街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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アルゼンチン・メンドーサ動物園のアルトゥーロのカナダ移送が不可能となる ~ “The case is closed.”

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アルトゥーロ Photo(C)AFP

南米アルゼンチンのメンドーサ市にある動物園で飼育されている28歳の雄のホッキョクグマであるアルトゥーロ (Arturo) については地元の動物保護活動家グループを中心に、彼を夏の温度が高いにもかかわらずメンドーサ動物園の飼育環境が不十分であることを理由に挙げて、移送費用の負担と受け入れを申し出ていたカナダ・マニトバ州ウィニペグのアシニボイン公園動物園に移すことを求める運動を行っており、アシニボイン公園動物園もアルトゥーロの受け入れのためにアルゼンチン側の関係者と連絡を取って動き出した件については過去に何回か投稿しています(過去関連投稿参照)。 まず、メンドーサ動物園でのアルトゥーロの姿を再度また見てみましょう。



カナダ在住のアルゼンチン出身の一人の女性の呼びかけから始まったこのアルトゥーロのカナダ移送問題についてカナダ放送協会 (CBC) のニュース映像を2つご紹介していくことにします。





実はこのニュースはアルゼンチンではその経緯が遂次かなり報道されてきたわけですが、それらの多くは動物保護活動家グループの主張にかなり好意的な視点からなされているわけで、果たしてそのそれぞれの報道 (特にアルゼンチンの社会開発環境相の発言内容の微妙な変化の一つ一つにそれぞれ反応する報道) がこの問題の全体にいかほどの重要性があるかも見極めることは必ずしも簡単ではありません。 ましてや動物保護活動家グループというのは、かなりバイアスのかかった見方と意見を主張するわけで、その主張に引きずられてはならないということです。 特に最近ではあの急進的な環境保護活動団体である Greenpeace すら登場するようになったとあっては、ここでそれらのこれまでの報道を遂次ご紹介するのは適当ではないと私は考えていましたが、このアルトゥーロがカナダに移動できるかなりの見通しがついてきたところまで状況は進展していたというのも事実ではあるようにも思えました。 ところが今回のカナダ側からの報道はこの問題の推移に決定的な影響をもたらすものですので是非ご紹介しておかねばと考えます。
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アルトゥーロ Photo(C)AFP

カナダのアシニボイン公園動物園の最高執行責任者であるピーターキン氏が一昨日報道機関に発表したところによりますと、このアルゼンチン・メンドーサ動物園のアルトゥーロをカナダに受け入れるためのカナダ側の「輸入許可 (Import Permit)」 が得られる見通しが立たないことを明らかにしました。 今回のアシニボイン公園動物園のアルトゥー受け入れの件についてアシニボイン公園動物園はこれを断念する旨の意向のようで、「本件は終了した (The case is closed.) 」 ということだそうです。

この「輸入許可」が何故得られる見通しがないのかということですがピーターキン氏によれば、それはカナダの「輸入許可 (Import Permit)」 を得る際にカナダ食糧検査機関 (Canadian Food Inspection Agency) が要求する、少なくとも過去3年簡の健康記録 (Medical Record) の提出が必要であるとのことで、メンドーサ動物園にはそういった健康記録文書はなく、そうなるとアルトゥーロをカナダ国内へ入れるための「輸入許可 (Import Permit)」 を得ることができないということだそうです。

さて、こういう事実が判明したわけでアシニボイン公園動物園はもうお手上げということのようですが、これが本当に事実であるのかどうか私はカナダ食糧検査機関 (Canadian Food Inspection Agency) のHP で調べてみました。 まずこの ”Terrestrial Animal Health – Imports” のページから入るのですが、このページで Policies の” Import Policies - Live Animals“ をクリックします。 そうするとこの “Import Policies - Live Animals” のページが開きます。 そこでカナダが動物一般の中でもホッキョクグマを輸入する場合の必要書類を調べるために、”Automated Import Reference System (AIRS)” というのをクリックしますとこのページが現れます。 さらに、” Automated Import Reference System (AIRS) [opens in new window]” をクリックしますとこの “Import Requirements” のページが現れます。 そこに Polar Bears と入力して検索をかけます。 現れたページで View をクリックします。 そして現れたページで “Please select Origin Level 1. ” とある部分でこのアルトゥーロは南米からの輸入ですので、”South America” を選択します。 Go をクリックして開いたページの ” Please select Origin Level 2. ” で今度は国名を選択しますが、当然アルゼンチン (Argentina) を選択してGo をクリックし、現れたページで今度は “Please select an End Use.” と、その輸入目的を聞いてきますので ”Display in a zoo” を選択してGoをクリックします。 こうして現れたページはまさに、「ホッキョクグマ」を「南米」の「アルゼンチン」から「動物園での展示」目的で輸入する場合に必要な要件が現れてくるということです。 つまり整理するとこういカテゴリーでの要件ということになります。

HS Description : 010619
01Live animals 06Other live animals 19Other mammals
OGD Extension : 207801 2078Bears 01Polar bears
Origin : AR
SASouth America (includes Central America)ARArgentina
End Use : 41
41Display in a zoo


このCertification の記述のうちで、その該当の動物、すなわちホッキョクグマが当該輸入のために仕出国を出発する時点からさかのぼってどれだけの期間、病気がなかったかを証明する Certificate (証明書)についての記載があります。 そうすると、結核 (tuberculosis) についてこういう記載があります。コピーします。

The animal(s) or donor animal(s) must originate from a premises certified free from tuberculosis as follows:

1)The premises of origin has been free from any clinical, microbiological, pathological, or epidemiological evidence of tuberculosis (Mycobacterium bovis) for the thirty-six (36) months immediately prior to movement of the animal(s) off the premises or collection.


