街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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モスクワ動物園のムルマの2003年の繁殖挑戦を振り返る ~ 5月の交尾で出産に成功したムルマとララ

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ムルマ (2013年10月3日撮影 於 モスクワ動物園)

モスクワ動物園の24歳となった雌のムルマは日本では男鹿水族館の豪太の母として知られた存在です。 豪太の誕生、つまりこのムルマの2003年のモスクワ動物園における繁殖への挑戦について振り返ってみたいと思います。 実は以前に 「モスクワ動物園のムルマ」 という5回の連載投稿を行い、2003年にムルマがウムカ(ウンタイ)という新しいパートナーを得た経緯についてご紹介しています。 そのうちムルマの最初のパートナーであったウォルドとの関係につては 「モスクワ動物園のムルマ(3) ~ 初産、そして訪れた危機」、そして彼女の次のパートナーとなったウムカ(ウンタイ)との関係については 「モスクワ動物園のムルマ(4) ~ 危機の克服、そして豪太の誕生」 という投稿をご参照頂きたいと思います。
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ムルマ (2013年10月3日撮影 於 モスクワ動物園)

このムルマが彼女にとって新しいパートナーとなったウムカ(ウンタイ)との間で2003年5月8日に繁殖行為があり、そして同2003年11月26日に後に豪太と名付けられた雄の赤ちゃんを出産したわけですが、これをあの例のロシアの生物学者であるイーゴリ・トゥマノフ氏の研究報告である ”Reproductive Biology of Captive Polar Bears (by IGOR TUMANOV. Research Institute of Nature Conservation of the Arctic and North, St. Petersburg, Russia)” に従って評価してみたいと思います。 まずこの時のムルマの「妊娠日数/期間 (Pregnancy Duration / Total Gestation times) はなんと202日間という極めて短い日数だったことになります。 実は交尾日が5月だった場合の「平均妊娠日数」は207日間であるわけですが、そういった平均日数よりも早く出産を果たしているわけで、これは実に興味深いことです。 実は手元にモスクワ動物園で過去の雌の個体が何日に繁殖行為(交尾)を行ったかと、その繁殖行為によって何日に出産したかを示すデータがあるのですが、繁殖行為(交尾)について見ていきますと3月下旬から4月上旬がほとんどで、ただ一つの例外がこの2003年のムルマの5月8日という日付です。 円山動物園のララの繁殖行為(交尾)も実はこの3月下旬から4月上旬に集中しているのですが、ただひとつの例外が2005年であり、この時はララは5月13日という大変に遅い日付に繁殖行為(交尾)を行い妊娠期間 (Pregnancy Duration) が216日間という短さでピリカを出産しています。  さて、こうして見ていきますと今年の男鹿水族館のクルミの繁殖行為(交尾)が2月22日という非常に早い時期であるのが最近ではかなり特異なものであるということにもなるわけです。 クルミがミルクを産んだ2012年には繁殖行為(交尾)は4月4日であり、いわゆるモスクワ動物園などで繁殖に成功した多くのケースと同じような時期だったわけですが今回は異なった時期を示しています。 ムルマやララは繁殖行為(交尾)日が5月にずれこんでも繁殖に成功しましたが、逆にこの二頭が2月に繁殖行為(交尾)日が繰り上がった場合となると、これは予想が付きません。 しかし一般的には2月は5月よりも不利であるということがトゥマノフ氏の研究報告では読み取れます。 そして繁殖行為(交尾)日は3月下旬から4月上旬の場合が出産成功には有利であるということも読みとれます。
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ムルマ (2013年10月3日撮影 於 モスクワ動物園)

さて、モスクワ動物園のムルマですが、彼女の二番目のパートナーだったウムカ(ウンタイ)が亡くなってしまいましたので彼女には現在のパートナーはいないということで私は理解していたのですが実は2~3日前にロシアよりのモスコフスキー・コムソモーレツ (Московский комсомолец) 紙の12月11日付の報道で実に驚くべき写真が掲載されていました。 それがこの下の写真です。
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ウランゲリ(左)とムルマ(右)
Photo(C)Московский Комсомолец/Александр Корнющенко

