街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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イギリス・ヨークシャー野生動物公園のヴィクトルの姿 ~ 「飼育下の集団の維持」について

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ヴィクトル Photo(C)Yorkshire Wildlife Park

オランダ・レネンのアウヴェハンス動物園で飼育されていた15歳のヴィクトルがイギリスのサウス・ヨークシャー州のヨークシャー野生動物公園に移動した件は先日投稿しています。 彼がヨークシャー野生動物公園に移動した理由が欧州におけるホッキョクグマ繁殖計画から彼を外すという意味であることも述べてきました。 ヨークシャー野生動物公園に到着して新しい場所で動き回っているビクトルの様子を一つだけ映像で見てみることにしましょう。



生物には自らの種を維持・存続させていこうという本能的な意志があり、それそのものが本質的な要素であり飼育下の個体であれば我々はそういった彼らの本能的な意志を封じてしまうことが彼らの本質的な要素、これを仮に「尊厳」と定義したとしますと、その尊厳を侵してしまうことになるはずですが個体数の限られた飼育下では集団としての維持・存続を考えねばならず、そういったことでこの「ロストック系」の中心個体であるヴィクトルをこれ以上欧州における繁殖に寄与させないという方針はやむを得ないところでしょう。 今回のヴィクトルの繁殖計画からの「強制引退」は一面においてはヴィクトルの尊厳を侵したという見方も不可能ではありませんが、しかし欧州の「飼育下のホッキョクグマの集団の尊厳」、つまりその維持ということが最も重要なことであることを考えればヴィクトルの引退は合理的なことであるだろうと思います。
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Photo(C)Yorkshire Wildlife Park

日本において、特にホッキョクグマに関してこういった考え方が馴染まないのは日本における(ホッキョクグマの)個体を国内における集団として捉えていないために一定集団の維持という概念を我々はほとんど持っていないということだと思われます。 これを言い換えると、「集団を維持するための繁殖」という概念は我々日本人には希薄であるということです。 ですから展示動物がいなくなれば動物園は動物商に話を持っていくということになるわけです。 今まで頼りにしてきた動物商すら「仕入れ」が難しくなった理由を、仕出国の輸出規制や価格高騰に求めるのはそれそのものは完全に間違っているとは言えないものの、いささか問題の本質を外した理解のように思われます。 動物商頼みの海外からの個体の入手が困難になったために今になってあわてて、日本国内の動物園が協力し合って個体の貸し借りを行って展示を維持していく必要があるというような考え方が最近日本の動物園で登場しているわけですが、実はそういったことは皮相な考え方であって、根本的には国内の動物園の個体を集団で捉え、その「集団における繁殖」という考え方に基づいて繁殖計画がなされねばならないということです。 その根本部分なくして「個体の貸し借りによる展示維持」という考え方が出てきているとすれば問題があるように思われます。 動物商に頼れなくなったから自分でやるしかなくなったということに問題の本質があるわけではなく、要は集団レベルでの繁殖計画の有無ということです。 我々日本人はコペンハーゲン動物園のキリンのマリウスの殺処分を非難する資格などないということです。
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ヴィクトル Photo(C)Yorkshire Wildlife Park

ホッキョクグマに関しては日本は10~15年前から国内の個体を集団として捉えた繁殖計画がえきていなければならなかったでしょう。 その当時にはまだまだいろいろな血統のホッキョクグマたちが国内には存在しており、そういった個体たちを適正に配置して繁殖に寄与させれば血統の多様性をはるかに維持できたはずです。 日本の動物園と動物園関係者、それにくっついている一部のファンというのは非常に閉じた特殊な世界を形成しているようです。 そういったものに無批判でいると見えてこないものがいくつもあるということです。
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さて、ヨークシャー野生動物公園のヴィクトルのポスターができたようです。 そのダウンロードについてはこの上の写真をワンクリックしていただいて開いたページの内容と動画をご参照下さい。 動画のスタートは通常は「閉じる」を示す右上のXをクリックしていただくとスタートします。

我々に多くの有益な示唆を与えてくれた今回のヴィクトルのイギリスへの移動でした。

(資料)
Yorkshire Wildlife Park (Project Polar)
Sheffield Telegraph (Aug.22 2014 - VIDEO: Bring free polar bear poster to life)

(過去関連投稿)
イギリスのヨークシャー野生動物公園がメキシコのベニート・フアレス動物園のユピの移動受け入れを表明
オランダ・レネン、アウヴェハンス動物園のヴィクトルが15歳の若さで繁殖の舞台から「強制引退」か?
オランダ・レネン、アウヴェハンス動物園のヴィクトルがイギリスのヨークシャー野生動物公園に無事到着
イギリス・ヨークシャー野生動物公園のヴィクトルは繁殖の舞台から「強制引退」 ~ 欧州の重大な転機
by polarbearmaniac | 2014-08-24 01:00 | Polarbearology

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