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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ララ (札幌・円山動物園) は、あと何度出産するか?

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ララ (2014年10月4日撮影 於 円山動物園)

さて、掲題の件です。 実はこれは 「何度 (litter) 出産するか」 ということと 「何歳まで出産するか」 ということと 「何歳まで出産させようとするのか」 ということとは本来は異なるわけですから注意が必要です。 まず最初に考えることは「何歳まで出産するか」についてです。 これを考える前提として昨年10月の投稿である 「ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園のウスラーダの歩む道 ~ 再説: 繁殖可能年齢上限」 をご参照頂ければ幸いです。 この投稿の時点ではウスラーダに昨年の暮れに出産があるのかないのかが全く不明の状態で投稿したものですが、現実は見事にウスラーダは26歳で出産に成功したわけです。 それからさらに、こういったことを考える前提として雌(ララ)と雄(デナリ)の健康状態が今後も良好であり、問題となるのは加齢という要素だけであるという条件を設定することとします

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ララ (2014年10月4日撮影)

飼育下での最高齢出産成功世界記録 はアメリカ・デトロイト動物園で飼育されていたドリス (1948 ~ 91) の持つ35歳11か月であり、最高齢出産世界記録も同じドリスの持つ38歳2か月です。 (*追記 - ちなみにこのドリスはホッキョクグマの史上最長寿記録をも保持しています。)
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ドリス (1948 ~ 91) Photo : The Historical Image Outlet

では野生下ではどうかといいますと、あくまでも観測された範囲内では以前にご紹介している "ANURSUS:A POPULATION ANALYSIS SYSTEM FOR POLAR BEARS (Ursus maritimus)" という研究報告では24歳(+)、つまり若く見積もっても24歳ということになります。 ところがアメリカ動物園・水族館協会 (AZA) が作成した 「ホッキョクグマ飼育マニュアル(Polar Bear Care Manual)」(pdf) の記載によりますと、観測した限りで野生下の雌で繁殖行動を行った最高齢は29歳だそうです(その雌が実際に出産したかは確認できていないようですが)。 今までも述べてきましたが飼育下では一般的には21歳あたりが繁殖可能年齢の上限ですが、こういったケースは例を挙げれば、おおむねそれは「初産」 のような過去に出産のなかったケースなどを想定した場合で、それまで何度も出産を重ねた雌には全く当てはまらないということは現在では世界的にも常識として認識されています。 ですからその証拠に、EAZAは出産経験のある23歳のビンバのさらなる繁殖を狙って彼女を雄のいる他園に移動させたり、また同じく出産経験の豊富な22歳のヴィエナのさらなる繁殖のために雄をヴィエナの飼育されている動物園に移動させたりなどを行うわけです。 それからたとえばウスラーダは20歳になる前にすでに10頭を産み育てていましたが、その後も20歳でクラーシンとピョートル(ロッシー)の双子を産み、22歳でサイモンとサムソンの双子を産み、24歳でロモノーソフを産み、そして今回26歳でザバーヴァを産んでいるわけです。 ペルミ動物園のアンデルマは野生で捕獲されたため年齢が不詳ですが、彼女は野生下ですでにメンシコフともう一頭の双子を産んだ後に今度は飼育下で5頭を産んでいますが20歳を過ぎても、22歳、そして24歳で出産しており仮に彼女の生年が1980年説が正しかったとしますとアンデルマは24歳で大阪のゴーゴを出産したことになります。 さて、こういった例から言っても、「何歳まで出産するか」 という点ではララはウスラーダの26歳は無理としても、おそらく24歳まではかなり高い確率で出産が可能だろうということは言えるでしょう。

18歳のララの授乳 (2013年3月23日撮影 於 札幌・円山動物園)

17歳のシモーナの授乳 (2012年9月23日 於 モスクワ動物園)

18歳のフギースの授乳 (2012年3月24日 於 レネン、アウヴェハンス動物園)

26歳のウスラーダの授乳 (2014年5月4日撮影 於 サンクトペテルブルク、レニングラード動物園)

