街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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旭山動物園のサツキとルルの出産に関して過去のデータで予想する ~ 二頭が挑戦する 「世界~」 の壁

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サツキ (2014年10月11日撮影 於 旭山動物園)
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ルル (2014年10月11日撮影 於 旭山動物園)

旭山動物園が昨日19日付の飼育ニュースで 「ホッキョクグマのルルとサツキが出産準備のため展示を中止しています」 というタイトルでルルとサツキがすでに13日から産室入りしている事実を発表しています。 その内容は今までの同園の毎年の発表からは一歩踏み込んだ実に注目すべき内容を含んでいますので、以下にその一部をコピーさせてもらうこととします。

>今年は、オスの「イワン」と「サツキ」の交尾が4月8日~10日に、「イワン」と「ルル」の交尾が2014年4月11日~14日に観察できました。妊娠の確証はありませんが、妊娠していると仮定するとホルモン動態などから出産は11月下旬から12月にかけてと想定し、この時期に産室に閉じ込めての飼育となります。

何事についても比較的、積極的に情報を公開する欧米の動物園ですが、雌のホッキョクグマの出産準備については意外なことに欧米の動物園ではあまり情報を公開しません。 そして、その出産準備のために雌がいつから非展示となるかという予定については日本の動物園の方がむしろその情報を発表している場合が多いわけです。 ところが今回の旭山動物園の発表はその非展示開始事実だけでなく、交尾日を公式に明らかにし、そしてホルモン動態から想定しうる出産予定期間を述べるなど踏み込んだ内容の発表であり、大いに評価すべきものと考えます。 この内容に基づいて、サツキとルルの出産に関する予想を試みてみたいと思います。 毎度申し上げていますが、これは単な「遊び」の領域を出ないもので、あまりに真面目に受け取ってもらっては困るということです。 用いるデータは勿論、ロシアの生物学者であるイーゴリ・トゥマノフ氏の研究報告である ”Reproductive Biology of Captive Polar Bears (by IGOR TUMANOV. Research Institute of Nature Conservation of the Arctic and North, St. Petersburg, Russia)” のデータです。 これ以外に過去のデータから飼育下のホッキョクグマの出産傾向について集積したデータはほとんど存在しないと考えられるからです。 この研究報告のデータのエキス部分をさらに再度下にまとめておきます。

(1)交尾日、出産日、妊娠期間、出産頭数、性別との関係
交尾日    平均妊娠日数 出産平均頭数 性別(オスの確率)
2月11-28日   281日      1.55    50.0%
3月 2-31日    254日     1.80     51.9%
4月 1-30日    237日     1.75     54.3%
5月 8-16日   207日     2.25     55.6%
6月 5-13日   166日     1.50     33.3%

(2)妊娠期間と平均出産頭数との関係
妊娠期間        平均出産頭数
164 - 233日間     1.88
239 - 256日間     1.76
260 – 294日間     1.64

(3)1回の出産あたりの出産頭数の確率
1頭出産の確率  -  28%
双子出産の確率  -  68%
三つ子出産の確率 -    4%

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サツキ (2014年10月11日撮影)

さて、まずサツキです。 同園の発表では彼女のイワンとの交尾日は4月8日~10日とのことですが、トゥマノフ氏の研究報告のデータは複数の交尾日がある場合は最初の日のみを「交尾日」として採用するというルールがありますのでサツキの場合は「交尾日」を4月8日とします。 この場合に平均の妊娠日数・妊娠期間 (Pregnancy Duration) は237日間です。 この237日目にあたるのは今年は12月2日となります。 しかし、交尾日が4月の上旬ですとこの平均妊娠日数は3月の交尾日の平均妊娠日数が多い傾向に引きずられてやや長くなることが予想されます。 とするとサツキの出産日の最も有力な可能性のある日を12月5日程度に引き延ばす必要があるように思います。 さらにこの場合、性別は雄の確率がやや高く出産頭数は双子の確率が幾分高くなるわけです。 となりますと、これらをまとめて思い切って言えば、

サツキの出産日は12月5日前後であり出産頭数は一頭より二頭の可能性がやや高く、双子なら性別は雄(オス)と雌(メス)である。

ということになります。 そしてサツキの場合、妊娠期間 (Pregnancy Duration) の最長である294日目は来年の1月28日となり、この日を超えてサツキが出産する可能性というのはまずありえないことを意味します。

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ルル  (2014年10月11日撮影)

次にルルです。 彼女のイワンとの交尾日は4月11日~14日とのことですが、この場合は先にも述べた通り4月11日を「交尾日」として採用します。 この場合も平均の妊娠日数・妊娠期間 (Pregnancy Duration) は237日間です。 この237日目にあたるのは12月5日となります。 この日付も上記のサツキの場合と同様に調整すれば12月7日というのが妥当な日付となるでしょう。 性別は雄の確率がサツキの場合よりさらに高く、出産頭数は双子の確率が強くなります。 となりますと、これらをまとめて思い切って言えば、

