街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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札幌・円山動物園のマルルが熊本、ポロロが徳島の動物園に移動が決定 ~ ララの2年サイクル繁殖が継続へ

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マルル(左)とポロロ(右) (2014年1月18日撮影 於 円山動物園)

札幌市の円山動物園が同園寄付会員向けの情報として明らかにしたところによりますと、同園で一昨年2012年12月8日にララから誕生したマルルとポロロの双子姉妹が同園から移動になるとのことです。 移動先はマルルが熊本市動植物園、ポロロがとくしま動物園とのことです。 (*追記 - 1月30日午前段階では同園は正式発表は行っていませんので、以下に現時点における限定的ソースをご紹介しておきます。)

(追記2 - 同園からの正式な告知がありました。 こちらです。)

物事は正しい順番で考えていかなくてはなりません。 この件について最も重要なことはマルルとポロロの移動先がどうのこうのよりも、「ホッキョクグマの繁殖サイクル」をいかに考え、そして実践に移すべきかという問題です。 順を追って考えていきましょう。

さて、これでララをこの2014年の繁殖シーズンにおいて繁殖に挑戦させるという円山動物園の方針が事実上確定したことになります。 つまり今までやってきたようなララの2年サイクルの繁殖を次も続けるということを意味します。この判断の過程において「飼育下においてホッキョクグマを何年サイクルで繁殖させるべきか?」 という問題意識があったようには思われず、あたかも2年サイクルが当然であるのだという前例に固執しただけの結果であるように考えます。 この考え方については「『 ホッキョクグマ飼育マニュアル(Care Manual)』 よりの考察(11) ~ 母子をいつ引き離すか」という投稿において、この認識はあくまで「例外」であることを指摘したつもりです。 2年サイクルを継続するという理由を敢えて求めれば、それはすなわち、日本の動物園においてはホッキョクグマの頭数が減少する傾向にあるためそれに歯止めをかけたいという意思であると通常は理解してよいでしょう。次世代の頭数の減少抑止に貢献できるホッキョクグマは日本ではデナリ(そしてララ)しか現在は見当たらないというわけです。 しかしこれには強烈な副作用があるのはご承知の通りです。 つまり次世代の頭数は維持できても次々世代については「デナリの次世代への貢献」によって次々世代の繁殖上の組み合わせが狭められてしまうわけです。 言い方を変えれば、「デナリが働けば働くほど次世代は潤うが、次々世代においてはそれがむしろ自分で自分の首を絞める」ような副作用をもたらすわけです。 デナリに貢献してもらいつつ、かつ次々世代で自分の首を可能な限り絞めないようにするためには、デナリの血の入った子供たちの何頭かを同世代の別血統の幼年・若年個体と入れ替えることです。 「入れ替える」、すなわち交換については相手方が欧州であることは当然でしょう。 つまりデナリの子供を一頭でも多く増やすことは日本側の交換候補の頭数が増えることを意味します。 ところが実はここに盲点があるのです。

その盲点とは、欧州側にとってもデナリの子供をそう何頭も導入するわけにはいかないという事実です。 繁殖における血統面を考慮すれば多くて2頭だろうと思います。 そうなると、いくらデナリの健闘によって日本で幼年・若年個体の数が今以上に増えても、ある程度以上は欧州側にとってのメリットにはならないという事実に気が付かねばならないのです。 欧州側のメリットにならないことをやる(つまりどんどんデナリの子供を増やす)からには、それはすなわち現時点において2年繁殖サイクルを継続することの意義は、当初の意図はどうであれ「交換個体候補」が増えるということよりも、国内飼育頭数の減少を可能な限り食い止めようという目的に行くわけです。 ということはすなわち現状と、そしてこれからララが繁殖可能年齢上限まで産み続けるであろう個体の数を考えてみた時に、次々世代における繁殖面のより多くの苦闘を意味することになるということです。 頼みの綱である欧州とて、ララの子供たちを何頭も受け入れるわけにはいかないからです。 ということは、次の2014年の繁殖シーズンにまたララを繁殖に挑戦させる必然性はないということを意味します。 2015年のシーズンまで待つのが正しい選択でしょう。
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ポロロ(左)とマルル(右) (2014年1月18日撮影 於 円山動物園) 

円山動物園がこの期に及んでも従来の繁殖の2年サイクルを墨守するならば、同園は海外(欧州)との個体交換に不退転の決意で臨む必要があるといえるでしょう。 それならば、いっそのこと年内にアイラ、マルル、ポロロのうち二頭を相手方からの交換個体の来日なしに先行して欧州に出すべきでしょう。 そして円山動物園に基準をクリアした「新ホッキョクグマ飼育展示場」 が完成したあかつきに、欧州からの「見返り」の個体を入れるというように現時点で交渉してみるべきでしょう。 つまりこのことは、熊本や徳島と言った場所を欧州の都市に入れ替えるということを意味するわけです。 そのほうが新ホッキョクグマ飼育展示場」完成までララの子供たちを国内で「塩漬け」にするよりもよほど現実的です。 仮に先にこの選択をしていたならば、ララとマルル・ポロロの二年目の同居をとりあえず開始しておき、早速今から欧州側と交渉を開始するという方法があったわけです。 この場合は、札幌(または帯広)からララの子供たちを海外に送り出せばよく、熊本や徳島をワンタッチすることなど不要だったわけです。 とにかく円山動物園は一日も早くララの子供たちのうち2頭を欧州に送り出すべきでしょう。 
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マルル(左)とポロロ(右) (2014年1月18日撮影 於 円山動物園) 

