街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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イギリス・ヨークシャー野生動物公園のヴィクトルは繁殖の舞台から「強制引退」 ~ 欧州の重大な転機

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ヴィクトル Photo(C)FAMEFLYNET/Daily Telegraph

オランダ・レネンのアウヴェハンス動物園のヴィクトルが無事にイギリスのサウス・ヨークシャー州のドンカスター市近くにあるヨークシャー野生動物公園 (Yorkshire Wildlife Park) に到着した件については、すでに先週投稿しています。 この今回の15歳のヴィクトルの移動についてですが以前に私はこれは繁殖の舞台からの「強制引退」ではないかという予想を書いたわけですが本日になって報じられたヨークシャー野生動物公園のコメントでは、やはりすでに10頭の子供がいるヴィクトルは欧州における繁殖計画から完全に引退して今後はこのヨークシャー野生動物公園で暮らすことが明らかにされました。 年内にあと二頭の雄のホッキョクグマも移動してくるそうです。 このヴィクトルが本日ヨークシャー野生動物公園の展示場に登場した様子を冒頭の写真をワンクリックしていただいて開いたページでご覧下さい。 (*注 - 映像がスタートしない場合は映像画面の右上の、通常は「閉じる」である x をクリックしていただくと映像が開始する場合があります。)

(*追記 - このヴィクトルのオランダ・レネンからの搬出とイギリス・ヨークシャー野生動物公園までの移動をまとめた映像がアップされていますので下にご紹介しておきます。 全体で約13分間あります。 なかなか興味深い映像です。)



やはりとうとう欧州ではどんどん増えてきた「ロストック系」に対する対策としてこれだけのことをやらねばならないという状態に至ったということですね。 ドイツのロストック動物園で父を故チャーチル、母をヴィエナとして1998年に誕生したこのヴィクトル、その彼の10頭の子供たちの今後の繁殖が問題であるだけでなく、ヴィクトルの姉妹である17歳の雌のヴィクトリア(デンマーク・オールボー動物園)、11歳の雌のヴィルマ(ドイツ・ロストック動物園)、9歳の雌のヴィーナス(フィンランド・ラヌア動物園)、9歳の雌のヴァレスカ(ドイツ・ブレーマーハーフェン臨海動物園)という雌たちもすでに見事に繁殖に成功しており、そして年齢的にもまだまだ若いためにこれからもさらに何度も繁殖に成功する確率は極めて高く、これはすなわち「ロストック系」の一族の勢力拡大が留まるところをしらないという状況となっています。 さらにヴィクトルは今春オランダのレネンでフリーダムとの間で繁殖行為が確認されており、そうなるとまた年末にはフリーダムにも出産がある確率は極めて高いことになるでしょう。 こうして考えればヴィクトルはまだ15歳ですが欧州における繁殖計画の舞台からの「強制引退」はやはり止むを得ない措置であるようにも思われます。 とうとう欧州では血統の多様性の維持を目的とした「強制引退」という、今までではほとんど想定されていなかった「一線を越える」ことが現実のものとなったわけでEEPの大きな転換点に差し掛かったと考えてよいでしょう。
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ヨークシャー野生動物公園の飼育場に登場したヴィクトル
Photo(C)FAMEFLYNET/Daily Mail

近年において世界の飼育下における成年・若年・幼年個体の血統は、欧州のこの「ロストック系」とロシアの「アンデルマ/ウスラーダ系」が強力な二大勢力となっているわけです。 日本に限定すればまず「ララファミリー」が存在しており、そして「アンデルマ/ウスラーダ系」の若年個体の雄たちが5頭存在しています。 こういったことから、欧州の「ロストック系」と日本の「ララファミリー」の若年・幼年個体の交換というのは非常に意味のあることですし、円山動物園の考えていることは実現性は別にしても方針としてはまさに合理的かつ正しいということです。 「ララファミリー」 にとってある意味での救いは、ララの子供たちがまだ繁殖に至っていないということです。 ですからデナリの繁殖の舞台からの「強制引退」は考える必要はないということです。 その点、「ロストック系」と「アンデルマ/ウスラーダ系」は複数世代、又は複数個体が繁殖に成功しているわけで「血統の多様性」の維持には大きな脅威として存在しているということになります。
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ヴィクトル Photo(C)FAMEFLYNET/Daily Mail

オランダの動物園で暮らしていた一頭のホッキョクグマがイギリスの動物園に移動したというだけのニュースであっても、実はその背景に非常に大きな問題を内包しているわけで、私たちは絶えず世界の動向に目を光らせておく必要があるということです。

ともかくヴィクトルには本当に今までご苦労様でしたと感謝の意を捧げたいと思います。 そして彼の今後については、このように環境の良い場所が用意されていたわけで、彼にとっては何よりのことだったと思います。

(*追記 - このヴィクトルの名前の綴りは "Victor" ですからこれからは英語読みに表記を「ヴィクター」とするほうが本当は良いのかもしれませんが、過去の投稿との統一性を維持するためにやはり今まで通りヴィクトルとして表記したいと思います。)

(資料)
The Daily Telegraph (Aug.18 2014 - England's first captive polar bear arrives)
ITV News (Aug.18 2014 – Polar bear Victor arrives at new Yorkshire home)
Doncaster Today (Aug.18 2014 - Giant polar bear settles into new home at Yorkshire Wildlife Park)
Yorkshire Post (Aug.18 2014 - Victor the polar bear arrives in Yorkshire)
Daily Mail (Aug.18 2014 - It's a long way from t'Arctic! Britain's only polar bear Victor arrives at his new home in Yorkshire)

(過去関連投稿)
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by polarbearmaniac | 2014-08-18 22:00 | Polarbearology

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