街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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「カナダ北部のタロヨークでホッキョクグマの幼年個体が6頭射殺」 ~ 信憑性に大きな疑義のある報道内容

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タロヨーク村 Photo(C)Polarnet

二週間ほど前にカナダで大きく報じられた事件がありました。それはカナダ北部で野生の幼年個体が6頭射殺されたという事件です。 この事件について私は報道がなされ始めた当初にその内容をご紹介する形で投稿しようと考え、以下のような原稿を書き上げていたものの、実際に投稿はしませんでした。 まず当初の私の用意したこの原稿のうち、この事件の具体的内容の紹介に該当する部分(青字)のみを以下にコピーしておきます。
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カナダ北部ヌナブト準州のタロヨーク (Taloyoak) という人口800人ほどの小さな村では9月末頃から6頭ほどのホッキョクグマの一歳から二歳ほどの母親に連れられていない幼年個体がごみ箱などをあさっているのが目撃されてきたそうです。 明らかに空腹の様子で食べ物を得ようとタロヨークの街にやってきて周囲をうろつくようになってきたようです。 本来は母親と共に行動しているはずのこういった幼年個体が何故街に出没するようになったかについては、やはり母親が死亡してしまったと考えるしか他の説明がありません。

さて、この6頭のホッキョクグマの幼年個体は人間の住む家屋の窓から寝室を覗いたりなどもしていたそうですが、この村では以前からホッキョクグマが掘立小屋に押し入って貯蔵してあった食料を盗むということはしばしば起こっていたそうですが、この6頭の幼年個体も人間の住居に隣接した食糧貯蔵の小屋に入り込もうとしていたようです。 このタロヨークの村の狩猟組合の一員であるボブ・ライアルという男は、この6頭のホッキョクグマの幼年個体の存在は街にとって危険であると考え、射殺してしまったという事実を明らかにしました。 このタロヨークの村には年間25頭のホッキョクグマ狩猟枠があるそうですが今回の6頭の幼年個体のホッキョクグマはその枠から引かれることになるそうです。


....さて、何故私がこのニュースを投稿しなかったかですが、それは冷静に記事を読み込んでいきますと、その内容に大きな疑義があると感じたからです。 まずこの事件を最初に最も詳しく報じたのがカナダ放送協会(CBC) の12月10日付けの記事なのですが、この記事の最後の三分の一には “Dept. of Environment has different numbers” というタイトルが付いていますが、実はここから下の部分は後から追加されてこのニュースサイトに現れたわけです。 当初にはありませんでした。 実は後から付け加えられたこの部分にはこの村を管轄するの自然保護官の発言が引用されていますが、それによるとこの自然保護官はこの事件の幼年個体6頭の射殺についてはその事実関係を明白に把握していないことが読み取れます。 しかも狩猟枠も含めると、その数には大きな矛盾があるわけです。 仮にこの事件のように野生のホッキョクグマを射殺したならば自然保護官に報告する義務があるわけですが、それがなされていないということです。 つまり、この上の記事の狩猟組合の一員であるボブ・ライアルという男は CBC や通信社の The Canadian Press に対して、ありもしなかったことをあったかのように自慢して発言しているという大きな疑惑があるということです。 全く裏付けのないまま CBC その他の報道はこの男の発言を信じて「6頭射殺」という記事を出したわけですが、少なくとも CBC だけはこのライアルという男の発言内容が事実かどうかを後から自然保護官に裏付けをとろうとしたものの、結局はこの男の発言内容は裏付けが取れなかったわけで、報道した後になって今更「裏付が取れなかった」 と報じるわけにはいかず、窮余の手段として単にこの最初の記事に “Dept. of Environment has different numbers” から以下の文章を後から追加し、そして読者に信憑性の判断を委ねた形にするという 「逃げ」 を行ったのでしょう。 この6頭の幼年個体の村に現れた姿を撮影したという写真はありませんし、その射殺に至った状況についても何ら明らかにされていません。 このライアルという男は別のマスコミに対して射殺したホッキョクグマの肉は柔らかくで豚肉のようだったとホッキョクグマの肉を食べた感想まで語っていますが、これは明らかに話に信憑性を持たせようとして語った虚言にはよくある話です。 仮にこの男に目的があって虚言を行っていたとすれば、それは「自衛」の名のもとに事実上のイヌイットの狩猟枠の拡大を狙っていたとしか思えません。

....ということで、私はこの「事件」をご紹介する投稿をしなかったということです。 ライアルという男が語るのは単なる作り話、そして自慢話である...それが現時点での私の考えです。 ところが昨日に至って日本の時事通信はAFPの記事を引用する形で「南下するホッキョクグマ急増、温暖化で北極圏に異変 カナダ」 という記事を出していますが、その記事の中でこのタロヨークという街でのホッキョクグマの幼年個体6頭の射殺を事実と考え、それを前提とした記述を行っています。 これはやはり問題だろうと思いましたので、今回の「事件」に関する私の考え方だけは述べておきたいというのが本投稿の目的です。

今回報道されている内容は事実ではないと思いますが、このタロヨークの村に住むイヌイットには厳しい目を向けていく必要があるという点は、これは事実の領域の話です。

(資料)
CBC (Dec.10 2014 - 6 motherless young polar bears shot in Taloyoak, Nunavut)
Toronto Star (Dec.10 2014 - Polar bear cubs shot in Nunavut town)
MetroNews Canada (Dec.10 2014 - Polar bear cubs shot after entering northern town)
Brandon Sun (Dec.10 2014 - Hungry polar bear cubs shot after entering Nunavut town)
時事通信 (Dec.22 2014 - 南下するホッキョクグマ急増、温暖化で北極圏に異変 カナダ)
by polarbearmaniac | 2014-12-23 20:00 | Polarbearology

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