街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ウクライナ、チェコ、ポーランド、スロヴァキアの四か国の動物園が「欧州スラヴ圏動物園共同体」を形成か?

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ムィコラーイウの動物園のジフィルカ Image:112ua

ウクライナ南部の都市であるムィコラーイウで発行されているロシア語隔日紙であるヴェチェルニィ・ニコラエフ (“Вечерний Николаев”) 紙の12月23日付けの記事にムィコラーイウの動物園のヴラディーミル・トプチィイ園長さんへの2014年の同園を総括するインタビュー記事が掲載されていますが全体にわたって実に興味深い内容を含んでいますのでホッキョクグマに関する内容について園長さんの発言を要点だけご紹介しておきます。
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このムィコラーイウ動物園では以前に飼育していたホッキョクグマのペアがそれぞれ死亡した後はホッキョクグマ不在の状態であり、希少種となってしまったホッキョクグマの展示再開には楽観的な希望をもっていなかったものの、長年にわたるモスクワ動物園との友好関係によって今年(2014年)に2歳の雌のジフィルカ シモーナが2011年暮れに産んだ三つ子の一頭) がモスクワ動物園から寄贈された (*注 - 実際には契約は「条件付無償契約 (Условия договора кабальные, не по деньгам)」 であり、付された条件は、この雌のホッキョクグマが産んだ子供の所有権は全てモスクワ動物園に帰属するというかなり厳しい条件の契約) ことを述べています。 このジフィルカがウクライナ紛争の混乱のさなかにロシアとウクライナの国境を無事通過できたことを今でも信じられない奇跡的なことだ思っているそうです。 ホッキョクグマの市場価格は15万ドルもしているため、仮に購入しようとすればムィコラーイウ動物園はその資金を集めることは到底不可能だっただろうとも語り、ジフィルカを寄贈してくれたモスクワ動物園のヴラディーミル・スピーツィン園長に感謝しているそうです。 そして現在、チェコのブルノ動物園から2歳の雄の個体を輸送する準備中であることにも触れ、この個体が生まれる以前からブルノ動物園はその幼年個体をムィコラーイウ動物園に贈ることを約束してくれていたのだという発言を行っています。 またこの個体についてはEAZAのコーディネーターがウクライナの動物園には渡したくないという意向だったものの、ブルノ動物園は過去にムィコラーイウ動物園から受けた恩恵の恩返しとしてEAZAのコーディネーターを押し切ってこの雄の幼年個体をウクライナのムィコラーイウ動物園に送ることにしたのだと語っています。 要するに人と人の信頼関係によるネットワークでホッキョクグマのような希少種を再び飼育展示できるようになったことを園長さんは強調しています。 以下のこのジフィルカがムィコラーイウ動物園で一般公開が開始されたときのニュース映像でまだ御紹介していなかったものをあげておきます。 ニュース映像の中にトプチィイ園長さんも登場しています。



さらに園長さんは続けて、自分はウクライナ国内の13の動物園が加盟している ウクライナ動物園水族館協会 (Украинская Ассоциация зоопарков и аквариумов- УАЗА) の会長に推されて就任したが、ウクライナの動物園が抱えるいくつもの問題の解決についてポーランド、チェコ、スロヴァキアの動物園から協力の申し出があると語っています。 それはスラヴ諸国の動物園の共同体構築の一環としてのものと位置付けているようです。
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ムィコラーイウ動物園のヴラディーミル・トプチィイ園長
Photo(C)Николаевское землячество в Москве

さて...このインタビュー記事ですが、要するにウクライナ南部におけるロシア系住民を読者とした隔日紙に掲載され、そしてこのムィコラーイウ動物園の園長さんもロシア系であるらしいことを念頭に置かねばなりません。 まず園長さんが言うブルノ動物園から2歳の雄の輸送準備中であるという発言は、この個体がナヌクであることを示しているのは間違いないでしょう。 ただしかしこのナヌク(とコメタ)がブルノ動物園で誕生する以前からブルノ動物園は幼年個体をムィコラーイウ動物園に贈る約束をしていたという園長さんの発言は極めて疑問に思われます。 何故かというと、ブルノ動物園は2012年暮れにコメタとナヌクの双子の誕生についてはコーラお母さんの出産成功のために助言を求めていたのはモスクワ動物園に対してであり、そしてコメタとナヌクの誕生直後からこの二頭の将来の移動先について相談したのはモスクワ動物園が全てを取り仕切っている EARAZA (Евроазиатская региональная ассоциация зоопарков и аквариумов / Еuro-Аsian Regional Аssociation of Zoos and Аquariums - ユーラシア地域動物園水族館協会) とであるわけです。 ですから最初の段階ではブルノ動物園はムィコラーイウ動物園にホッキョクグマの幼年個体を贈るような意図などはなかったということです。 ブルノ動物園から相談を受けたEARAZA、つまりモスクワ動物園は、コメタとナヌクの将来の移動先選定については自らが構築した複数園間による他種の動物の交換ブログラムの中にコメタとナヌクを入れ込んだというのが複数の状況からまず間違いのないところでしょう。 ですからムィコラーイウ動物園の園長さんがモスクワ動物園の構築した個体移動のスキームの一環としてブルノ動物園のナヌクがムィコラーイウ動物園に移動してくることに対して、ブルノ動物園を持ち上げて感謝の意を示すためにこのようなインタビュー記事の発言となったのでしょう。

