらに有力でしょうか? やはり(C)が優るということが言えるかもしれません。 しかし仮に(C)を選択した場合、個体Fはいったいどの雌になるのでしょうか? やはりツヨシでしょう。 秋田県と釧路市とはホッキョクグマについての「協力関係」がすでに存在しているからです。 しかし、この個体Fがツヨシとなるためには、2017年初頭までツヨシにはパートナーが得られない場合という条件が付いてきます。 そこまでツヨシをパートナー無しで放置するのは日本のホッキョクグマ界の繁殖に対する姿勢が問われかねません。 さて...そうすると、一度捨てたはずの選択肢である(B)が再浮上することになります。 そして私の予想では、現実には最終的に(B)が採用されざるを得ないのではないかと思っています。 ということはつまり、秋田県の知事さんが県所有のホッキョクグマを早く欲しいと望んだどころで、その個体Xは結局は県外に移動するという結果になるわけです。 つまりこれを別の角度から言い換えれば、少なくとも日本においては自治体が自らが権利を有する幼年個体の所有と保持に固執すること自体が現在の日本のホッキョクグマ界の現状に合わない、あまり意味のない欲求であるということを意味するわけです。 ましてや個体Xを早く誕生させるために諸々の重要なことを犠牲にする結果となっているとすれば本末転倒な話です。
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クルミとミルク (2014年1月25日撮影 於 男鹿水族館)

男鹿水族館では館長さん以下、スタッフの方々が真面目に真剣にホッキョクグマの繁殖に取り組んでいます。 それを全面的にサポートするのが県の役割であろうと考えます。 にもかかわらず県の側が主導権を持って前のめりで突き進むのには危うさがあるように思います。 今年の11~12月に首尾よく個体Xが誕生した場合、そのあとのシナリオを県知事さんや県の担当者の方は具体的に考えているでしょうか? 仮に考えていたとすれば、好むと好まざるとにかかわらず個体の所有権と飼育場所の分離という現実は不可避であることを認識していただくほうがよいように思います。 そうしませんと全国レベルでのホッキョクグマの繁殖につながっていかないだろうと思われます。
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クルミ (2014年1月25日撮影 於 男鹿水族館)

(過去関連投稿)
ウスラーダお母さんの2頭の子供たちとの別れ
オーストラリア・ゴールドコースト、シーワールドのホッキョクグマたち ~ 繁殖への期待、豪太との関係
by polarbearmaniac | 2014-01-27 23:45 | Polarbearology

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