街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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今年2014年のホッキョクグマ界を振り返って ~ 世界のホッキョクグマ界における日本の現在の位置確認

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デナリ (2013年9月15日撮影 於 円山動物園)

昨年の年末に「今年2013年の日本のホッキョクグマ界を振り返って ~ 漠然とした期待感の中で封印されてきたもの」 という投稿で2013年の日本のホッキョクグマ界を振り返るということを試みました。 今年2014年については、日本を含めた世界のホッキョクグマ界を回顧してみたいと思います。 そうすることによって日本のホッキョクグマ界の置かれた状況をあぶり出してみたいと思います。

今年の世界でのニュースのうち私の見たところ最も意味深いと思われるのは、オランダ・レネンのアウヴェハンス動物園の当時15歳の雄のヴィクトルが欧州における繁殖の舞台から「強制引退」となりイギリスのヨークシャー野生動物公園に移動したことだと思われます。 今年の世界のホッキョクグマ界の最も大きなニュースといえばこれに尽きるでしょう。

欧州は近年、EAZA (European Association of Zoos and Aquaria) の希少動物繁殖計画 (EEP - European Endangered Species Programme) に基づくホッキョクグマの繁殖計画によって域内における繁殖組み合わせ選定や移動を行っており、かなりの成果を挙げてきたわけです。 ところが誕生する幼年個体の多くが特定の血統 (lineage) に偏ってくるという顕著な傾向が見られ始めたわけです。 私が俗に「ロストック系」と呼ぶその血統グループなのですがドイツのロストック動物園の雄の故チャーチルと彼の二番目のパートナーである雌のヴィエナとの間に誕生した6頭の子供たちのうち雌のヴィクトリア(現オールボー動物園)が1頭、雄のヴィクトル(現ヨークシャー野生動物公園)が12頭、雌のヴィルマ(現ロストック動物園)が2頭、雌のヴィーナス(現ラヌア動物園)が1頭、雌のヴァレスカ(現ブレーマーハーフェン臨海動物園)が1頭と、それぞれ繁殖に成功しているわけです(今年誕生の個体を含みます)。 特にその中で雌のヴィルマ、ヴィーナス、ヴァレスカの三頭はその年齢から言ってこれからもかなりの回数繁殖に成功すると予想され、この「ロストック系」の勢力拡大は留まるところを知らないといった状態です。 こういう事態になった欧州は、この「ロストック系」のうちその時点ですでに10頭 (今年誕生した個体を含めれば12頭) の父親となっている当時15歳の雄のヴィクトルを繁殖の舞台から退場してもらうという決断を行ったというわけです。 これは、いわゆる域内においてホッキョクグマの頭数維持・確保を優先順位の比較的上位に置いて行って成功してきた欧州の繁殖計画の「第一ステージ」が、今度はその同一血統規模の調整という新しい「第二ステージ」の段階に突入したことを示すわけです。
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(2013年9月7日撮影 於 円山動物園)

さて、一方で我々の日本ですが依然として国内における頭数確保を目指すという従来の考え方が維持されているのはある意味で当然ではあるものの、繁殖計画として意味があったのは2011年2月18日の共同声明(以下、「2011声明」と略します) とそれに続いた単発的な移動があったにすぎません。 この「2011声明」のインパクトは実に強烈であり日本のホッキョクグマ界の「革命」とでもいったものでした。 そしてこの「2011声明」の遺産で「食いつないてきた」 のが今年までの日本のホッキョクグマ界の現状なのです。 欧州における「ロストック系」の血統に類似したものを日本では俗に「デナリの血」という言い方で呼ぶわけですが、「2011声明」が発表された段階で当時の「ホッキョクグマ繁殖検討委員会」の座長であったF氏は記者の質問に答えてこう言っています。

「デナリとララ以外の血統をより広げていくことも必要であると認識しておりますが、今の状況はそうは言っていられない状況でもあると認識しています。繁殖可能なうちに実績のあるデナリに期待したいと思います。」

つまり依然として国内の頭数維持が先決であるという認識ですが、それは今年2014年となっても同じ状態のように思われます。 つまり日本のホッキョクグマ界は国内における頭数維持・確保という「第一ステージ」の段階であり、しかしその段階ですら依然として、もがき苦しんでいる...そういう状態です。 デナリの繁殖の舞台からの「強制引退」はやはり難しいだろうと思います。 そして他血統の頭数を増やすことも今まで以上に急務であることは当然であるわけです。 今年の2月の段階で私は「存在感の希薄な『ホッキョクグマ繁殖検討委員会』の昨今を憂う ~ 『共同声明2014』」 は出るのか?」 という投稿を行いましたが、来年2015年には今年2014年の繁殖結果を踏まえて、「2011声明」 を越えたまた新しい「声明」によってホッキョクグマの移動はどうしても必要だろうと思っています。 欧州は「第二ステージ」に突入したものの日本のホッキョクグマ界では「第一ステージ」はまだスタートしたばかりであるというのが現時点における我々の立ち位置ではないでしょうか。 我々ファンの側もその意識を前に進めていかねばならないと同時に動物園関係者を応援していかねばならないということだろうと思います。

(過去関連投稿)
オランダ・レネン、アウヴェハンス動物園のヴィクトルが15歳の若さで繁殖の舞台から「強制引退」か?
オランダ・レネン、アウヴェハンス動物園のヴィクトルがイギリスのヨークシャー野生動物公園に無事到着
イギリス・ヨークシャー野生動物公園のヴィクトルは繁殖の舞台から「強制引退」 ~ 欧州の重大な転機
イギリス・ヨークシャー野生動物公園のヴィクトルの姿 ~ 「飼育下の集団の維持」について
存在感の希薄な「ホッキョクグマ繁殖検討委員会」 の昨今を憂う ~ 「共同声明2014」 は出るのか?
by polarbearmaniac | 2014-12-29 14:00 | Polarbearology

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