街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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男鹿水族館のクルミの苦戦の理由は何だったのか? ~ “The Female Bear of Uncertainty”

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クルミ (2013年5月1日撮影 於 男鹿水族館)

男鹿水族館で繁殖を期待されている明日(26日)で満18歳になるクルミですが、依然として男鹿水族館からは出産の発表がありません。 クルミの現況を伝える先日18日付けの同館の公式ブログを拝見しますと、仮にクルミが出産したならばただちに同館のHPでその事実の公表があるような雰囲気を受けましたので、本日(25日)現在ではまだ出産かないのだと解釈しておいてよいように思われます。 本日(25日)はクルミが仮に妊娠していたとすれば妊娠日数 (Pregnancy Duration / Total Gestation times) は306日目に当たります。 ロシアの生物学者であるイーゴリ・トゥマノフ氏の研究報告におけるホッキョクグマの最長妊娠日数は294日間ですので、それをもう12日間上回った状態になっているわけで、常識的に考えれば300日を超えれば今年の繁殖シーズンのクルミの出産はもう到底ないということになります。 男鹿水族館のホッキョクグマ繁殖への挑戦はまた来年に持ち越されたものと理解してよいでしょう。
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クルミ (2013年1月25日撮影 於 男鹿水族館)

さて、今年のクルミの繁殖への挑戦が何故これほど苦戦したのかということですが、トゥマノフ氏の研究報告をもとにこれを考えてみたいと思います。 あくまでもこれは、彼女が本当に妊娠していたのかいなかったのかという点を考慮せずに、純粋に妊娠日数 (Pregnancy Duration / Total Gestation times) だけに注目し、その意味するところだけを考えるという特殊で雑駁な方法によってだけで考えてみた単なる一解釈に過ぎませんので、その点だけは十分ご留意下さい。

今回の件はやはり交尾が2月22日という早い時期に行われたことに何らかの原因を求めることは大きな間違いではないと思われます。 交尾がこのあたりの日に行われますとトゥマノフ氏の研究報告では平均妊娠日数は281日間となり、そうすると11月30日がその出産可能性のピークとなります。 一方でたびたび指摘していますが、同じトゥマノフ氏の研究報告では妊娠日数 (Pregnancy Duration / Total Gestation times) の最大は294日間です。 とすると、出産可能性のピークの日の11月30日から妊娠最大日数の日までは13日間しかなかったということになります。 同じ方法で計算しますとララは約40日間もあったことになります。 私はこの日数の差に注目したいと思います。 非常に抽象的で疑似科学的な発想になりますが、この日数が短い場合には自分の心身状態の高低の周期(つまりある種のバイオリズム)を出産可能性の高まりの波に一致させることが難しくなるのではないかとも考えるわけです。 この日数が多い場合には 「バイオリズム」 を出産可能性の高まりに一致させる余裕が生じてくるのではないかと考えるわけです。 つまりクルミは実際に妊娠していたかいなかったかを問わず、13日間ではこの二つを自分の中で合致させるだけの日数的余裕がなかった...そういうことではないでしょうか。
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クルミ (2013年1月25日撮影 於 男鹿水族館)

では何故クルミには出産可能性のピークの日から妊娠最大日数の日までの日数的余裕がなかったかのと言えば、それは彼女が2月に交尾を行ったためであるということがトゥマノフ氏の研究報告の一連のデータから読み取れるわけです。 今年のララの場合は4月4日に交尾を行っていますから、実はトゥマノフ氏の研究報告から単純に計算すると本来最もララ出産の可能性の高くなるピーク日は11月28日前後であったわけです(それを彼女の過去のデータから修正を加えたのが12月15日という私の予想日だったわけです)。 そしてララの最長の妊娠日数である294日目に当たるのはなんと来年1月24日となるのです。 つまりララは11月28日前後から来年1月24日までの約40日間に自分の「バイオリズム」を出産可能性の波に合致させてやればよかったということだったのではないでしょうか。 そしてララはそれを見事に12月21日という日に合致させたわけです。 こういう解釈が成立するかもしれません、
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クルミ (2013年5月1日撮影 於 男鹿水族館)

