街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

プロフィールを見る

カナダ政府の環境省とイヌイット自治体が特定地域のホッキョクグマ狩猟枠を姑息な25%の削減で合意

a0151913_15222554.jpg
マルル (2014年7月26日撮影  於 熊本市動植物園)

ホッキョクグマといかに共存し、そして彼らをいかに保護・管理していくことに自分たちの持っている伝統的な知識が役に立つのだと主張し続けているイヌイットは、彼らの主張する「伝統文化」としてのホッキョクグマ狩猟の継続を異常なまでの粘り強さで主張し続け、そしてそれがカナダ政府の環境省 (Environment Canada) に極めて強い影響力を与え続けていることは今更ここで繰り返す必要はないでしょう。

そういったカナダ政府の環境省は「狩猟枠自主削減」という形をとって、ハドソン湾南部におけるホッキョクグマの年間狩猟枠を2011年以来の60頭から45頭へと25%削減することをイヌイットの自治体や団体と合意したことを10月10日付けの広報で発表しました。 これはつまり、高まりつつある国外からのホッキョクグマ狩猟禁止を求める声の高まりと保護団体からの批判をなんとかかわそうとするカナダ政府環境省の姑息な対処であるように思えます。 この「狩猟枠自主削減」は今年2014年11月から2016年11月までの二年間が有効期限となっています。 65頭の現在の狩猟枠は26頭がヌナビク (Nunavik) 地区、25頭がヌナブト準州地域、残りの14頭がオンタリオ州とケベック州のクリー (Cree) 居住地域へと割り当てられていたそうですが、これらがそれぞれ22頭、20頭、3頭という削減された新しい狩猟枠が設定されるそうです。
a0151913_14591965.jpg
それにしてもこの地域だけですでに60頭もの狩猟枠が存在していたということ自体が驚きですし、それをたかだが15頭削減した程度なのが現在の状況であるというのも実にお寒い話だと思います。 カナダ・アルバータ大学のアンドリュー・ドローシェー (Andrew E. Derocher) 氏は今回の「狩猟枠自主削減」においても依然として存在している狩猟枠は多すぎると主張していますが、全くその通りでしょう。 ちなみにカナダ全体では毎年500頭ものホッキョクグマが狩猟によって殺されているわけです。 以下のデータはカナダ政府環境省のデータ (Polar bear conservation and trade: Canada’s perspective) ですが、上の黒い線は2004年から2011年までにこうして殺されたホッキョクグマの頭数の推移です。 下の赤線はいわゆるスポーツ・ハンティングと呼ばれるイヌイットから狩猟枠を購入した観光客が単なる狩猟という遊興のために殺したホッキョクグマの数です。
a0151913_1550575.jpg
このスポーツ・ハンティングは減ってはいますが、しかしその代わりにホッキョクグマを使用した製品の輸出のために殺されたホッキョクグマの頭数は以下のグラフ(緑線)によれば増加しているわけです。
a0151913_1551253.jpg
実はこのイヌイットが持つ狩猟枠について彼らは執拗にその維持あわよくばさらなる拡大を狙っているわけで、彼らはそのために特定地域におけるホッキョクグマの生息頭数調査さえ行って彼らが主張する「ホッキョクグマの生息頭数の安定」を証明しようと試みています。 実はこの調査報告 (”WESTERN HUDSON BAY POLAR BEAR AERIAL SURVEY, 2011” - 「2012年イヌイット報告書」と呼んでおきます) は、2012年に発表された当時は多くの議論を呼んだわけで当時私はこの件について投稿しようと考えていたわけですが、このホッキョクグマの生息頭数評価というものはホッキョクグマに関した議論のうちでは最も重要であるにもかかわらず議論は非常に錯綜していると同時にその評価自体が最も複雑かつ難解なもので、これは相当の覚悟がなければ議論を正確に整理して投稿することはできないと考え当時は投稿を断念したわけでした。 しかしこれを引き伸ばしにしておくわけにはいきませんので、いくつかの形で分解した投稿を行いたいと思っています。

(資料)
Environment Canada (News Release/Oct.10 2014 - Agreement reached to maintain effective management of Southern Hudson Bay polar bears)
Nunatsiaq News (Oct.14 2014 - Governments, aboriginal groups strike deal on south Hudson Bay polar bears)
CTV News (Oct.15 2014 - Hunt quotas cut for southern population of polar bears)
MetroNews Canada (Oct.14 2014 - Polar bear hunt quotas cut by a quarter)
Winnipeg Free Press (Oct.15 2014 - Hunt quotas cut for southern population of polar bears)
Environment Canada (Polar bear conservation and trade: Canada’s perspective)

(過去関連投稿)
ホッキョクグマ狩猟枠を観光客に売却して現金化するイヌイットたちを批判する
ワシントン条約(CITES)第16回締結国会議とホッキョクグマの保護について ~ 賛成できぬWWFの見解
ホッキョクグマの生息数評価をめぐる 「主流派」 と 「反主流派」 の主張の対立 ~ 過去、現在、未来..
by polarbearmaniac | 2014-10-16 15:30 | Polarbearology

カテゴリ

全体
Polarbearology
しろくま紀行
異国旅日記
動物園一般
Daily memorabilia
倭国旅日記
しろくまの写真撮影
旅の風景
幻のクーニャ
エッセイ、コラム
街角にて
未分類

最新の記事

ムルマ (Белая мед..
at 2017-07-26 05:45
スネジンカ (Белая м..
at 2017-07-26 05:30
二年振りに訪問のモスクワ動物..
at 2017-07-26 05:00
夜も更けたアルバート通りを歩..
at 2017-07-25 05:45
ペンザからモスクワへ ~ ホ..
at 2017-07-25 02:00
ペンザの「メイエルホリドの家..
at 2017-07-24 05:00
ペンザ動物園訪問二日目 ~ ..
at 2017-07-24 04:00
ベルィ、謙虚さと「大陸的」な..
at 2017-07-23 05:00
快晴の土曜日、ペンザ動物園で..
at 2017-07-23 03:00
ペルミからモスクワ、そしてペ..
at 2017-07-22 04:30

以前の記事

2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月

検索

ブログパーツ

  • このブログに掲載されている写真・画像・イラストを無断で使用することを禁じます。

ライフログ


人生と運命 1


スターリン―青春と革命の時代


モスクワは本のゆりかご


私のモスクワ、心の記憶


自壊する帝国 (新潮文庫)


甦るロシア帝国 (文春文庫)


嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)


ロシア 春のソナタ、秋のワルツ-1999-21st


それからのエリス いま明らかになる鴎外「舞姫」の面影


ミチコ・タナカ 男たちへの讃歌 (新潮文庫)


わがユダヤ・ドイツ・ポーランド―マルセル・ライヒ=ラニツキ自伝


ベルリン戦争 (朝日選書)


Hof――ベルリンの記憶


カチンの森――ポーランド指導階級の抹殺


北京烈烈―文化大革命とは何であったか (講談社学術文庫)


慟哭の通州――昭和十二年夏の虐殺事件


主題と変奏―ブルーノ・ワルター回想録 (1965年)


藤田嗣治 異邦人の生涯


Barle's Story: One Polar Bear's Amazing Recovery from Life As a Circus Act


Hotel Adlon: Das Berliner Hotel, in dem die grosse Welt zu Gast war


Ein seltsamer Mann


Alma Rose: Vienna to Auschwitz


St Petersburg: A Cultural History


Gulag


The Guest from the Future: Anna Akhmatova and Isaiah Berlin