街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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アラスカ北側のボーフォート海で2001年からの10年間にホッキョクグマの生息数は40%の減少が明らかになる

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ムルマ (男鹿水族館・豪太の母) 
(2013年10月3日撮影 於 モスクワ動物園)

アメリカの地質研究所 (USGS - United States Geological Survey) が主導しカナダ環境省 (Environment Canada)、アルバータ大学、合衆国魚類野生動物保護局 (U.S. Fish and Wildlife Service)、Polar Bears International などの科学者たちが参加したアメリカ・カナダの合同チームによって行われた調査をもとにアラスカのボーフォート海南部における2001年から2010年にわたるホッキョクグマの生態に関する研究報告である ”Polar bear population dynamics in the southern Beaufort Sea during a period of sea ice decline” が、このたび科学雑誌である Ecological Applications 誌の最新号で発表されました。 
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このボーフォート海というのはアラスカの北側にあり野生のホッキョクグマの生息地として多くの研究がなされてきた地域ですが、今回の研究報告では以前にも御紹介したことのある野生のホッキョクグマの生態調査や生息数調査を行う際に最もオーソドックスな方法である Capturing-and-Tagging 法 (*Mark-and-Recapture法)が用いられ、2001年から2010年までの10年間にこの地域におけるホッキョクグマの生息数は2001年の1250頭(多い推定では2000頭)から2010年の900頭へと、40%も減少しているという結果が明らかになりました。 特に2004年から2006年の間の幼年・若年個体の生存率が極めて低く、モニターしていた80頭の幼年個体のうちこの期間に生存できたのはたったの二頭だけだったとのことです。 幼年個体 (cubs) と成獣 (adults) については2007年からは状況が好転してきたものの、若年個体 (juveniles /subadults) については2001年から2010年までのスパンで見れば生存率は減少していることも明らかになったそうです。 この原因ですが海氷の減少・後退によってアザラシ狩りに困難さが増していることが理由として挙げられています。 特に母親から独立したばかりの若年個体がこの影響をもろに受けているということを示していると研究報告は指摘しているそうです。 この調査がなされた最終の時期(つまり2010年頃という意味でしょう)には生存率が上がっているそうですが、その原因についてはまだよくわからないとのことです。 北極圏における1900年から現在までの海氷面積の推移、そして2100年までの予想をご紹介しておきます。



さて、ここで以前に投稿しました 「温暖化による海氷面積減少にも影響を受けず生息数が減らないチュクチ海地域のホッキョクグマたちの謎」 を是非再度ご参照頂きたいのですが、実はこのチュクチ海地域の海氷面積の減少(後退)率はボーフォート海と同じレベルであるのもかかわらずチュクチ海地域に暮らすホッキョクグマたちの生息数は全く変化しておらず、そして健康状態は20年前よりも良くなっているという驚くべき事実が報告されています。 この原因もまたよくわからないわけですが、仮にその原因が究明できれば、我々は苦境に立つホッキョクグマたちを救う何らかの手段を持ち得る可能性があるかもしれません。
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ムルマ (2013年10月3日撮影 於 モスクワ動物園)

今回の調査・研究報告は北極圏全体を対象としたものではなく、あくまでもボーフォート海地域に限定されたものですが、ホッキョクグマは温暖化による海氷面積の減少によりアザラシ狩りに多大な労力を投入せねばならなくなっていることはその全ての生息地において程度の差はあれ疑いようもないことで、短期的・中期的には生息数の多少の増減といったことを繰り返しながら、長期的には生息数は大きな減少を見ることは間違いないように私は考えます。 しかし、その過程においては我々にはまだ認識できていない何かの複合的な要因が組み合わされてホッキョクグマの生息数の減少が止まる可能性が無いとは言えません。 それに本当に期待してよいかは神のみぞ知るといったところではないでしょうか。

(資料)
Ecological Applications (Nov.15 2014 - Polar bear population dynamics in the southern Beaufort Sea during a period of sea ice decline)
USGS (Newsroom/Nov.17 2014 - Southern Beaufort Sea Polar Bear Population Declined in the 2000s)
Alaska Dispatch (Nov.17 2014 – Beaufort Sea polar bear population took big hit in early 2000s, study says)
The Guardian (Nov.17 2014 - Polar bear population in frozen sea north of Alaska falls 40% in 10 years)
NBC News (Nov.17 2014 - Key Polar Bear Population Plummets in Alaska and Canada)
IUCN/SSC Polar Bear Specialist Group
(The official website for the Polar Bear Specialist Group of the IUCN Species Survival Commission) 
(PBSG global population estimates explained)
(Global polar bear population estimates)
(Summary of polar bear population status per 2013)
(The status table) (PDF 114.5 kB)
Polar Bears International
(Polar Bear Status Report)
(Are polar bear populations increasing: in fact, booming ?)
U.S. Geological Survey (USGS)
(Polar Bear Research)
(New Polar Bear Finding)

(過去関連投稿)
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by polarbearmaniac | 2014-11-19 01:00 | Polarbearology

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