ここ数年の円山動物園のララの例を見てみますと、2010年のイコロとキロルのお別れ会は2月20日でしたがデナリが釧路出張を終えて札幌に戻ったのは3月4日です。 そしてその二日後の3月6日からララとデナリの同居が再開され、そして最初の交尾が行われたのは3月27日です。 2012年のアイラのお別れ会は2月19日、そしてララとデナリの同居再開は3月17日、そして最初の交尾が行われたのは3月19日です。 2014年のマルルとポロロのお別れ会は3月2日、ララとデナリの同居再開は3月16日、そして交尾は4月4日です。 一方、男鹿水族館での2014年のミルクのお別れ会は1月26日、クルミと豪太の同居開始が2月22日、そしてその同じ日に交尾が確認されています。 円山動物園ではそれまでララが育児をしていた幼年個体のお別れ会のあと、ララとデナリが同居を始めたのはいずれも3月になってからですので、当然この2頭の交尾は3~4月に行われたのですが、男鹿水族館の場合はクルミが育児していた幼年個体(ミルク)のお別れ会は何と1月下旬に行われ、そしてクルミと豪太の同居再開は2月から行われるという、つまり男鹿では札幌よりも全体的に一か月も早くスケジュールが進行していたわけです。 実はこの一か月の差がララとクルミのその年の年末における出産可能性のピークの日から妊娠最大日数の日までの日数の大きな差につながっていったということになります。 しかしこの事実だけが今回のララとクルミの明暗を分けたとは言い切れないとも思うわけです。 もっと別の要素も考えてみたく思います。
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クルミ (2013年5月1日撮影 於 男鹿水族館)

海外のホッキョクグマ繁殖の実績のある動物園ではこのような類似のケースでは早々と1月からペアを同居させる場合は非常に多いわけですが、それにもかかわらず交尾は3月下旬から4月中旬に行われている場合が非常に多いわけです。 ということは、つまり問題は雌が雄を受け入れる時期は(つまり発情期が大きなポイントであるわけですが)雌が出産経験のある「大物」である場合には3月下旬から4月中旬という時期に一定している場合がほとんどであるにもかかわらず、クルミの場合は今年2014年には2月に豪太を受け入れ、そして2012年には4月になってから豪太を受け入れ(この時は4月4日、つまり今年のララの交尾日と同じ日だったわけですね)、そして2010年の釧路ではなんと1月3日にデナリを受け入れるというように、その年その年によって雄を受け入れる時期に非常に大きなバラつきがあるわけです。 2012年の場合は私は3月10日に男鹿水族館を訪問したのですが、その時クルミは豪太にとって難攻不落という感じでした。 しかしそれから約一か月もして交尾に成功し、そしてミルクが誕生しています。
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クルミ (2013年5月1日撮影 於 男鹿水族館)