ムィコラーイウ動物園の園長さんへのこのインタビュー記事の内容の中で最も注目すべきことは、チェコ、ポーランド、スロヴァキアの三か国の動物園がウクライナの動物園に援助を申し出ていることの背景にある「欧州スラヴ圏動物園共同体 (Славяно-Европейский зоопарк сообщество)」 という概念が非常に色濃く登場している点です。 つまり、チェコ、ポーランド、スロヴァキアの三か国の動物園はドイツ、フランス、オランダなどの西欧の動物園とは一線を画した独自の「欧州スラヴ圏動物園共同体」を目指そうと言う意図がありありと見えてきており、そこにウクライナを引き込もうとする意図があるのは間違いないでしょう。 EAZAとは一線を画し、そしてモスクワ動物園を盟主するEARAZAの影響力からも少々距離を置きたいという意図が見えてきます。 ウクライナに関してはロシアの動物園との協力関係は不可欠であるわけですから果たして現時点でこの 「欧州スラヴ圏動物園共同体」 構想に単純に乗っかっていくかどうかは微妙なところでしょう。 ホッキョクグマに関して言えば、その将来の繁殖を考えていけばロシアの動物園と繋がっていたほうが有利だと思われます。 そもそもポーランドとスロヴァキアにはその動物園自体が権利を有するホッキョクグマは飼育されていないわけで (ワルシャワ動物園のグレゴールとアレウトの権利はドイツのニュルンベルク動物園が持っています)、ホッキョクグマの頭数が非常に少ない「欧州スラヴ圏動物園共同体」の中では繁殖のための組み合わせは極めて限られたものとなってしまうわけです。

非常に難しい問題ですが、やはりチェコのブルノ動物園は過去の経緯はどうだったであれ、コメタとナヌクの移動先についてはEAZAのコーディネーターと協力すべきだったように思います。 ウクライナの動物園では先々が思いやられるということです。 ウクライナの動物園の現状については「ウクライナ東部、ハリコフ動物園のティムの無事を願う ~ ウクライナの動物園に蔓延した根深い腐敗」という投稿を是非再度ご参照下さい。 「欧州スラヴ圏動物園共同体」構想と言ってみたところで、やはりホッキョクグマたちは翻弄されているということです。

(資料)
Вечерний Николаев (Dec.23 2014 - Зоопарк: «отметины» 2014 года)
Николаевские новости (Dec.5 2014 - Директор Николаевского зоопарка Владимир Топчий избран президентом Украинской ассоциации зоопарков и аквариумов)

(過去関連投稿)
モスクワ動物園のシモーナお母さんの三つ子の一頭の雌がウクライナ・ムィコラーイウ動物園に移動へ
ウクライナ、ムィコラーイウ動物園がホッキョクグマの輸入許可を取得するものの立ちはだかった難題
ウクライナのムィコラーイウ動物園にモスクワ動物園のシモーナの三つ子の一頭の雌のジフィルカが到着
ウクライナ・ムィコラーイウ動物園にモスクワ動物園から到着したジフィルカを伝えるニュース映像が公開
ウクライナ・ムィコラーイウ動物園にモスクワ動物園から到着したジフィルカが元気に展示場に登場
ウクライナ・ムィコラーイウ動物園に来園したジフィルカの近況 ~ 場当たり的なEARAZAの繁殖計画か?
ロシア南部・ロストフ動物園とウクライナ・キエフ動物園との間の紛争 ~ 「ホッキョクグマ詐欺」事件の概要
チェコ・ブルノ動物園のコメタがロシア・ロストフ動物園へ ~ ブルノ、モスクワ、ロストフの巧妙な三角関係
ウクライナ南部・ムィコラーイウ動物園に来園したモスクワ動物園生まれの雌のジフィルカの人気高まる
ウクライナ南部・ムィコラーイウ動物園のジフィルカの近況 ~ ロシアの狙う自国内、旧ソ連圏内の展示充実
チェコ・ブルノ動物園のコメタとナヌクの将来への不安 ~ 忍び寄るロシアとウクライナの紛争の暗い影

(+以下、ハリコフ動物園関連)
サーカスを「引退」し余生を送るホッキョクグマ ~ ウクライナ・ハリコフ動物園のティムの夏
ウクライナ・ハリコフ動物園のティムの近況 ~ 繁殖の「過去の栄光」をどう考えるか
ウクライナ ・ ハリコフ動物園に到来した暑い夏とサーカス出身のティムの近況 ~ 同園での繁殖の歴史
ウクライナ・ハリコフ動物園のティムにとっての不安 ~ 同国の政治的混乱とハリコフ動物園の窮状
ウクライナ東部、ハリコフ動物園のティムの無事を願う ~ ウクライナの動物園に蔓延した根深い腐敗
by polarbearmaniac | 2014-12-23 15:30 | Polarbearology

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