街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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「雪男(イエティ)」と古ホッキョクグマの関連、及び「雪男」 の存在自体も科学的根拠無しと判明

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ミルク (2013年7月27日撮影 於 男鹿水族館)

昨年10月に「『雪男(イエティ)』「」 の祖先はホッキョクグマなのか? ~ 完全に一致した両者の遺伝子配列に深まる謎」 という投稿をしていますが,その中で「雪男 (Abominable Snowman / Yeti)」 のものといわれている体毛のDNAの塩基配列を調べてみた結果、ノルウェーのスヴァールバル諸島で発見された約11万5千年前のホッキョクグマのあごの骨のものと100%完全に一致したというオックスフォード大学分子医学研究所の遺伝学教授であるブライアン・サイクス氏の発言についてご紹介し、「雪男(イエティ)」は遺伝的にはホッキョクグマと深い関係があるという可能性についても述べました。
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Photo(C)Getty Images

さて、ブライアン・サイクス教授をチームリーダーとする研究チームは実は2012年からこの「雪男(イエティ)」の正体について調査・研究を行っており世界各地で「雪男(イエティ)」のものだとして保存されていた36の体毛のサンプルのDNAの塩基配列の調査を行ったところ、それらはすでに存在している複数の動物のものと一致していることをイギリスの専門誌である Proceedings of the Royal Society Biological Science 誌に正式に発表しました(残念ながらネット上では一般には非公開扱いです)。 この調査・研究の過程のなかで2つのサンプルについて4万年前(ノルウェーの研究所によれば11万5千年前)のホッキョクグマの顎の骨から採取されたDNAの塩基配列が100%一致していたとサイクス教授が中間発表し、それが昨年秋にマスコミに大きく取り上げられイギリスのChannel-4 が三部構成のドキュメンタリー番組を放送したというわけでした。 そして今回の正式な最終報告でも中間発表における「「雪男(イエティ)」は遺伝子的には古ホッキョクグマと一致している」という報告の結論が維持されていたわけです。

この「雪男(イエティ)」と4万年前(ノルウェーの研究所によれば11万5千年前)のホッキョクグマのDNAの塩基配列が完全に一致しているというサイクス教授の報告に、中間発表の段階ですでに疑問を抱いたのがアメリカのナショナルジオグラフィック誌とイギリスのガーディアン紙だったようです。 アメリカのナショナルジオグラフィック誌はこのサイクス教授の研究データをホッキョクグマの起源に関する研究では世界の第一人者でもあるアメリカ・バッファロー大学の分子生物学者であるシャーロッテ・リンドクヴィスト (Dr.Charlotte Lindqvist) 博士を含む二人の専門家に示して意見を聞いたところ、ミトコンドリアDNAの104の配列しか比較に使用されておらず、あまりに少なすぎてこれでは一致しているなどとは言い難いという意見が得られたそうです。 イギリスのガーディアン紙は別の専門家の意見を求めたところサイクス教授が一致していると主張しているDNAの塩基配列は4万年前(ノルウェーの研究所によれば11万5千年前)のホッキョクグマのDNAの塩基配列ではなく、現在のホッキョクグマのものであるという見解が得られたそうです。 つまりサイクス教授は怪しげなサンプルを用いて、しかも非常に不十分なデータしか抽出しなかったというだけでなく、それと比較しようとしたデータをも取り違えていたという複数の重大なミスを行って「雪男(イエティ)」 の祖先は古い時代のホッキョクグマと関連があると主張したことになるわけです。 つまり、サイクス教授は「雪男(イエティ)」の正体は本当は現在のホッキョクグマと関係のある未知の別種のクマであるという極めて小さい可能性を示すことができたにすぎないということだけだったわけです。 たとえ中間発表であったとはいえ、サイクス教授にとってはやや不注意な発表の結果になってしまったようです。 