この写真がいつ撮影されたかわかりませんが、写っているのは右がムルマで左がウランゲリです。 このウランゲリというのはずっとシモーナのパートナーであり今年のモスクワ動物園でもこのペアでの繁殖を狙っているわけですが、要するにムルマもウランゲリをパートナーとして今年の繁殖を狙っているという可能性がありますね。 このモスコフスキー・コムソモーレツ紙は以前からモスクワ動物園の飼育現場に直接取材して素晴らしい記事を書いているのですが12月11日付の記事を見ますとモスクワ動物園では二頭の雌(つまりシモーナとムルマということですが)が産室入りしている旨の内容が報じられています。 ところが一方で ヴパドマスコーヴィエ (”В Подмосковье”) の12月11日付けの報道ではモスクワ動物園の広報部門に取材し妊娠している雌は一頭だけであるという情報を報じています。 となれば産室入りしているのはシモーナだけだということになります。 いったいどちらの情報が正しいのか、これは少し時間が経過しないとわからないかもしれません。 仮にシモーナとムルマの二頭が産室入りしているとしますとダブル出産の可能性があります。 しかしこのウランゲリとムルマという組み合わせは過去にはなかったわけで、はたしてうまくいったのかについても知りたいところです。 モスクワ動物園では 「ホッキョクグマの赤ちゃん誕生は秒読み状態」 という内容の記載をHPに掲載しています。

(資料)
モスクワ動物園飼育総括報告2005,6年度版
"Содержание и разведение белых медведей"
Polar Bear Husbandry at the Moscow Zoo - History of Polar Bears at the Moscow Zoo (I. V. Yegorov, Y. S. Davydov, Moscow Zoo, Russia)
”Reproductive Biology of Captive Polar Bears (by IGOR TUMANOV. Research Institute of Nature Conservation of the Arctic and North, St. Petersburg, Russia)”
ホッキョクグマの繁殖に関する一考察 (札幌市円山動物園)
Московский Комсомолец (Dec.11 2014 - Медвежьи новости из зоопарка: одни впали в спячку, другие - в бэби-бум)
В Подмосковье (Dec.11 2014 - Посетители зоопарка в Москве увидят детеныша белой медведицы весной 2015 г)
РИА Новости (Dec.11 2014 - Белая медведица ждет детеныша в Московском зоопарке)

(過去関連投稿)
モスクワ動物園のムルマ(1) ~ 巨体の醸し出す貫禄 
モスクワ動物園のムルマ(2) ~ 鷹揚で懐の深い母性
モスクワ動物園のムルマ(3) ~ 初産、そして訪れた危機
モスクワ動物園のムルマ(4) ~ 危機の克服、そして豪太の誕生
モスクワ動物園のムルマ(5) ~ 豪太の日本への旅立ち
モスクワ動物園のウムカ (ウンタイ – 男鹿水族館・豪太の父) 闘病生活の後、すでに死亡の模様
ホッキョクグマ出産統計から見た傾向を再確認する ~ 出産シーズンに向けての知識整理
ホッキョクグマ飼育マニュアル(Care Manual)」よりの考察(5) ~ 赤ちゃんの頭数・性別は事前予測可能か
ララの赤ちゃんたちの性別を過去のデータを用いて予想する!
男鹿水族館のクルミの出産日、出産頭数、性別を過去のデータで予想する ~ 「11月30日前後に雄か雌の一頭」
円山動物園のララの出産日、出産頭数、性別を過去のデータで予想する(前) ~ 「12月15日前後に雌の双子」
円山動物園のララの出産日、出産頭数、性別を過去のデータで予想する(後) ~ データが示すララの"女腹"
(*2014年9月 モスクワ動物園訪問記)
秋晴れのモスクワ動物園を訪問  ~  ホッキョクグマたちに御挨拶
モスクワ動物園が世界に誇るシモーナとウランゲリの名ペアの成功の理由の一端を垣間見る
ウランゲリ、その優しさ、親しみやすさ、紳士的性格に見る繁殖への道
シモーナ、そのホッキョクグマの王道を歩む姿と道のり ~ ロシアの首都に君臨するウスラーダの長女
by polarbearmaniac | 2014-12-14 23:45 | Polarbearology

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