街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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2010年の釧路市動物園でのクルミの繁殖挑戦を振り返る ~ "L'année perdue de Kurumi"

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クルミ (2013年5月1日撮影 於 男鹿水族館)

現在男鹿水族館で飼育されており今年の繁殖シーズンでも出産が期待されているクルミが、初めて繁殖の舞台に登場したのは2009年、まだ彼女が釧路市動物園で飼育されていた時代ですが、パートナーとしては2009年の3月末から釧路市動物園に繁殖目的で2年間という期間限定で出張してきた札幌・円山動物園のデナリでした。 今回はこの釧路市動物園でのクルミの繁殖への挑戦について振り返ってみたいと思います。
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デナリ (2014年1月18日 於 札幌・円山動物園)

このデナリとの間での最初の繁殖の挑戦であった2009年ではこの二頭の間で繁殖行動が確認できなかったわけで、翌年の2010年に課題は持ち越されたわけでした。 この2010年の釧路市動物園でのドラマを現時点で振り返ってみることは無駄ではないと私は考えるわけです。 ここでホッキョクグマの繁殖に関するデータとして世界で唯一の研究報告であるロシアの生物学者であるイーゴリ・トゥマノフ氏の研究報告である ”Reproductive Biology of Captive Polar Bears (by IGOR TUMANOV. Research Institute of Nature Conservation of the Arctic and North, St. Petersburg, Russia)” を利用して、この2010年のドラマを読み直してみたいと思います。 「またか!」 と感じられる方は多いでしょうが、ここ数回の「出産予想」は全て遊びの感覚でこの研究報告を利用したわけですが、本投稿はそうではありません。
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クルミ (2013年5月1日撮影 於 男鹿水族館)

釧路市動物園における2010年という繁殖シーズンですが、まず年が明けていきなり1月にデナリとクルミとの間で繁殖行為が確認されたわけです。 釧路市の市民グループの方のブログを拝見しますと、デナリとクルミとの間に繁殖行為は1月3~9日という期間続いたことになっています。 さて、ここでトゥマノフ氏の研究報告のデータを読み込む際のルールとして毎回のように申し上げていますが交尾日が複数にまたがるときは最初の日を「交尾日」として採用するわけですから、2010年の1月3日を「交尾日」として採用することとします。 この1月3日という交尾日はトゥマノフ氏の研究報告、つまり1932年から1988年の間でのレニングラード(現在は「サンクトペテルブルク」)のレニングラード動物園での50回のホッキョクグマの出産によって生まれた88頭の個体の記録には見られないほどの早い時期だったわけです。 トゥマノフ氏の研究報告でのホッキョクグマの「妊娠(継続)日数」("Pregnancy Duration")というのはAZA の飼育マニュアルでは "Gestation Period "(懐胎期間)という言い方をしていますが同じ意味です。 トゥマノフ氏の研究報告ではこの「妊娠(継続)日数」("Pregnancy Duration") を 「164~294日」 としており、最長は294日間であることを意味するわけですが、昨年日本平動物園はバニラに妊娠の可能性が無いと判断した際にもこのトゥマノフ氏の研究報告における「妊娠(継続)日数」("Pregnancy Duration")を参考にして利用していたいたことは昨年の投稿でも触れています。 一方でAZAの飼育マニュアルでは "Gestation Period "(懐胎期間)を 「195~265日」 としており、トゥマノフ氏の研究報告よりも前後を一か月ほど短縮した期間をこれに充てています。 つまり、AZAのマニュアルのほうが厳しい見解を採用しているということですね。 
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クルミとミルク (2013年5月1日撮影 於 男鹿水族館)

さて、では2010年の釧路市動物園におけるクルミがこのトゥマノフ氏の研究報告における最長の「妊娠(継続)日数」("Pregnancy Duration")に達した日がいつかを計算してみますと、それはなんと10月24日という、非常に早い日付がこれにあたるわけです。 そしてさらに2010年のクルミがこの10月24日頃に何をしていたかを調べていきますと今にしては驚くべきことですが、産室内に閉じこもっているどころか、まだ飼育展示場にいたというわけです。 釧路市の市民グループの方のブログを参照させてもらいますと、クルミはちょうどこの日付の頃には 「砂場に深い穴を掘ったりする」 という異常行動が見られていたそうで、その後の北海道新聞の記事にもこの行動をもって関係者は「妊娠の兆候」と考えていたことがわかります。
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クルミ (2013年5月1日撮影 於 男鹿水族館)

さて....こうしてクルミはこの「異常行動」が見られていた約1週間後の11月4日になってようやく産室に隔離されて非展示となったわけですが、この11月4日はトゥマノフ氏の研究報告で言うところの「妊娠(継続)日数」("Pregnancy Duration")の最長期間である294日間をすら超えた、なんと304日目ということになるわけです。 この11月4日にして初めて産室に封じられたクルミでしたが、この304日目という時点ではトゥマノフ氏の研究報告のデータによればすでにもう出産の可能性のないと考えられる時期になってしまっていたというわけです。 データによればすでに「その年の勝負」がついてしまっていた11月4日になってから産室に閉じ込められたクルミだったわけですが、さらにクルミに出産が無いと判断されて産室の外に出されたのはその年の12月27日、つまりトゥマノフ氏の研究報告で言うところの「妊娠(継続)日数」("Pregnancy Duration")で計算しますとなんと357日目にあたるわけでした。 産室を出たクルミは絶食の影響が心配される状態であり、通常の状態に戻るまでの期間が必要であると考えられたほどだったそうです。 そういったことも影響してか、クルミが翌年2011年に男鹿水族館に移動したのは4月の下旬のことであり、新しい場所での環境に慣れる期間が必要であったことを考慮に入れれば、すでに2011年の繁殖シーズンでの豪太との繁殖挑戦には時期的にも無理があったという状況となってわけです。
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クルミとミルク (2013年5月1日撮影 於 男鹿水族館)

こうして振り返ってみますと、2010年のクルミの繁殖挑戦が成功に至らなかった理由の一端はおのずから明らかであるように私には思えます。 データが全てを物語っているわけです。

(資料)
Association of Zoos and Aquariums - Polar Bear (Ursus Maritimus) Care Manual
”Reproductive Biology of Captive Polar Bears (by IGOR TUMANOV. Research Institute of Nature Conservation of the Arctic and North, St. Petersburg, Russia)”

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by polarbearmaniac | 2014-11-24 23:45 | Polarbearology

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