さて、サイクス教授の研究報告にもかかわらずこういった両誌の裏付け取材によって「雪男(イエティ)」の祖先が古ホッキョクグマであることが成立し難いことが判明したと同時に、我々がイメージしていた「雪男(イエティ)」という未知の単独種の存在そのものについても根拠を失った、そう考えてよいでしょう。 我々が類人猿だろうと考えていた「雪男(イエティ)」という未知の種は存在しない...存在する僅かの可能性は我々にとっては未知なクマの一種であって、それはあくまでもクマであり 「雪男(イエティ)」という種ではない、それが現時点での科学が下した結論だということになります。 ともかく本件はこれでホッキョクグマ関連の話題ではなくなったということになりますので、これ以上は本件についての投稿はしない予定です。

(*追記 - 実は本件は日本時間の2日の午前から続々と欧米のマスコミが報道し始めたわけで、その多くの記事を読んでみましたがマスコミによって記事の内容にかなりのニュアンスの違いがあります。 そうした多くの記事のなかではやはり The Guardian、National Geographic、Science News、LiveScience などが本件の意味するところを正しく伝えているように思いましたので、それらの報道をもとに本投稿を行っています。 本件についていくつかのマスコミは、「雪男の正体はクマ」なのだというニュアンスで報道していますが、これはいささか本件の問題の本質の理解について正確さに欠けているように思います。 「雪男」 のものだと称する複数の体毛などのサンプルは全て既存の他の複数の異なる動物のものであったことがDNAの塩基配列の分析によって判明したことによって我々がイメージしていた「雪男」という単独種の存在が現時点では否定されたわけで、そのうち2つサンプルのDNA配列が古ホッキョクグマのDNA配列と一致したとサイクス教授が主張するものについては、それが古ホッキョクグマと関係があるかもしれない未知のクマである僅かな可能性が残るにすぎないのだという理解が正しいわけです。 ナショナルジオグラフィック誌とガーディアン紙はそもそもサイクス教授の研究の手法に懐疑的だったため他の専門家からの裏付けをとるという作業を行っており、また記事を書いているのは専門の科学ライターですので、他の報道よりも信頼性があると考えます。 いみじくもガーディアン紙の記事の見出し、” Abominable news: scientists rule out yetis” が本件の本質をよくとらえていると思います。)

(*追記2 - 本件を伝える ロイター電ですが、この記事は本件の本質を理解していない内容ですね。 いやはや、お粗末なものです。)

(資料)
Science News (Jul.1 2014 - Finally, some solid science on Bigfoot)
LiveScience.com (Jul.1 2014 - Sorry, That 'Bigfoot DNA' Came from a Raccoon)
National Geographic (Jul.1 2014 - Study Reveals Biological Identities of Bigfoot, Yeti, Bolstering Case Against Them)
The Guardian (Jul.1 2014 - DNA analysis reveals Bigfoot is a big fake)
The Guardian (Jul.2 2014 - Abominable news: scientists rule out yetis)
ABC News / AP (Jul.1 2014 - Bigfoot Hair Samples Mostly From Bears, Wolves)

(過去関連投稿)
「雪男 (イエティ)」 の祖先はホッキョクグマなのか? ~ 完全に一致した両者の遺伝子配列に深まる謎
ホッキョクグマの起源について(1) ~ 諸説の成立過程を整理する
ホッキョクグマの起源について(2) ~ ホッキョクグマ版 「イヴ仮説」 の登場
ホッキョクグマの起源について(3) ~ 画期的な新説が登場するも依然として残る謎
ホッキョクグマの起源について(4) ~ 衝撃的で強力な新説の登場により通説が遂に崩壊へ
ホッキョクグマの起源について(5) ~ ホッキョクグマとヒグマとの進化過程での交配を否定する新説登場
ホッキョクグマの起源について(6) ~ 「新・通説」の結論を否定した新説が登場し謎は再び深まる
by polarbearmaniac | 2014-07-02 16:00 | Polarbearology

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