こういったことから言えるであろうことは、クルミという雌のホッキョクグマの行動の予測不確実性です。 世界の「大物」の母親たちはこのような予想不確実性はほとんどないということです。 特に凄いのはモスクワ動物園のシモーナで、モスクワ動物園の記録によれば毎回毎回いつもいつも4月8~10日の僅か三日間の間にまるで判ででも押したようにウランゲリと交尾しています。 まさに 「繁殖行為三が日」 とでもいったところです。 シモーナの体内のどこかには、まるでカレンダーと時計が内蔵されているかのようです。 そしてこの4月8~10日という交尾日はホッキョクグマの出産には最も有利な期間の中の、それもほぼ真ん中付近の日というわけです。 2010年の1月初頭に釧路であの「勝負師」であるデナリはクルミの様子から判断して「ここぞ」とばかりクルミを攻略したのですが、さすがの彼もクルミの持つ「不確実性」というものの存在まではわからなかったということです。 今年の豪太にしても然りです。 問題はデナリや豪太にではなくクルミの側、つまり彼女の持つ「不確実性」にあるということです。 つまりクルミは、2~3年おきにほぼ継続的に長い期間にわたって出産を繰り返すといったような「大物型」の雌ではなく、単発的に出産に成功する「打ち上げ花火型」の個体ではないかということを意味しているように思うわけです。 秋田県が権利を持つことになるはずのホッキョクグマを産むのはクルミではなく、ひょっとして別の雌の個体となるのではないか...そういった予感が頭をかすめるような気がします。 そしてさらに言えば、札幌のキャンディの交尾は今まで全て出産成功の可能性が比較的高い時期にあのデナリとの間で行われているにもかかわらず結局は結果を出せずにいるということは、つまりキャンディはバフィンやクルミと比較すると繁殖能力は一番劣っているのではないか...そこまで考えが進んでいくわけです。 つまり、クルミが結果を出せなかった年は出産成功には比較的不利な時期に交尾されていたわけですが、キャンディは出産成功には比較的有利である時期に交尾を行っていたにもかかわらず同じく結果が出せていないからです。 バフィンについてはゴーゴの未成熟さによって結果が出せなかったという別の理由があったわけです。 更に考えを進めますと、つまりキャンディの出産成功は極めて難しく、早く繁殖の舞台から引退させた方が彼女のためであるという考え方に行きつきます。 そうなると円山動物園は早くキャンディを豊橋に返還したほうがよい..ということを意味します。 キャンディをさらに繁殖の舞台に置くのならば、イチかバチか浜松へ移動させてキロルと組ませてみる...こういうことになります。 ここまで言えば、おそらく飛躍の上に飛躍を重ねた「妄想」ということになるでしょうか。

さて、来年はクルミがいつ豪太を受け入れるのか、それに注目したいと思います。 思い切って3月中旬まで豪太との同居はさせないでおくとしたら果たして結果はどうなるでしょうか?

こういう投稿を行うと、その逆を行って案外クルミは数日中に出産するかもしれませんね。 そういった期待も込めたのが本投稿です。

(*追記 - そういえば思い出しました。 2012年の1月の大阪でのゴーゴとバフィンの同居開始のときのことです。 「大阪の冷雨の下で見たゴーゴとバフィン、同居再開4日目の姿」 という投稿をご参照いただきたいのですが、バフィンはこの時は1月に発情期があったようです。 つまりバフィンもクルミほどではないにしてもやはり「不確実性」を持った雌のような気がしますね。 しかし確か今年は3月に交尾を行ったと記憶していますので、こういった場合は比較的良い結果が出るということのような気がします。 少なくとも2月交尾の今年のクルミよりはましだったということかもしれません。)

(資料)
Reproductive Biology of Captive Polar Bears (by IGOR TUMANOV. Research Institute of Nature Conservation of the Arctic and North, St. Petersburg, Russia)
Association of Zoos and Aquariums - Polar Bear (Ursus Maritimus) Care Manual
モスクワ動物園飼育総括報告2005,6年度版
"Содержание и разведение белых медведей"
Polar Bear Husbandry at the Moscow Zoo - History of Polar Bears at the Moscow Zoo (I. V. Yegorov, Y. S. Davydov, Moscow Zoo, Russia)

(過去関連投稿)
ホッキョクグマ出産統計から見た傾向を再確認する ~ 出産シーズンに向けての知識整理
ホッキョクグマ飼育マニュアル(Care Manual)」よりの考察(5) ~ 赤ちゃんの頭数・性別は事前予測可能か
男鹿水族館のクルミの出産日、出産頭数、性別を過去のデータで予想する ~ 「11月30日前後に雄か雌の一頭」
円山動物園のララの出産日、出産頭数、性別を過去のデータで予想する(前) ~ 「12月15日前後に雌の双子」
円山動物園のララの出産日、出産頭数、性別を過去のデータで予想する(後) ~ データが示すララの"女腹"
旭山動物園のサツキとルルの出産に関して過去のデータで予想する ~ 二頭が挑戦する 「世界~」 の壁
モスクワ動物園のムルマの2003年の繁殖挑戦を振り返る ~ 5月の交尾で出産に成功したムルマとララ
男鹿水族館のクルミ、産室内外にて元気に過ごす ~ 出産の実現と成功が極めて困難な情勢か?
by polarbearmaniac | 2014-12-25 23:45 | Polarbearology

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