ルルの出産日は12月7日前後であり、出産頭数は双子の確率が高く性別はどちらも雄(オス)である。

ということになります。 そしてルルの場合、妊娠期間 (Pregnancy Duration) の最長である294日目は来年の1月31日となり、この日を超えてルルが出産する可能性というのはまずありえないことを意味します。

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サツキ(左)とルル(右) (2012年5月27日撮影)

さて、上記の予想はサツキもルルも妊娠していて実際に出産に至るということを前提とした予想です。 しかしこのサツキとルルの二頭の場合に問題となるのは出産日がいつになるか、出産頭数は何頭か、性別は雄なのか雌なのかということではなく、本当にこの二頭が出産に至るか(そして無事に育児を行うか)ということのほうがこの問題の前提そのものであるということです。 さらに一つ興味深い事実を挙げれば、今年の男鹿水族館のクルミの出産可能性の最も高い日である11月30日から彼女が出産の可能性がほぼ無くなる12月13日までは13日間しかないにもかかわらず、今年の旭山動物園のサツキの出産可能性の最も高い日である12月5日から出産の可能性の無くなる1月28日までは54日間もあり、またルルの場合も55日間もあるということです。 円山動物園のララの場合もこれが40日間もあるわけです。 これがいったい何を意味するのかは私もよくわかりません。 しかし言えるであろうことは、今年のクルミの出産は超短期決戦ではないかということです。 そしてサツキとルルの場合は持久戦となるだろうということです。
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サツキ(左)とルル(右) (2012年5月26日撮影)

今年、サツキはすでに23歳になっています。 ルルは昨日11月20日に20歳になりました。 このサツキとルルの出産の成功、そしてその後の育児の成功によってこの二頭が来年の春に赤ちゃんと一緒に戸外に登場することを期待するためには我々はこの二頭が今回は以下のことに挑戦しているのだという認識をしっかりと持っておくことが重要です。 すなわち、

・サツキは世界最高齢 「初産成功」 記録樹立に挑戦している。

・ルルは世界最高齢 「初産成功」 タイ記録樹立に挑戦している。


確認し得る限りでは、この世界最高齢初産成功の記録保持 (20歳) はアメリカ・デトロイト動物園で飼育されていたサーカス出身のホッキョクグマである故ベアレです。 (20歳を越して出産し初めて子供の育児に成功した例はあるものの、それらは全てそれ以前に出産の経験があり「初産」ではないわけです。) ベアレに関しては「アメリカ、デトロイト動物園のベアレ逝く ~ 20歳で初出産に成功したサーカス出身のホッキョクグマの生涯」 をご参照下さい。 飼育下のホッキョクグマの出産に関して「世界~」の文字が入る記録を持っている現存している雌のホッキョクグマは世界でたった一頭しか存在していません。 それは言うまでもなくあの偉大なるウスラーダです。 それほどまでにホッキョクグマ界で 「世界~」 の文字の入る記録を打ち立てるのは難しいということです。 願望は願望としても現実的にはこの二頭、特にサツキについては相当に困難な状況であるということです。

ただし、その一方で以下も考慮しておかねばなりません。 それは、以前にも投稿していますが、私も含めて日本でこそ「初産」というものを特別視しこそすれ、欧米ではホッキョクグマに関して何事においても「初産」というものに特別な価値を置くという発想はないということです。 ですからサツキが挑戦しているものが「世界記録」という難しいものなのだと過度に悲観する必要はないだろうということです。 さらにルルですが、「双子姉妹の片方(つまりララ)が繁殖に成功した場合に、もう片方が成功できなかったという例は極めて少ない」 という過去の傾向 (or ジンクス?)が存在しているわけです。 ですから、ララだけが出産を重ねでルルには出産がないというのは考えにくいということです。 そして今回もサツキとルルのパートナーは家系的に繁殖能力に優れた「アンデルマ/ウスラーダ系」、その雄のホッキョクグマであるという点も考慮に入れておいておかしくはないわけです (血族の大元締めであるアンデルマさん、そろそろ助けていただけませんでしょうかねえ...)。 ホッキョクグマの繁殖に関しては何事も予想できないことが起こり得るということを我々は知っておかねばならないわけです。

サツキとルルについては静かに見守る以外にないでしょう。  幸運を祈ります。

(資料)
旭山動物園 (しいくにゅーす/Nov.19 2014 - ホッキョクグマの「ルル」と「サツキ」が出産準備のため展示を中止しています。
Reproductive Biology of Captive Polar Bears (by IGOR TUMANOV. Research Institute of Nature Conservation of the Arctic and North, St. Petersburg, Russia)

(過去関連投稿)
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by polarbearmaniac | 2014-11-21 01:00 | Polarbearology

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