次にこの移動先についてですが、いくつか大きな問題点があります。 移動先に関するならば私は以前「忍び寄る冬の気配、月曜日のホッキョクグマたちの姿 ~ マルルとポロロ、ララとルルの双子姉妹の性格差」という投稿でこの熊本と徳島の名前を挙げたことがあります。 その投稿に際には「それは現実的ではないと思われる。」 という一言で切って捨てていたわけです。 何故そうしたかと言えば、それは現時点でそこまで気候環境の異なる場所に移動させてまで2年繁殖サイクルを維持する必要はないだろうという考えからでした。 所詮「例外」に過ぎない「2年繁殖サイクル」には、そうしてまで維持しなければならない妥当性・合理性はないと考えていたからです。 そして現在もそう考えています。 熊本や徳島の動物園は、万が一にも間違っても「ホッキョクグマの不在が解決された。」 などと単純に思わない方がよいでしょう。 この移動はあくまで日本のホッキョクグマ界における繁殖に関連した移動であり、単なる一時避難場所として選ばれたということにすぎないわけです。 彼女たちが熊本や徳島での飼育が長くなればなるほど、それはすなわち日本のホッキョクグマ界がさらに追い込まれていっていることを意味するということを理解する必要があるわけです。 熊本も徳島も夏の暑さは厳しいです。 キロルのいる浜松以上です。 私は、熊本や徳島は釧路のユキオの移動先となるだろうと考えていたわけでした。 特に徳島の環境はホッキョクグマが余生を送るには適していると思いますし、今まで本州で夏の暑さに適応してきたユキオのとっては悪くない落ち着き先だろうと考えていました。
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ラヌア動物園におけるヴィーナスとヴァレスカ(現ブレーマーハーフェン臨海動物園)の双子姉妹と雄のマナッセ(手前)
Photo(C)Iltalehti/ILKKA KOSKINEN

しかし今回の決定で非常に残念なことがあります。 それは雌の双子を現段階で引き離してしまうことです。 実に馬鹿なことをしたものです。 実はこれは、彼女たちが日本に留まるにせよ欧州に行くにせよ、彼女たちの将来の繁殖にとってはマイナスの要因になります。 彼女たちは繁殖可能となるまで5年ほど一緒にしておくべきなのです。最近数回このことに触れていますが、大々的にその過去の欧州や北米での具体例をご紹介する投稿を行いたいと思っていたところでした。 エサクバク(現・サンフェリシアン原生動物園)とフリーマス(現オランダ・「動物帝国」)の例を見て下さい。 ヴィーナス(現ラヌア動物園) とヴァレスカ(現ブレーマーハーフェン臨海動物園)の例を見て下さい。 それからこれは繁殖に挑戦したばかりですがアナーナとオーロラ(現アメリカ・コロンバス動物園)、そしてさらにオーロラとニキータ(現カナダ・トロント動物園)の例を見て下さい。 実は雌の双子というのは飼育下では数が少ないのです。 こういった雌の双子は雄の場合と異なり、離さないで育てておくのが繁殖に有利なのです。 一方で、ルルとララの例を見て下さい。 この双子は互いに生後約1年半で別れています。 その結果はどうでしょうか? ルルはララが去った後さらに一年、つまり生後2年半までクーニャお母さんと一緒に暮らしています。 母親と長く暮らした方が繁殖に有利だなどというのは雌の双子には当てはまらないようです。 こうやってルルとララは生後一年半で別れたわけですが、このことがララではなくルルに何らかの影響を与えたであろうことは想像に難くないわけです。 雌の双子の場合はどれだけ母親と一緒に長く暮らしたかではなく、どれだけ双子が一緒に暮らせたかがポイントであるということが世界にも数が多くない雌の双子の数少ない例でも言えるわけです。 雌の双子の場合は、母親と一緒に2年暮らさせ、そしてその後に母親と離したにせよ数年は一緒に飼育しておくのが繁殖には有利に働くことを強く示唆する事例だと言えましょう。 欧米ではそういう考え方なのでしょう、こうして双子姉妹はずっと可能な限り離さなかったということです。 こういったことは本やマニュアルに書いてあることではなく、ましてや統計その他の数字に裏書きされたものというよりは、飼育の実践を行う者において働かせねばならない、ある種の「実戦的な勘」なのです。
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ララ親子 (2014年1月19日撮影 於 円山動物園)  

円山動物園がララを従来通り2年サイクルの繁殖を継続しようとしたことは、日本のホッキョクグマ界の事情を考えれば賛成はしないものの一定の理解はできると言えます。 そしてそのために、熊本や徳島といったホッキョクグマが暮らすには明らかに適さない場所にすら双子の受け入れ先を確保したというのも、賛成はしないものの理解はできます。 しかしこの雌の双子を離すことにだけはどうやっても賛成も理解もできないということです。 これによって今回の件は「大減点」だと言えましょう。 同園の行った諸々の努力には敬意を表しますが、今回の件についての最終的な「収支計算」では、やはり大きなマイナスという評価が私個人の意見としての結論です。

(*追記資料)
札幌市・円山動物園 (Jan.30 2014 - ホッキョクグマ「ポロロ」と「マルル」を送る会を開催します)

(過去関連投稿)
忍び寄る冬の気配、月曜日のホッキョクグマたちの姿 ~ マルルとポロロ、ララとルルの双子姉妹の性格差
「ホッキョクグマ飼育マニュアル(Care Manual)」よりの考察(11) ~ 母子をいつ引き離すか
by polarbearmaniac | 2014-01-29 20:00 | Polarbearology

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