次に 「何歳まで出産させようとするのか」 ですが、実はこれは微妙な問題であり 「何度出産するか」 と密接な関係があります。 私は一作年2012年の12月にララが双子(つまりマルルとポロロ)を出産した時に、「これでこの双子は2年間ララと過ごさせれば、その次のララの出産は彼女の21歳の2015年、さらに次は24歳の2018年、これで彼女の繁殖への挑戦は終了することになるだろう。」 と考えたわけです。 つまり3年サイクルであと2回ということですね。 ところが円山動物園(男鹿水族館も)は次の繁殖に既存の2年サイクルを継続したわけであり、動物学から導き出された動物福祉 (Animal welfare) を踏まえた3年サイクルという方針が未だに日本では認知されていないことがわかり意外だったわけです。 ましてやマルルとポロロ(そしてミルク)は雌だったわけであり2年サイクルの継続については一層、残念だったと言わざるをえません。 モスクワ動物園のシモーナはやはり2年サイクルの繁殖が期待され、そして続いてきたわけですが前回2011年暮れの出産が三つ子だったため、今回はもう一年お休みをもらって今回は3年サイクルでの挑戦となります。

円山動物園では新ホッキョクグマ飼育展示場の建設計画が実行に移されますが、これを考慮に入れると話が厄介になりますので今回はそれを考慮しないこととして話を進めます。 ...さて、円山動物園はこういったことから、今後も2年サイクルの繁殖を強行することはほぼ間違いないものと考えてよいでしょう。 となれば、ララの出産は2014年(20歳)、2016年(22歳)、2018年(24歳) というスケジュールが一応浮かび上がってきます。 「何歳まで出産させようとするのか」 という観点を考えれば、ララは今年の年末を含めてあと3回の出産が期待されることになるといったわけです。 そして、これを本当にやらせてよいかという問題は別にしておけば、仮にそういうスケジュールを強行しようとすればララは期待には応えてくれるであろうということは低くない確率で言えるでしょう。 デナリも年齢的には全く問題ないでしょう。
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ララ (2014年10月5日撮影)

さて、こうなりますと 「何歳まで出産するか」 ということと 「何歳まで出産させようとするのか」 ということとは本来は別の問題であるにもかかわらずララの繁殖能力の安定度から考えれば結果的にはこの二つの解答は、ほぼ同じものを意味することとなるでしょう。 そこでこの二つを 「何度出産するか」 という問題と重ね合わせて以下に整理します。

(A)2年サイクル - 2014年(20歳)、2016年(22歳)、2018年(24歳)
(B)3年サイクル - 2014年(20歳)。2017年(23歳)


...と、こういうことになります。 (A)の場合ですがララとて生身の体ですから期待した出産に成功せず、結果的に間に一年のインターバルが入るケースも考えられるわけで、そうなると(A)の最後の「2018年(24歳)」が後にずれ込むことになりますので、さすがにこれは(A)の三回目が難しくなることも予想されます。 しかしそれを考慮しても(A)の場合は二回の出産は堅いと思われます。 (B)の場合は仮に今年の「2014年(20歳)」 が成功しなくても二回目は「2018年(24歳)」 が設定できますので、やはりララの出産はあと二回ということになります。 つまりこれから言えることは、「ララはあと二回 (2 litters) 出産する」 という予想がかなりの確率で成立するのではないかということです。 問題は円山動物園がララに「何歳まで出産させようとするのか」 ということが次なる問題です。 実は毎日新聞の徳島市支局が<とくしま動物園・ポロロ観察記>というのを連載していますが、その最新の9で円山動物園の担当者の発言を以下のように引用しています。

- 2013年秋。円山動物園(札幌市)のホッキョクグマ担当、〇〇さんはポロロを産んだララの次の繁殖に向け、ポロロとマルルの引き取り先を探していた。「母親が子熊と一緒にいると、発情が起きない。子熊を別の施設に移す必要があった」

