街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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カナダ・トロント動物園の赤ちゃんの命名候補の一つに対してイヌイットから疑問の声上がる

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Photo(C)Caters News Agency

カナダのトロント動物園で昨年11月に誕生して人工哺育で育てられた雄の赤ちゃんのレミーが一般公開され、正式名称の命名のために6つほどの候補からのネット投票が行われていることはすでにご紹介しています。 候補名はハンフリー (Humphrey) 、オーソン (Orson) 、シーリク (Searik) 、スターリング (Stirling) 、ロレク (Lorek) 、ジェームズ (James) といったところです。 ホッキョクグマにイヌイット語の名前を付けるというのは欧米やロシアの動物園ではよくあるケースであり、たとえば「シークー (Siku)」、「ナヌーク (Nanuq)」、「カニック (Qannik)」 などはその典型です。 こうしたわけで今回トロント動物園が候補として挙げた名前の中では、「シーリク (Searik)」 がイヌイット語であるとトロント動物園では注釈を入れています。

だて、ところがこの「シーリク (美しい)」 はイヌイット語ではないのではないかという疑問を発したのはカナダ北東部ヌナブト準州の副総督格(Commissioner) だったイヌイットのイルニク氏でした。 イルニク氏は同じイヌイットの友人たちにも聞いたそうですが、誰もこの「シーリク (美しい)」 というイヌイット語は聞いたことがないそうで、さらにグリーンランドで話されるイヌイット語と同系の言語にも存在していないらしいようです。 似たような音の語として、食事の前に感謝をあらわす表現として「シリク (Sirik)」 という言い方があることを何人かのイヌイットは指摘し、この言い方が間違って「美しい」 という意味に理解されたのだろうという考え方も有力なようです。 トロント動物園はイヌイット系のマスコミの問い合わせに対して、最初には意味は正確であることは確認できていると言う返事だったそうですが、その後になってこの候補名の「シーリク (Searik)」 から「美しい」という意味の注釈を削除することにしたという返答があったそうです。
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Photo(C)Caters News Agency

まあこういうことは有り得る話でしょう。 イヌイット語というのは北アメリカ極北部のグリーンランド、カナダ、アラスカ等に住むエスキモー系民族が使用している言語ですが、エスキモー・アレウト語族に属し、大きくはアメリカ・インディアン諸語という言語グループの一つだそうです。 私の家は多くの言語の文法書や辞書で溢れかえっていますが、このイヌイット語に関する本や辞書は一冊もありません。 私にとっては全く関心のない言語だったからです。 だから大きなことは言えませんが、「シーリク」 という語はイヌイット以外の人間にとってはイヌイットの文化を表象している語であると理解すれば (事実イヌイット以外にはそう認識されているのでしょう)、実際にこの「シーリク」がイヌイット語であろうがなかろうが、また実際に「美しい」という意味であろうがなかろうが、あまり関係のないことではないでしょうか。 作曲家ドヴォジャークの作品のひとくさりを耳にしてチェコの風土を思い出すということと同じで、その旋律が実際にボヘミア民謡に由来しているかどうかなどはあまり関係がないことと同じでしょう。 重要なことは、そういった単語なり旋律が何かを表象しているかどうかということです。

さて、先週末から一般公開が始まったこの雄の赤ちゃんですが、また一つその一般公開開始日の映像をご紹介しておきます。 この赤ちゃんの父親であるイヌクシュクがコクレーンのホッキョクグマ保護教育文化村からまたトロント動物園に最近戻っており、オーロラとニキータの双子姉妹との間での繁殖を目指すシーンも見ることができます。 冒頭はCMです。


イヌクシュクという偉大な雄一頭、そして相対するのは雌の双子です。 このオーロラとニキータは13歳の野生出身ですが、この年齢でも雌の双子を引き離していないわけで、トロント動物園も足が地に着いているようです。

(資料)
Nunatsiaq News (Feb.14 2014 - Inuktitut speakers question polar bear cub’s “Inuit” name) (Feb.18 2014 - Toronto Zoo removes “Searik” from polar bear name contest)
BBC (Feb. 17 2014 - Canada: Mysterious origins for baby polar bear's name)
City News Toronto (Feb.17 2013 - Many visit baby polar bear on Family Day)
Daily Mail (Feb.18 2014 - Cute moment polar bear cub tumbles over snow hills to greet public for the first time at Toronto Zoo)

(過去関連投稿)
カナダ・トロント動物園でホッキョクグマの三つ子の赤ちゃん誕生! ~ 2頭は死亡するも1頭が生存
カナダ・トロント動物園で誕生し人工哺育で育てられている雄の赤ちゃんの近況 ~ 「レミー」 と命名
カナダ・トロント動物園で人工哺育で育てられている雄の赤ちゃんレミーの生後三週間後の映像が公開
カナダ・トロント動物園で誕生し、人工哺育となった雄の赤ちゃんのレミーが生後2か月となる
カナダ・トロント動物園での人工哺育の雄の赤ちゃんのレミーが初入浴
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カナダ・トロント動物園で誕生し人工哺育で育てられている雄の赤ちゃんレミーは生後11週間が経過
カナダ・トロント動物園、人工哺育の赤ちゃんレミーの一般公開開始予告と正式名称の募集を発表
カナダ・トロント動物園で人工哺育の赤ちゃんのレミー、一般公開となる
by polarbearmaniac | 2014-02-19 01:30 | Polarbearology

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