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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

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南アフリカ・ヨハネスブルグ動物園のポロの不幸な幼年時代 ~ シロお母さん、そして栄子さんの時代

南アフリカ・ヨハネスブルグ動物園のポロの不幸な幼年時代 ~ シロお母さん、そして栄子さんの時代_a0151913_225191.jpg
ポロ (現地名ではワン - Wang) 
Photo(C)xfactorbrands.blogpost.com

札幌の円山動物園の4月1日付けの発表によりますと、同園で長く親しまれてきたエゾヒグマ (Ursus arctos yesoensis) の栄子さんが安楽死の処置にて41歳で亡くなったそうです。 「3月31日に安楽死」 というこの日付に私は少々複雑な気持ちをおぼえつつも、栄子さんの病状が極めて悪化していたというのは事実に違いなく、謹んで哀悼の意を表します。
南アフリカ・ヨハネスブルグ動物園のポロの不幸な幼年時代 ~ シロお母さん、そして栄子さんの時代_a0151913_2561871.jpg
故・栄子さん Photo(C)円山動物園

さて、札幌在住のブロガーさんがこの栄子さんの繁殖記録を詳しく記事に記載していらっしゃいます。 それを拝見しますと、栄子さんは1981年1月から1996年まで、1994年を例外として毎年出産して生涯で36頭の子供を産んだことになっています。 さて、これからが本投稿で問題の現在南アフリカのヨハネスブルグ動物園に暮らしている円山動物園生まれの28歳の雄のホッキョクグマであるポロ(現地名 ワン - Wang) についてです。

前回、「南アフリカ・ヨハネスブルグ動物園のポロ (札幌・円山動物園生まれ) の近況 ~ 単独展示だった幼少期」という投稿でご紹介しましたが、同園でのポロの幼少期は単独展示であったことを、当時を知る地元のファンの方の証言で知ったわけです。 ポロは人工哺育ではなかったにもかかわらず、何故彼はシロお母さんと一緒に展示されなかったかが問題です。 その方の証言を聞いた時にそれを説明する一つの仮説はすぐに私の頭に浮かんだのですが、そうだと断言するデータに欠けていたわけです。 ここで当時同園で飼育されていたホッキョクグマのシロお母さん (1970年生まれ - 個体番号219) の円山動物園での出産記録 をドイツ(ロストック動物園)側に存在する資料 (つまりロストック動物園が円山動物園から得た情報ということになるでしょう) から得た情報に基づいて以下に記載しておきます。

・1981年12月15日出産(一頭)、その後死亡(死亡日不明)
・1982年12月22日出産(二頭)、その後死亡(死亡日不明)
・1983年12月16日出産(二頭)、その後死亡(死亡日不明)
・1984年12月12日出産(一頭)、その後死亡(死亡日不明)

・1985年12月21日出産(一頭)、その後成育(これがポロ)
・1986年12月28日出産(一頭)、その後死亡(死亡日不明)
・1988年12月16日出産(一頭)、その後死亡(死亡日不明)


さて、上のシロお母さんの出産記録を御覧頂くと何故ポロがシロお母さんから引き離されて単独展示されていたかの理由は一目瞭然かと思われます。 1985年12月21日にポロを産んだシロお母さんは産室内でポロに順調に授乳を行ったわけでした。 その産室内でのシロお母さんと息子のポロの写真を以前同園に勤務していらっしゃった樋泉さんのブログのこのページで再度ご覧下さい。 ところが円山動物園はシロお母さんがポロを出産した翌年の1986年にも雄のポールとの間でのさらなる繁殖を狙ったわけです。 ホッキョクグマの赤ちゃんは通常は生後3か月から100日ほどでお母さんと一緒に産室から出るわけです。 マルルもポロロもそうした時期に一般公開されたわけです。 ところがこのポロは、そういった生後3か月から100日ほどの1986年の春の時期にシロお母さんと一緒に戸外に出るどころか、逆にシロお母さんから引き離されてしまったことに間違いないと思われます。 何故ならシロお母さんはその年1986年の春にさらに繁殖に挑戦させられ、早速雄のポールとの同居が春から開始されたに間違いないからです。 そして繁殖行為があったからこそシロお母さんはポロを産んだ1年後の1986年12月28日に赤ちゃん一頭を出産したわけです。 しかし残念なことにその後に赤ちゃんは死亡したわけでした。 シロお母さんのその出産の10日ほど前の1986年12月18日にポロは札幌に別れを告げて遠い南アフリカに旅立っていたというわけです。
南アフリカ・ヨハネスブルグ動物園のポロの不幸な幼年時代 ~ シロお母さん、そして栄子さんの時代_a0151913_2303826.jpg
ポロ Photo(C)Johannesburg Zoo

当時の円山動物園でホッキョクグマの幼年個体が単独展示されていたのを目撃された地元の方の証言は記憶の間違いなどではなく、まさに事実であるということを上のデータは見事に示しているわけです。 同園で初めてホッキョクグマの自然繁殖に成功したにもかかわらず、その赤ちゃんを生後三か月ほどで母親から引き離し、そしてその直後にその母親を間髪入れず雄と同居させて繁殖行為を促し、そしてその年の暮れの出産を狙うなどというのは今の感覚で言えば狂気の沙汰だと言えましょう。 今でこそホッキョクグマの繁殖に実績を有している円山動物園ですが、1980年代ではホッキョクグマの繁殖、そして動物福祉 (Animal welfare) に関してはまだそんな程度の認識だったということになります。 私は今更、同園を批判する気などは毛頭ありません。 日本の動物園の1980年代はまだそういう時代だったということです。 しかし、生後三か月ほどの親子の強制的な別れに必死になって扉を叩いて抵抗したであろうシロお母さんや、泣き叫んだであろうポロのことを思うと心の底から彼らに深く同情せざるを得ません。