なるほど、(36) months 、つまり3年間ということですね。 つまり「ホッキョクグマをアルゼンチンからカナダへ動物園での展示を目的として輸入する場合は、過去36ヶ月、つまり3年簡の健康記録 (Medical Record) が必要であるというのは正しいことが確認できました。

それにしても私のような日本人が日本にいて机の上のPCで調べられるようなカナダのホッキョクグマ輸入のための必要要件を、何故自国カナダのアシニボイン公園動物園が今まで気が付かなかったのでしょうか。 カナダの動物園はホッキョクグマを全て自国内の野生出身個体から調達してきたわけで、今回のようにまさかホッキョクグマを国内に入れる(輸入する)ような事態を想定していなかったということでしょう。 こういう過去3年簡の健康記録 (Medical Record) が必要なことがわかっていればアシニボイン公園動物園は昨年春の段階でメンドーサ動物園に健康記録の存在の有無を聞いておかねばならなかったわけです。 一年近くもああだこうだとアルゼンチン政府やメンドーサ動物園といろいろなやりとりをしていたことは、全く無駄であったということになります。 そうは言うもののアシニボイン公園動物園はメンドーサ動物園に対して獣医チームを送ってアルトゥーロの健康チェックや飼育環境改善のアドバイスを行うなど引き続き援助したいとの意向です。
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メンドーサ動物園でのアルトゥーロ Photo(C)AFP

要するにこの問題ですが、一般論としてはホッキョクグマが暮らすのに気候環境が優れているカナダのマニトバ州の動物園に南米のホッキョクグマを移動させるということは、カナダ側が輸送費用を負担する意向であり、そしてメンドーサ動物園がそれを了解すれば、この移送は歓迎してよいことだと言えるでしょう。 つまり言い方を変えれば、日本中のホッキョクグマにとっては日本で暮らすよりもカナダのマニトバ州のほうが気候的が適しているから、彼らを全頭カナダに送ってしまう(しかも費用はカナダ負担で)とすれば、彼らにとっては日本にいるよりも快適に感じるだろうということが一般論の領域だけに関するならば言えるだろうということと何ら変わりはありません。 しかし今回の件は、本来はまずメンドーサ動物園に対して飼育環境のより一層の向上を要求すべき話であって、全てをカナダに移動ありきで運動したことに大きな問題があるわけです。 私はメンドーサ動物園の飼育環境がそれほど悪いのかを映像だけで断言することはそう簡単ではないように思っています。 そしてメンドーサ動物園は、その程度は別としても一応は飼育環境の向上を図ってきたという事実はあるわけです。 ならばメンドーサ動物園にさらなる環境整備を求めていくのが筋でしょう。 「可哀想だ」 が先に立つ運動はいろいろなことを見えなくしてしまう危険性があるということです。

(資料)
Winnipeg Sun (Feb.4 2014 - Argentinian polar bear could be Winnipeg bound)
Le Nouvel Observateur (Feb. 6 2014 - Arturo, ours polaire argentin déprimé, lorgne vers le Canada)
Diario El País (Feb.6 2014 - Arturo, de Argentina a Canadá)
CBC (Sep.24 2013 - Argentinian polar bear might be moved to Winnipeg)
CBC (Feb.5 2014 - Argentinian polar bear not coming to Winnipeg)
Winnipeg Free Press (Feb.5 2014 - Zoo blocked from saving Argentine polar bear)
Winnipeg Sun (Feb.5 2014 - Arturo the polar bear stuck in Argentina)
ChrisD.ca (Feb.5 2014 - Argentinian Polar Bear No Longer Destined for Winnipeg)
MetroNews Canada (Fab.5 2014 - Argentinian polar bear can’t come to Canada: Assiniboine Park Zoo)
カナダ食糧検査機関 (Canadian Food Inspection Agency) - Import Policies - Live Animals
カナダ国境サービス庁 (Canada Boarder Service Agency)
カナダ・輸出入許可法 (Export and Import Permits Act

(過去関連投稿)
南米アルゼンチン・メンドーサ動物園のペルサ逝く
アルゼンチン・ブエノスアイレス動物園のウィネル、真夏の気温上昇による高熱症で亡くなる
南米アルゼンチン・メンドーサ動物園のアルトゥーロ ~ 同国唯一となったホッキョクグマの健康への配慮
カナダ・アシニボイン公園動物園がアルゼンチン・メンドーサ動物園のアルトゥーロを引き取る交渉を開始
アルゼンチン・メンドーサ動物園がアルトゥーロの引き取りについてのカナダ側の申し出を断る
アルゼンチン・メンドーサ動物園のアルトゥーロのカナダ移送に現実味 ~ カナダ側の獣医チーム受け入れ
by polarbearmaniac | 2014-02-07 01:00 | Polarbearology

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