つまり、昨年2013年の秋の時点ですでに円山動物園はララの次の繁殖挑戦を2014年と設定していたことを意味しています。 ここには3年サイクルという発想は全く感じられないわけです。 となれば、同園は今後も2年サイクルを継続していく可能性は非常に大きいでしょう。 つまり(A)が今後のララの繁殖のスケジュールとなると考えてほぼ間違いないでしょう。 この場合、上で述べましたように仮に(A)でララが一度出産に失敗してもあと二回は成功の確率は非常に高いと考えられますから、ララの出産はあと二回は堅く、三回も十分に可能であるということが言えるでしょう。
ララ (札幌・円山動物園) は、あと何度出産するか?_a0151913_1363839.jpg
ララとポロロ(左)、マルル(右) (2013年8月18日撮影)

私はホッキョクグマの繁殖はやはり3年サイクルにすべきだと考えている人間です。 そして上のタイムスケジュールの(B)のように仮にララの繁殖を今後3年サイクルにしてもあと二回の出産は可能ですから、結果的には(A)も(B)も出産予想回数としてはそう変わらないわけです。 ならば今後(B)の3年サイクルを採用することに問題があるようには思えません。 また、円山動物園がララの次の出産(つまり2014年か2015年)を最後にしてララを繁殖の負担から解放してやろうと考えるとすれば、それはそれなりに納得のいく考え方のようにも思います。 しかしこの場合は、デナリは引き続き別の雌との間で繁殖に挑戦させることになるでしょう。 雄の場合は産室入り、出産、育児がありませんから負担は少ないわけです。

ということで掲題についての私なりの考えでの結論は、「ララはあと二回 (2 litters) 出産する」 ということになります。
ララ (札幌・円山動物園) は、あと何度出産するか?_a0151913_2334582.jpg
ララ (2014年10月5日撮影)

それからもう一つ、「ララ(ホッキョクグマの雌)は身を削って出産・育児をしているわけだから、出産回数が増えればそれだけ寿命を縮めている。」 という考え方についてです。 これは非常にストレートに我々に受け入れやすい考え方です。 ところが過去の何頭もの雌の例を見ていきますと意外なことに、明らかに現実のデータはこの考え方とは全く逆の方向を示しているということです。 最近はホッキョクグマの寿命も延びていますから雌のホッキョクグマの高齢を30歳ではなく32~3歳に設定したとしますと、その年齢を越えても過去に元気で生きていた個体は出産経験が豊富な個体が圧倒的多数で、出産経験のない雌がそれだけの年齢まで生きていたというケースは非常に少ないわけです。 つまりララの今まで何度もの出産・育児は彼女の寿命を縮めているどころか、むしろその逆である可能性が極めて大きいということです。 こう書くといかにも 「ララをこれからもどんどん可能な限り繁殖に挑戦させてよい。 そのほうがもっと長生きする。」 という意味だと理解されてしまいそうですが、そういうことでは全くありません。 誤解の無いようにお願いいたします。 これについては掲題のテーマから離れますので別の機会に稿を改めます。

(*追記 - 時々お見かけする円山動物園の女性の方、飼育展示課長さんだったでしょうか、その女性の方はマルルとポロロの一般公開開始日だったかに確か 「ララはあと二回は出産可能です」 とおっしゃっていたのを私は小耳にはさんだ記憶があるのですが、仮に私のその記憶が正しいとすれば、上に私が述べた結論と全く同じということになります。 しかし私の記憶違いかもしれません。)

(資料)
"ANURSUS:A POPULATION ANALYSIS SYSTEM FOR POLAR BEARS (Ursus maritimus)"
Association of Zoos and Aquariums - Polar Bear (Ursus Maritimus) Care Manual
毎日新聞 (Nov.5 2014 - <とくしま動物園・ポロロ観察記>/9)

(過去関連投稿)
サツキ、産室から出る...~ ホッキョクグマの歴代最高齢出産成功記録は35歳11ヶ月?
高齢のデビーを愛し、慈しみ、送った人々 (下)
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by polarbearmaniac | 2014-11-07 01:00 | Polarbearology

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