さて、1986年に同園内で単独飼育されていた一歳にもならないポロの姿を目撃されたその地元の方は、確かその時にポロはヒグマの幼年個体と隣り合わせの場所にいたとおっしゃっていたように私は記憶しています。 ポロの隣の檻の中にいたその(エゾ)ヒグマの幼年個体、これこそまさに今回亡くなった栄子さんが1986年1月27日に産んだ子供であったに違いありません。 栄子さんも毎年のように出産していたわけで、このエゾヒグマの栄子さんとホッキョクグマのシロお母さんは円山動物園で共に1981年から繁殖を担わされていたわけで、まさに同時代の雌熊同士だったというわけです。 野生のヒグマの赤ちゃんがどれだけ母親と一緒に暮らすかを調べてみましたら Wikipedia では以下のように記述しています。

“Cubs remain with their mother from two to four years
(exceptionally to 4 and a half years), during which time they
learn survival techniques, such as which foods have the
highest nutritional value and where to obtain them; how to
hunt, fish, and defend themselves; and where to den.”


ホッキョクグマよりもその期間は若干長いようです。 しかし栄子さんは毎年出産していたわけで、要するに栄子さんのケースも無理やり子供を栄子さんから引き離して栄子さんを毎年繁殖させたということを意味しています。 (エゾ)ヒグマもホッキョクグマも、要するに毎年繁殖させるのだという同園の方針だったということになります。  2年サイクルですら極めて疑問が大きく、3年サイクルを繁殖の基本としている近年の欧米のホッキョクグマの繁殖ですから、少なくとも(エゾ)ヒグマで1年サイクルの繁殖というのも動物福祉 (Animal welfare)上、極めて大きな問題に違いありません。 そういった動物学の知識を背景としていなかったのが当時の日本の動物園だったわけです。 そして、シロお母さんと栄子さんは、そういった時代を共に生きたクマだったということなのです。 再度繰り返しますが私は今になって当時の円山動物園を非難する気は毛頭ありません。 当時はそういう時代だったということです。 しかし、シロお母さんとポロ、そして栄子さんの不幸は記憶しておかねばならないだろうと考えます。

これはやや飛躍した考え方ですが、このポロが26年も連れ添ったパートナーのギービーの死に関してこれだけ落胆していることが報じられる理由は、彼が札幌でまだ別れなくともよい時期に無理やり母親と引き離されたために、南アフリカでその後ずっと一緒だったパートナーのギービーに格別の思い入れがあったからではないかと私は考えたくなるのです。
南アフリカ・ヨハネスブルグ動物園のポロの不幸な幼年時代 ~ シロお母さん、そして栄子さんの時代_a0151913_2351499.jpg
ポロ(左)と故ギービー(右)  Photo(C)Johannesburg Zoo

(*追記 - ポロはシロお母さんから見えない場所にいたにせよ同一敷地内のそれほど遠くない場所にいたわけで、ホッキョクグマの嗅覚ならばシロお母さんはポロの存在を嗅覚で認識できたでしょう。 それにもかかわらずシロお母さんは発情してポールとの間の繁殖行為に至ったわけです。 それだからこそその年の1986年12月に出産したわけです。 それを考えると、マルルとポロロを同園内に留めて飼育し続けてもララの今年の繁殖挑戦は可能であるはずだという考え方は当然有り得たでしょう。 そう考え得るもう一つの根拠は、ピリカが現在キャンディの飼育されている場所にいたときに、ララお母さんはピリカが自分の娘であることを認識していたことは以前に投稿したことがあります。 にもかかわらず、ララはそういった環境でデナリと繁殖行為に至ってアイラが誕生したわけです。 ならば、「世界の熊館」の端と端にララとマルル、ポロロを分けてしまえばララの今年の繁殖挑戦もやはり可能だったと考えることは一応は言えたかもしれません。 ただしかしこれは、ララお母さんの性格を考えると難しい可能性があったと思われます。 こういったことの全ては仮定の話にならざるを得ませんが、やはりリスクは大きかったように思います。)

(資料)
札幌市・円山動物園 (Apr. 1 2014 - エゾヒグマの「栄子」が亡くなりました
札幌・円山動物園 「双子の白クマ赤ちゃん通信
(Mar. 3 2010 - 「誰?」  「きっとまた会える」
CNN (Mar. 21 2014 - Wang, Africa's last polar bear, heartbroken over death of companion)
eNews Channel Africa (Jan.15 2014 - Joburg zoo's only surviving polar bear in mourning)

(過去関連投稿)
1985年に札幌で生まれたホッキョクグマの消息
南アフリカで今も元気に暮らす札幌生まれのホッキョクグマ
1985年札幌・円山動物園生まれのポロの南アフリカでの近況 ~ 樋泉さんのブログの記録的価値
南アフリカ・ヨハネスブルグ動物園のギービー逝く ~ 円山動物園生まれのポロ(ワン)のパートナーの死
南アフリカ・ヨハネスブルグ動物園のポロ (札幌・円山動物園生まれ)、パートナーの死への悲嘆
南アフリカ・ヨハネスブルグ動物園のポロ (札幌・円山動物園生まれ) にバレンタインデーのプレゼント
南アフリカ・ヨハネスブルグ動物園のポロ (札幌・円山動物園生まれ) の近況 ~ 単独展示だった幼少期
by polarbearmaniac | 2014-04-03 03:00 | Polarbearology

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